【短編】
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「今日は病人が寝てるからそっと入ってね」
伊作が一言添えてから医務室の戸を開ける。
今日は恒例の忍術学園を訪問する日だ。実家が薬売りの茶々子は、こうして月に一度薬や薬草を届けに来ている。
医務室に入ると衝立が見えた。この向こうに病人がいるのだろう。茶々子はできるだけ音を抑えながら荷を開けた。
「今日は、いつものこれとこれ。あと大和の葛がたくさん手に入ったから、おまけね」
「ありがとう。この時期は風邪引く人が多いから助かるよ」
伊作がちらりと衝立の方を見やった。
「その人も風邪?」
「うん。あ、文次郎なんだけど、この寒いのに池で寝るから」
「えー、文ちゃんそんなことしてるの」
「しょっちゅうだよ。普段はこのくらいじゃ問題ないんだけどまぁ今回は、予算会議とかあって疲労が溜まっていたんだろうね」
「……そうなんだ」
彼女が文次郎の方を心配そうにじっと見た。
「そうだ、このあと急ぎじゃなかったら、少し文次郎を看ていてやってよ。僕は新野先生に報告して薬のお代を用意してくるから」
「うん、もちろん」
伊作が医務室を出ていくと、茶々子は衝立の向こうに行って文次郎の存在を確認した。
呼吸が荒く、たまに苦しげにゴホゴホと咳をしている。茶々子は文次郎の額に手を当てた。
「まだ、熱上がりきってないかな」
「…………茶々子?」
文次郎が目を開けて茶々子を見た。
「文ちゃん。ごめん、起こしちゃったね」
「いや、いい。それよりなんでここにいるんだ?」
「恒例の訪問日」
「あー、今日だったか」
「うん。文ちゃん、葛湯飲める?今日は葛持ってきたの。食堂借りて作ってくるよ」
茶々子が立ち上がろうとすると、文次郎が手首を掴んだ。
「後でもらう。今は、ここにいろ」
「ふふっ、寂しいの?」
茶々子は再び座ると嬉しそうに笑った。
「バカタレ。しんどいんだよ。お前が何かしゃべってくれると気が紛れて良い」
「なんか、小さい頃思い出すね。文ちゃんが風邪引いたとき、私薬もって看病しに行ってたっけ」
「……そうだったな。そういえば茶々子は昔から風邪引かないな。何故だ?バカだからか?」
茶々子がむくれる。
「何よー、失礼ね。私は自己管理を徹底してるの。ちゃーんと予防してるからよ。薬売りが倒れてたら説得力ないじゃない」
「……意外としっかりしてるな」
文次郎は力なく笑った。さすがの彼も風邪を引いていると弱るらしく、いつもの勢いがない。茶々子は不安げに彼を見て、手を握った。
「ねぇ、文ちゃん。あんまり無茶しないでよ。文ちゃん死んじゃったら、私嫌だよ」
茶々子の目は潤んでいた。
「風邪くらいで大袈裟だ」
「万病のもとって言うでしょ?こじらせたら大変なんだから、早く治して」
「分かったよ。じゃぁ寝る」
文次郎が目を閉じた。
「茶々子がいるなら、俺は死ねないよ」
「どういうこと?」
「こんなことで泣いてるようじゃ、ひとりにしておけないだろ」
「……それ、もしかして口説いてくれてるの?」
「バカタレ」
そう言うと、文次郎は茶々子と手を握ったまま寝息を立てはじめた。
茶々子は先程の文次郎の台詞を頭の中で反芻させ、胸をときめかせた。
「ふふっ、嬉しいな……文ちゃん、大好き」
ぽつりと独り言を言うと、茶々子は文次郎の額に手を当てた。
「熱、上がりきったかな」
茶々子は伊作が準備しておいてくれた手拭いを水の入った桶に浸けて絞り、「早くよくなりますように」と言って額に置いた。
*****
「仙蔵、今日は邪魔しないんだね」
医務室の前で入るタイミングをうかがっていた伊作は、文次郎の様子を見に来た仙蔵に小声で話かけた。
「私をなんだと思ってるんだ。さすがに病人に鞭打つマネはしない。今日くらいは良いだろう」
仙蔵はそう言うと、自室へ引き返した。
「風邪は万病のもと」終
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【あとがき】
読んでいただきありがとうございます。
看病ネタは鉄板。
文次郎と幼馴染み、また書きたいなーと思っています。