【短編】
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「何か小平太最近変じゃねぇか?」
留三郎が食堂で一緒になった長次にこう問いかけた。
ランチに目を向けていた長次が"何故分かったんだ"と言いたげに顔を上げる。
「だってよ、物の破壊が明らかに減ってるし…体力の有り余り具合は変わらないんだが、塹壕掘った後わざわざ俺に報告に来るんだぜ?今までなら気ままに掘りっぱなしで放置だったのによ」
長次がこくりと頷いた。
「まぁ、後は自分で穴埋めてくれりゃ言うことないんだけど」
と留三郎は付け足したところで、本人が食堂に顔を出した。
「長次ー!!あ、留三郎もいた」
「いたら悪いか」
「ま、いーや、ついでに聞いてくれ」
「ついでかよ」
「茶々子ちゃんをでぇとに誘いたいんだが、どうしたら良いと思う?」
「!?!?!?」
表情の変わらぬ長次に比べ、留三郎は度肝を抜かれたような顔をした。
「はぁ!?こっ小平太がっ、で、でぇと!?嘘だろ!?どういうことだ長次!茶々子ちゃんとやらは本当に存在するのか!?」
長次がゆっくりと頷いて見せると留三郎は「マジか……」と呟いた。
「んー、今日の留三郎は何かうるさいぞ?で、どうだ?どこか誘うのに良い場所はあるか?」
それを聞いて長次がもそもそと何かしゃべると小平太は「分かった!じゃあ行ってくる!」と言って食堂を飛び出して行った。
「えっと?長次、何て言ったんだ?」
嵐が過ぎ去った後、留三郎が改めて長次の方を見た。
「……小平太の好きな場所に連れていけと」
「それ、大丈夫なのかぁ?」
眉をひそめた留三郎に対し、長次は表情を変えぬまま再びランチを食べ始めた。
*****
小平太は茶々子の働くいつもの茶屋へ走って行った。すると店先で掃き掃除をする彼女が見え、叫ぶ。
「茶々子ちゃーん!」
小平太に気がつくといつも通りの笑顔を見せてくれる。
「あ、小平太くん。こんにちは」
自分の名前を呼んでくれる彼女の声が本当に可愛い。
「今日は匍匐前進じゃないんだね」
クスクスと口元を押さえて控えめに笑う彼女も本当に可愛い。
「今日はすぐ会いたくて!!」
彼女を真っ直ぐに見てそう告げると茶々子の桜色の頬がより赤らんだ。
「…っ、でぇと、しよう!!」
「へっ?い、今から?」
茶々子がちらと店内に目をやると、それに気が付いた店主が「行っておいで」と合図した。彼女は軽く頭を下げると持っていた箒を片付けに行った。
戻ってきた茶々子は少し恥ずかしそうに視線を落として言った。
「あの、こんな格好で良いのかな」
仕事終わりで何も着飾っていないことを気にしているようだが、小平太にとっては何でも良かった。彼女と一緒に出掛けられるというだけで十分嬉しいし、そのままの彼女でも十分可愛くて大好きだった。
「良い、可愛いから!」
そう答えてから茶々子をひょいと抱き上げ、そのまま走る。
「えっ、えっ!?小平太くん!?」
驚いた彼女の戸惑いを置いてきぼりにして小平太はひたすら走った。町を抜け、山をかけ登る。風に揺れた彼女の髪から茶の匂いがした。好きな匂いだ、と小平太は思った。
「とーうちゃくっ!!」
山のてっぺんまで来て止まると、はたと彼女の顔があまりにも近いことに気が付いた。
「あ……」
急に恥ずかしくなって茶々子をそっと下ろした。彼女も黙ったままだった。
小平太は説明もなしに勢いで連れてきてしまったことを、今さらながら反省した。初対面での失敗が思い起こされる。
「ごめん急に連れ出して……ここ、私が一番好きな場所なんだ。だから、その、君と一緒に見たくて…」
言い訳じみたことを独り言のように呟きながら彼女を伺い見ると、茶々子はにこりと笑いかけてくれた。
「うん。すごく素敵。風が気持ち良くて、空が近くに感じるね」
それから彼女は少し興奮気味に言葉を続けた。
「そらから来るまでの道もとっても楽しかった!すごいね小平太くん。私抱えながら険しそうな道もすいすい走り抜けちゃうの」
勢いに任せて連れてきてしまったが、彼女が喜ぶ顔が見られ小平太はホッとした。
「でも……」
そう茶々子が続ける。
「帰りは自分で歩きたいな」
「本当は抱えられるの嫌だった?」
「ううん。だって小平太くん速いから、簡単にすぐ降りられちゃうでしょう?」
「え、うん」
「……私、小平太くんともっと長い時間一緒にいたいから」
恥ずかしそうにそう言ってくれた茶々子がもう本当に本当に堪らなくて、小平太は込み上げてくるものを押さえられず、彼女に背中を向けて、こう叫んだ。
「好きだーーーーーーっ!!!」
ちらと振り返ると顔を真っ赤にした茶々子が両手を胸に当てているのが見え、小平太は彼女と気持ちが通じ合ったことを理解した。
それから、小平太の叫んだ声が辺りにこだましていることに気付き、ふたりは顔を見合わせてしばらく笑っていた。
「君とでぇと」終
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【あとがき】
読んでいただきありがとうございます。
短編の3人の話はそれぞれ続き書きたいなーと思いながらもそのまま放置していたのですが、今回ありがたいことに小平太リクエストいただきまして、調子に乗って一気に書き上げてしまいました!
楽しんでいただけたら幸いです。