【番外編】男なんざ!
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兵助は悩んでいた。
進級前、勢い余って志乃に想いを告げたが玉砕。その後なんとなく気まずい時を過ごし、志乃はくのいち教室へ進級してしまったので会話もろくにできずにいる。
自分としては、以前のように話くらいはできるようになりたいのだが、虫の良い話だろうか。
ーー兵助、そんな風に想ってくれてありがとう。私も兵助が好きだよ。一緒にいる時間はとても心地良い。けど、将来は約束できないな。私は今、自分のことで手一杯。記憶が戻って、いろんなことがあって……これから自分の生き方を考えたいんだ。だから、ごめんね。
志乃にはそう言われた。
あのときはフラれたことで頭が一杯だったが、一応「好き」だとは言われたんだよな……
八左ヱ門が言っていたように、「言い方次第では恋人くらいにはなれたんじゃ」という考えが今更ながら巡ってきた。
でも今更だし、最高学年になり先を考えなければならない立場で色恋などにうつつを抜かしている場合ではない。ただ、この状況は精神的に苦しい。しかしさほど自分が器用な方でないことも分かってはいるので、とりあえず友人に戻る、くらいが落とし所だと思う。
しかし、どうきっかけを作るか。
豆腐を食べてもらう?
いや、いきなりおかしいだろ。
茶屋に誘う?
いや、どうやって。
勉強を見てやる?
いや、頼まれてないのに図々しすぎる。
「おーい、兵助?聞いてる?」
勘右衛門が顔の前で手をひらひらとさせていた。
「え、あ、なに?」
「このあと町に行こうよ。志乃も来るから」
「へ?志乃?な、なんで!」
「なんでって……さっきそこで会って、ランチ食べ損ねたって言うから、おすすめのうどん屋に連れていこうかと思って」
「そ、そうなの?」
「あと、町にあまり行ったことないらしいからうどん食べたら色々案内してやろうよ」
「俺も、行って良いの……?」
「そりゃ、みんなで行こうと思ったから誘ったんだけど……」
勘右衛門は少し間をおいて考える仕草をすると、急に兵助の両肩をバシバシと叩いた。
「そうだー!俺、このあと学級委員の仕事があるんだったー!みんなも忙しいみたいだ!よし、兵助!お前ひとりで志乃と行ってこい!それが良い!店わかるよな、頼んだ!」
「え、か、勘右衛門!?」
「支度できたら門の前で待ち合わせてるから!じゃ!!」
そう言い残し、勘右衛門は足早にその場を離れてしまった。
*****
「兵助ー、ひさしぶり」
志乃の声が聞こえ振り向くと、そこには想像していたものとは違った姿の彼女がいた。
「え?う、うん。あの、志乃、その格好……」
「ん?あぁ、さすがにもう男装は必要ないかと思って」
「あ、はは、そうだよな」
確かに志乃はもうくのいち教室にいて、本名も明かになり、男装するとしたら必要な忍務くらいだ。本人的にはやはり普段の格好が楽だろう。
しかし、兵助にとってこの状況は緊張の種でしかなかった。なぜか以前の男装姿を想像していただけにその反動は大きかった。
「兵助?みんなは?」
志乃の声ではっとした。
「ふぇっ!?あ、あぁうん。なんかみんな忙しいらしくて。勘右衛門も委員会だとかで」
どう見ても挙動不審な兵助なのだが、志乃は気にすることなく笑いかけた。
「そっか。じゃぁ兵助、ふたりで行こう」
「お、おう」
門を出て、町へ向かいながら志乃が言う。
「ね、兵助。私、男装した方が良かった?」
兵助は、気を遣わせたと思い大袈裟にぶんぶんと頭を横に振った。
「いやっ!そのままでいい、大丈夫!可愛いから!!」
勢いで思っていたことをそのまま口にしてしまったこと後から気がつき、兵助は手で口を塞いだ。志乃をちらりと見やると目を丸くしていたが、くすくす笑い出す。
「ふ、ふふ、ありがとう兵助」
「あ、いや……本当に、似合ってるよ」
「兵助ー、私の"女装"、上手くなっただろ?」
兵助は五年時の志乃が初めて"女装"したときのことを思い出した。たしかあのときは最初化粧もせずそのままだったのだ。しぶしぶ化粧したかと思ったら厚化粧で、三郎に直されていたっけ。
「そういえば、最初はひどかったな」
「だよね、今ならわかる」
ふたりで顔を見合わせて笑った。
それからというもの、兵助も志乃もどちらともなく会話が自然に出て来て、途切れなかった。うどんを食べ、町を散策し、流行りのものを見、お互いの近況や友人や先生の話、勉強や鍛練について、過去や未来のことをたくさん話した。
「なぁ、まだ腹余裕ある?」
「うん、あるよ」
「じゃぁ、最後に団子食べて帰ろう」
茶屋で団子をふたり分頼み、店先に腰かけるとふたりは黙った。しかしこの沈黙も決して気まずいものではなく、ふたりに纏う空気は柔らかく、互いに居心地の良さを感じていた。
兵助は思った。
俺、やっぱり……
「好きだ……」
「兵助……」
またも思いが口に出ていたことに気付いたが、今度は慌てなかった。
「俺、志乃と一緒にいるこの時間が好きだ」
志乃は黙って兵助を見ていた。
「だから、またこうやってたまに出掛けたりしよう。皆とも。学園でも鍛練とか勉強とか時間が合ったらやろう。あ、もちろん志乃が嫌じゃなければ、だけど」
志乃が眩しいくらいの笑顔を見せた。
「嫌なわけないよ」
欲を出せばキリがない。
ただ、こうして近くにいられるうちは、手の届かないところに行くまでは、繋がっていたい。
本当に望む形ではなくとも。
「今日、兵助と町に来られて良かった。ありがとう」
自分がもんもんとして過ごしていた日々が、志乃にとって少しでも自分に近い気持ちだったら良いと、兵助は思った。
「気まずい彼女の誘い方」終
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【あとがき】
読んでいただきありがとうございます。
兵助の気持ちが少しだけ報われるおはなしでした。報われた?かな?
兵助はきっとこのあと勘右衛門に根掘り葉掘り聞かれる(笑)