【短編】
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「こんにちは。文ちゃんいますか?」
潮江文次郎の同い年の幼馴染みである茶々子は忍術学園を訪れた。実家が薬売りをしている関係で度々学園の医務室にきているので、教師や忍たまとも顔見知りだ。今日は薬売りとは別件、文次郎に実家からの届け物を渡しにきたのだ。
「あ、茶々子ちゃん、良いところに!今、面白いもの見られるからおいで」
保健委員長の伊作が手招きをする。
「伊作くん、どうしたの?」
伊作は忍たま長屋まで案内すると、文次郎の部屋の戸をそっと開けた。誘われるままに中を覗き込む。
「あっ!」
「うわっ!!!」
中で女装の練習をしている文次郎と目が合った。
「えー、文ちゃん!かわいい!!」
茶々子が嬉しそうに言った。
(かわいい!?どこが!?)と伊作は思うのだが、茶々子にとっては文次郎が何をしていても好きなのだろう。これまでの彼女の言動を見ていれば、大抵の人間は気がつくことだ。文次郎本人を除いては……
「はっ!?茶々子!?いや、なんで!?あ、この、伊作、おまえーーっ!!」
「はは、僕は案内しただけだよ、文次郎。じゃあ茶々子ちゃん、ごゆっくり」
伊作はそう言うと、手を振って足早に退散した。
「茶々子、何しに来たんだ?今日は薬売りじゃないだろ?」
明らかに不機嫌な文次郎を、茶々子はまるで意に介さず、部屋に入る。
「わぁ、私が来る日覚えててくれてるの?嬉しいなぁ」
「バカタレ!毎月来てれば覚えるわ!で、何しに来た」
「うん。今日はね差し入れ!近くに来る用事があったから文ちゃんちに頼まれたの。はい、これみかん」
「あぁ、ありがとう」
文次郎は荷物を受けとると風呂敷を開けてみかんをひとつ取り出し、「せっかくだからひとつ食ってけ」と茶々子に手渡した。
「ありがと。ねぇねぇ、文ちゃん?」
茶々子がみかんを剥きながら、言った。
「せっかくだから、その格好で一緒に町に行こう?」
「はぁ!?誰が行くか!まだ未完成だし、そもそもこれは練習なんだ」
「女装苦手なの?まぁ文ちゃん男らしさがすごいもんね。クマもあるし……じゃあさ、私手伝う!やらせて?ね?もっと可愛くする自信あるよ」
文次郎は、勢いに任せて迫ってくる茶々子に思わず承知せざるを得なかった。
茶々子はみかんを食べてから、手を拭くと、文次郎の顔に触れた。
「まず、男らしい部分を隠そう。眉整えて、頬骨とクマも目立たないように……」
ひとりごとを呟きながら真剣かつ丁寧に取り組んでいく。文次郎は戸惑いながらも、口を挟むことができずに黙って受け入れていた。
「うんうん、だいぶ良くなった。こんな感じで、最後は紅を……」
茶々子はちょんちょんと指先に紅を乗せ、文次郎の口許へと持っていった。
「お、おい。それはさすがに…」
茶々子の指が唇に触れそうになると、さすがの文次郎も若干の抵抗を見せた。
「ふふ、なんで?恥ずかしい?」
茶々子は悪戯っ子のように笑ったが、妙に妖艶な笑みだった。文次郎はいつもと違う雰囲気の彼女にどきりとした。
茶々子は遠慮なく文次郎の肩に手を掛けてのしかかる。
「……茶々子?」
「文ちゃん、私……」
「はい、そこまでー!!」
すぱーんっと部屋の戸が開け放たれた。
「せ、仙蔵!!」
「こんなところでそんな格好でいちゃつくんじゃない。ここは私の部屋でもあるんだぞ」
仙蔵が腕組をして立っていた。
「べ、別にいちゃついていたわけでは!」
「……仙蔵くん、間が悪いなぁ」
「ふん、残念だったな茶々子。文次郎はギンギンに忍者してる鍛練バカだぞ。そう簡単に手を出せると思うなよ」
「簡単じゃないのはわかってるよ、もう!」
仙蔵と茶々子の不穏な空気に、文次郎は(なぜこのふたりはこんなにも仲が悪いのか)など的はずれなことを考えていた。
「じゃぁ、今日はもう行くね」
「え?町に行きたいんじゃなかったのか?」
茶々子は指に付いた紅を自分の口許に乗せると、
「うん、まだ用事あるの思い出したの。またね、文ちゃん、仙蔵くん」
と手を振って帰っていった。
文次郎は先程の茶々子とのやりとりを思い出し顔に熱が昇るのを感じたが、誤魔化すように頭をぶんぶんと振った。
「文次郎、顔が赤い。頬に紅を乗せすぎだ」
仙蔵が呆れた顔でそう言った。
「文次郎と幼馴染み」終
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【あとがき】
お読みいただきありがとうございます。
鍛練バカの文次郎と落としたい幼馴染みでした。
仙蔵がちょっと意地悪なのは同室(親友?)を取られるのが寂しいんじゃないかな。
ふたり(3人?)の戦いはまだまだ続く!かも?
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