【番外編】男なんざ!
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「うちの奥さんは可愛すぎると思わないか」
またか、と高坂陣内左衛門は思った。
我が組頭は結婚後、ことある毎に惚気てくる。
決して気が緩んでいるわけでもなく、忍務には全くといって影響がないのが不思議なくらいだ。
「…はい、そう思います」
確かに志乃は美人だ。気立ても良い。ただ"可愛い"かというと少し違う気がする。彼女には男気というかたくましさがあって、武術の筋も良い。彼女がタソガレドキにいた際、主に長物の稽古をつけていた陣内左衛門は志乃の"可愛さ"を見たことがないのだ。
「普段すましているのに、私の前だと少女のように笑うんだ。この意外性がまた良い。可愛すぎる。おまけに武術の腕も立つし、かっこよさも兼ね備えているなんて、そんな女性はなかなかいないよ。性格も真っ直ぐで努力家で、もうどこをとっても完璧だ。ついでに彼女の淹れる茶も美味い」
もう耳にタコができそうである。
「は、はぁ」
妻の魅力を熱弁する我が組頭の方が自分の知る志乃よりよっぽど"少女"だと思いながら、陣内左衛門は頷くしかなかった。山本陣内に言わせると、「あれは反動だよ。長年抑え込んでいたものが解放されたんだ」とのことだった。
「そこで陣左、頼みがある」
急に真面目な顔つきになり、陣内左衛門は気が引き締まった。忍務だろうか。
「はっ」
「私が忍務でここを離れる間、妻を見舞ってくれないか」
「はい?」
「あれだけの美しさで、周りの男が放っておくわけないだろう?なにか間違いがあってはいけない」
「いや、あの、組頭。彼女なら自分でなんとかできるのでは?これまではそうでしたよね」
「うん、普段ならそうなのだが……今、彼女身籠っていてね」
昆奈門が少し気恥ずかしそうに言う。先程まではなんの恥ずかし気もなかったのに、この違いはなんなのだろうかと陣内左衛門は思った。
「えっ!!!そ、それはおめでとうございます!!」
「ありがとう。まぁ、そいうわけでひとつ頼む」
「もちろん、組頭の命とあらば行きますが……尊奈門は?たしか彼女と親しかったですよね」
「尊奈門は親しすぎる」
「???」
「とにかくよろしく、陣左」
「承知しました」
よく分からないが、頼まれたからにはしっかりと務めを果たさねばならない。
*****
「あ、高坂さん。ご無沙汰してます」
家から出てきた志乃は、少しふっくらとしたが変わらず美しかった。
「お久しぶりです。祝言以来でしょうか」
知らぬ仲ではないが、一応組頭の奥方になった人ではあるので、陣内左衛門は言葉を選んだ。
「そんな畏まった話し方やめてください。高坂さんは私の師匠も同然なんですから。尊くんだって私に敬語使いませんよ」
「ん、そうか」
「どうぞ、あがってください。お茶淹れるので待っててくださいね」
「いや、その身体でそんなに気を遣わないでくれ」
陣内左衛門が身重の女性をどう扱ったら分からず、慌てると、志乃は何でもないように笑った。
「大丈夫ですよ、これくらい。心配いりません。それより、高坂さんにもぜひうちのお茶飲んでいただきたいんです」
そう言って、陣内左衛門を家に上げると、志乃はいそいそと台所で準備を始めた。
なんか志乃がすごく奥さんっぽいな……
と変な感慨にふけっているうちに彼女がお茶碗と茶菓子をもって来た。
「どうぞ。梅と昆布のお茶です」
想像していた茶と違うものが出てきて驚いたが、飲んでみると塩気と酸味が程よく旨味が口の中に広がった。
「あ、美味い」
「でしょ?出汁用の昆布とうちの梅干しに湯を注いだものなのですが、疲労にも良いし、甘いものともよく合うんです。羊羮と一緒にどうぞ。これは、もらいものですけど」
陣内左衛門は茶のおかげで力が抜けたが、組頭の奥方にもてなしてもらってばかりでは務めを果たしたとは言えない。茶と茶菓子とをいただいた後に、ぴっと姿勢を正した。
「なにか、困っていることはないか?手伝うことなどあれば…」
志乃は困ったように笑って首を振った。
「特にないですよ。体調も良いんです」
「変な者に絡まれたりは」
「ありません」
「しかし組頭があまりに気にされるので」
"組頭"と聞くと志乃は少し頬を赤らめた。
「もう……けっこう心配性なんですよね」
「私から言うのも変だが、志乃のことが可愛くて仕方がないのではないかと。結婚以来、よく嫁自慢をされる」
「自慢、ですか?」
陣内左衛門はいつも聞かされていることをそのまま伝えてみた。すると志乃の顔はますます赤くなり、彼女は恥ずかしそうに手で顔を覆った。
「も、もう勘弁してください……」
なるほど、この反応は"可愛い"と言えるかもしれない。
「組頭が言うんだよ。もう何度も言われて覚えてしまった。あぁ、そういえば見舞いなら尊奈門を行かせてはと提案したのだが、親しすぎるからだめだと言われたんだ。どういうことだろうか」
「あー……それは根に持ってるんです」
「なにを?」
「結婚前、尊くんに包帯の巻き方とか好みの雑炊とか、教えてもらうために昆奈門さんに内緒で何度か会っていたんです。それが嫌だったみたいで」
「それは、組頭が尊奈門相手に妬いてるのか」
「あは、そうなんです。それはそれで、幸せなことですけどね」
「幸せか」
「はい。幸せです」
志乃がはっきりとそう言って膨らんだ腹に手を当て、「あ」と小さく叫んだ。
「どうした?」
「ふふ、今すごく動いてる」
「腹の子が?」
「はい。良かったら触ってみませんか?」
急な申し出に驚いたが、興味はあった。
「私なんかが、良いのだろうか……」
「もちろん。この子の父上の大切なお仲間ですから。それに、たくさんの方に触れていただけると力を分けてもらえるようで嬉しいです」
志乃は陣内左衛門の手を取ると重ねて腹に当てた。すると、ぐにっと腹が内側から押される感触がした。
「うわっ!え!これ、今蹴ったのか?今のは赤子の足だろうか?」
「高坂さん、反応が昆奈門さんと同じ!」
志乃がくすくすと笑いだす。
「いや、誰だってそうなるだろう。不思議だ。痛くはないのか……?あ、また動いた!」
陣内左衛門は志乃のにこにこと微笑む顔を見ていると、腹を愛おしげに撫でる昆奈門が容易に想像できた。
これは、組頭も本当に幸せそうだ。
その後、ちょっとした荷物を移動したりと簡単な手伝いをして気がつくと帰る時間となった。
「今日はお見舞いいただき、ありがとうございました」
「いや、大したことできなかったが」
「いいえ。大したことしていただけました。お話も聞けて良かったです。これからも夫をどうぞ支えてください」
「勿論。では、また」
陣内左衛門と志乃は互いに深々と礼をして別れた。
*****
「なぁ、尊奈門……結婚っていいな」
「なんですか、急に。どうしちゃったんですか?高坂さん」
「なんだ、陣内左衛門?結婚したいのか?」
「結婚のススメ」終
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【あとがき】
読んでいただきありがとうございます。
夢主想定妊娠8ヶ月くらい。きっと実家(梅の香城)からも色々お祝いやお見舞い来てる。あと、仙蔵もたまに来てる(笑)
最後の台詞は山本小頭です。烏帽子親ですから、息子同然の陣左の行く末はきっと気になりますよね。世話焼いて誰か紹介したりしそう。