【番外編】男なんざ!
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「志乃姉様」
「姫様、その姉様というのはあまりよろしくないかと…」
梅の香城主の一人娘であるはる姫は志乃の従妹にあたる。とはいえ、梅の香城忍衆に属する志乃としては主たる身分のに"姉"などと呼ばれるのは気がひけるのであった。
「だって私には兄弟がいないんですもの。貴女も養子の件を断ってしまうし…従姉なのだからそれくらい良いでしょう?」
こんな風に可愛さを全面に出してねだってこられると、つい言うことを聞きたくなってしまう。
「……では、ふたりきりのときだけで。皆の前ではダメですよ」
「わかりました、志乃姉様」
改めてそう呼ばれると、やはり嬉しい気持ちがじわじわと沸いてきて口許が緩む。姫は父も母も失った自分にとって数少ない身内なのだ。
「ところで姉様。仙蔵と親しくなるにはどうしたら良いでしょう?」
「……どう、とおっしゃられても」
姫はずっと前から仙蔵のことを好いている。忍術学園を卒業する前からだ。傍目から見ても明らかなので父親である城主ですら知っている。しかしその身分の違いゆえに、周りもお膳立てなどできず、仙蔵も微妙に距離を取っていた。
「もう、固いんだから!分かっているわ、一城の姫と忍が結ばれることないくらい。それでも私はただ、貴女と普通の姉妹のように恋の話をしたいだけ」
姫は周りの思うよりずっと賢かった。
遠くない未来どこかに嫁ぐことになることも分かっている。それなら話に乗ってあげるもいうのも自分の役割かと志乃は思った。
「んー、そうですね。立花先輩に近付くのは容易なことではないと思いますよ」
「姉様でも無理なの?」
「私なんかは恐らく女と思われていないです。今だに学園の頃の男名で呼ばれることも多々ありますし。まぁ、私のことはともかく。先輩は浮いた話も聞いたことありませんし、好みなんかも分かりかねます……あ…苦手なものなら知ってますが」
「なになに?」
「湿り気のあるものです。先輩は炮烙火矢をよく使うので」
「まぁ、そうなの。では今度ナメクジでも持って迫ってみようかしら。どんな顔するか見てみたいわ」
「……姫様は意外と…なんというか、そういう気質をお持ちなのですね」
「ふふっ、冗談です」
*****
「……そんなわけなので、たまにでも姫様を少し構ってやってください」
「お前、何故私がそんな憂き目に合わねばならんのだ」
志乃の言葉に仙蔵は眉を吊り上げた。
「良いじゃないですか。姫様は十分にご自身のことを分かっていらっしゃいます。先輩を少し身近に感じたいだけでこの先どうこうなりたいとは考えていませんよ」
「……だからお前は荘助なんだ。仮に私が一時でも姫の気持ちを叶えたとして、この先あるであろう縁談を渋られたらどうする」
「私は女の立場から言っています。気持ちに折り合いを付けるには思い出が必要なんです」
「お前な……」
仙蔵はちらと志乃の顔を見て、口に出かかけた言葉を引っ込めた。
「……誰が何と言おうと私は姫との距離をこれ以上縮める気はない。いっそのこと、私に恋人でも作れば姫は諦めがついて良いのではないか?例えば志乃、お前とか」
志乃はまるで他人事のような顔をした。己に言われていることに気が付いていないような、そんな表情だ。先ほどの普段に似合わない女の顔はなんだったのか。
「本気で言ってますか?」
志乃が呆けた顔で尋ねてくる。
「嘘に決まってるだろう。お前との関係に色恋を持ち込むのは御免だ」
仙蔵は、志乃の言う"思い出"とやらが気になったが、暴いてやるのも野暮な気がして止めた。
「志乃、お前は姫を誤解している。あの方に私との思い出なんぞ必要ない。兄であり姉であるお前の存在があれば、姫はどこへ嫁いでも強くいられるだろうよ」
「そうでしょうか」
志乃は腑に落ちないといった顔をした。
「私の方が姫との付き合いは長いんだからな。それに、志乃は自分の存在を低く見積り過ぎだ。姫はもちろん、殿、うちの忍衆にとっても、お前は欠かせない存在だ。無論私もそう思っている。自分の価値を見誤ると生き延びられないぞ」
志乃は目を丸くした。
「おい、返事は」
「は、はい!……ありがとうございます」
「礼を言われることなど何も言ってない。何にやけているんだ」
「先輩に珍しく褒められたので」
「別に褒めたわけではないぞ。調子に乗るなよ」
「はい。己を見誤ることはしません」
それを聞いて仙蔵はふ、と口許を緩めた。
『己の価値』終
「姫様、その姉様というのはあまりよろしくないかと…」
梅の香城主の一人娘であるはる姫は志乃の従妹にあたる。とはいえ、梅の香城忍衆に属する志乃としては主たる身分のに"姉"などと呼ばれるのは気がひけるのであった。
「だって私には兄弟がいないんですもの。貴女も養子の件を断ってしまうし…従姉なのだからそれくらい良いでしょう?」
こんな風に可愛さを全面に出してねだってこられると、つい言うことを聞きたくなってしまう。
「……では、ふたりきりのときだけで。皆の前ではダメですよ」
「わかりました、志乃姉様」
改めてそう呼ばれると、やはり嬉しい気持ちがじわじわと沸いてきて口許が緩む。姫は父も母も失った自分にとって数少ない身内なのだ。
「ところで姉様。仙蔵と親しくなるにはどうしたら良いでしょう?」
「……どう、とおっしゃられても」
姫はずっと前から仙蔵のことを好いている。忍術学園を卒業する前からだ。傍目から見ても明らかなので父親である城主ですら知っている。しかしその身分の違いゆえに、周りもお膳立てなどできず、仙蔵も微妙に距離を取っていた。
「もう、固いんだから!分かっているわ、一城の姫と忍が結ばれることないくらい。それでも私はただ、貴女と普通の姉妹のように恋の話をしたいだけ」
姫は周りの思うよりずっと賢かった。
遠くない未来どこかに嫁ぐことになることも分かっている。それなら話に乗ってあげるもいうのも自分の役割かと志乃は思った。
「んー、そうですね。立花先輩に近付くのは容易なことではないと思いますよ」
「姉様でも無理なの?」
「私なんかは恐らく女と思われていないです。今だに学園の頃の男名で呼ばれることも多々ありますし。まぁ、私のことはともかく。先輩は浮いた話も聞いたことありませんし、好みなんかも分かりかねます……あ…苦手なものなら知ってますが」
「なになに?」
「湿り気のあるものです。先輩は炮烙火矢をよく使うので」
「まぁ、そうなの。では今度ナメクジでも持って迫ってみようかしら。どんな顔するか見てみたいわ」
「……姫様は意外と…なんというか、そういう気質をお持ちなのですね」
「ふふっ、冗談です」
*****
「……そんなわけなので、たまにでも姫様を少し構ってやってください」
「お前、何故私がそんな憂き目に合わねばならんのだ」
志乃の言葉に仙蔵は眉を吊り上げた。
「良いじゃないですか。姫様は十分にご自身のことを分かっていらっしゃいます。先輩を少し身近に感じたいだけでこの先どうこうなりたいとは考えていませんよ」
「……だからお前は荘助なんだ。仮に私が一時でも姫の気持ちを叶えたとして、この先あるであろう縁談を渋られたらどうする」
「私は女の立場から言っています。気持ちに折り合いを付けるには思い出が必要なんです」
「お前な……」
仙蔵はちらと志乃の顔を見て、口に出かかけた言葉を引っ込めた。
「……誰が何と言おうと私は姫との距離をこれ以上縮める気はない。いっそのこと、私に恋人でも作れば姫は諦めがついて良いのではないか?例えば志乃、お前とか」
志乃はまるで他人事のような顔をした。己に言われていることに気が付いていないような、そんな表情だ。先ほどの普段に似合わない女の顔はなんだったのか。
「本気で言ってますか?」
志乃が呆けた顔で尋ねてくる。
「嘘に決まってるだろう。お前との関係に色恋を持ち込むのは御免だ」
仙蔵は、志乃の言う"思い出"とやらが気になったが、暴いてやるのも野暮な気がして止めた。
「志乃、お前は姫を誤解している。あの方に私との思い出なんぞ必要ない。兄であり姉であるお前の存在があれば、姫はどこへ嫁いでも強くいられるだろうよ」
「そうでしょうか」
志乃は腑に落ちないといった顔をした。
「私の方が姫との付き合いは長いんだからな。それに、志乃は自分の存在を低く見積り過ぎだ。姫はもちろん、殿、うちの忍衆にとっても、お前は欠かせない存在だ。無論私もそう思っている。自分の価値を見誤ると生き延びられないぞ」
志乃は目を丸くした。
「おい、返事は」
「は、はい!……ありがとうございます」
「礼を言われることなど何も言ってない。何にやけているんだ」
「先輩に珍しく褒められたので」
「別に褒めたわけではないぞ。調子に乗るなよ」
「はい。己を見誤ることはしません」
それを聞いて仙蔵はふ、と口許を緩めた。
『己の価値』終