【番外編】男なんざ!
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それは志乃が忍務を終え城を出てからしばらく経ったときだった。
町人に扮した仲間の忍がこちらに合図を送ってきた。
梅の香城の忍は志乃のような城主直属の忍もいるが、ほとんどが他に仕事を持っている兼任の忍だ。領内の町や集落で普通に生活をしながら侵入者を見つけたりと忍務をこなす。
合図を送ってきた同僚もそのひとりだ。
それによると、
"男ふたり"
とのこと。
なるほど、なんとなく気配があったが付けてきている者がふたりいる。
早く家に帰りたかったが仕方がない、追加忍務だ、と志乃は思った。
"領内に侵入した曲者は死んでも逃すな"
守りに徹している梅の香城の忍はそのように教えられていた。
さて曲者は何用で付けてきているのかと、志乃は考えながら路を変えた。城主の姪としての自分か、タソガレドキ忍頭の妻としての自分か、はたまた志乃個人か。いずれにしてもさっさと始末を付けなければならない。二対一は分が悪いけれど、地の利はあるし、同僚の忍は志乃ひとりでいけると判断したようだった。
志乃は距離を開けすぎないように気を付けながら森に入る。
幸い今日は色の暗い小袖だったので衣を変える必要なしと判断してそのまま木の上で身を潜めて様子を窺った。
するとどこからか話し声が聞こえてくる。
"仲間がいるかと思ったが、女ひとりだ"とか
"雑渡昆奈門の弱みを逃がすな"とか。
どうやら狙いはタソガレドキらしい。
あわよくば梅の香も、とは考えていそうだが。
"弱み"か……
志乃は先ほどの会話を頭の中で呟いて苦笑いした。
あの人の弱みになどなるものか。
志乃は少々動きづらいので裾を捲り上げた。
十中八九忍であろう男ふたりは互いの位置を把握できる範囲で離れて志乃の姿を探している。
さすがに相手もプロだと見えて、予め仕掛けた罠にはかかってくれなかったが、好都合なことにひとりが志乃の真下に来てくれた。
「!!!」
志乃は真下にいる男の背に飛び乗って上体を脚で封じ、腕を首に絡めた。
「うっ……」
相手が抵抗する前に絞め落とす。
力が抜け、気を失ったのが確認できると志乃は身体を解放した。
バタッとおとがして男が倒れ込む。もうひとりがそれに気付いてこちらに目を向けた。
もうひとりの男は一回り体格が大きい。クナイを持ち、接近戦に強いと見えて自信あり気に近付いてくる。
「やってくれるじゃねえの。さすが梅の香のくノ一」
「ありがとうございます」
「しかしこちとら退くわけにはいかねぇのよ。せっかくの雑渡を釣る餌を逃がすわけにいかないのでね」
「……残念ながら私はあの人の弱みになり得ない」
「おや。溺愛してるとの噂だが、案外に薄情な男なのか?」
「……私に近く付く曲者のひとりやふたり、あの人の手を煩わせる必要もない。自分で始末を付けられるから」
志乃が表情を変えずに冷たく言い放つと、男はヒュゥと口笛を吹いた。
「お前さん、イイ女じゃねぇの」
「そうだろう?」
背後から別の声がして男は慌てて振り向くと、さらに一回り大きい男に見下ろされた。
「雑渡……昆、奈門……」
「ふふっ、君とは気が合いそうだけど、我が妻を付け狙った罪は重い」
声に殺気が混もった。それは志乃もゾッとするほどで、男は完全に動けなくなった様子だった。
「組頭、その辺で。後は他の者にお任せを」
あとからやってきた山本陣内の一言と同時にタソガレドキ忍者が複数現れ、志乃が気を失わせた男共々縛り上げていった。
それを見届けると昆奈門は志乃の側に寄った。
「志乃、君ってカッコいいよねぇ。何度惚れさせれば気が済むのかな」
「なに言ってるんですか。それより、自ら出ていらっしゃるなんて…」
「いやあ、うちでちょっと怪しい動きをするもんで追わせてたんだ。志乃に目を付けてるのが分かったから、つい自分で付けて来ちゃった」
「……」
「はは、なにその顔。君は外だと態度がつれないねぇ」
昆奈門が志乃の頬に手を伸ばすと、志乃は思い切り眉をひそめた。
「私の力量では信頼するにあたりませんか?」
「ん、んん?」
思いもよらない言葉を投げ掛けられ、昆奈門は面食らい手を引っ込める。
「私は貴方の手を煩わせる存在にはなりたくないんです」
「そういうこと、ね。志乃、私が君の力を買っていないわけないだろう。ただね……」
昆奈門は目線を落とし、腰元に手を掛けた。
「脚、出しすぎ」
「えっ?」
「裾上げ過ぎだよ。よその男にこんなに脚見せて。しかも君は戦い方が大胆すぎる。中見えちゃったらどうするの」
今度は志乃が面食らう番だった。
「え、あ……ハイ」
昆奈門はせっせと裾を戻すと続けて言った。
「それに、妻を心配するのは当たり前だろう?君が思う以上に私は君を愛しているんだ」
「貴方はどうしてそう恥ずかしげもなく……」
志乃は顔を赤くして下を向いた。周囲を窺うと皆気まずそうに目線を泳がせている。
「組頭、そういうのは家に帰ってからにしてください。皆反応に困ってしまいます」
陣内がそうたしなめると、昆奈門は志乃の肩を抱いて言う。
「じゃぁ、今日はこのまま直帰して良い?」
「……仕方がないですね」
「あの、でも私も城に報告をしなければ」
志乃が昆奈門を見上げて言うと、陣内が、大丈夫ですよ、と続けた。
「志乃殿はこちらの件に巻き込んでしまったに過ぎないので、報告はこちらから行います。お任せください」
「元々、梅の香城側も承知の件だったしね」
昆奈門が一言添えると、志乃は少し考えてから頷いた。
「そうですか。では、お言葉に甘えます」
「うふふ、一緒に帰れるなんて嬉しいね」
昆奈門は肩にやっていた手をおろして志乃の手を握り、子供のようにぶんぶんと振る。陣内が呆れたように溜め息をついたが、本人は全く気にした様子がなかった。
ふたり並んで歩きながら、昆奈門は急に真面目な声で言った。
「さっきの話だけど、私は志乃をちゃんと信頼しているよ。あの程度の者、君ひとりでどうにかできたのも分かっている。けどね、嫉妬くらいさせてくれたって良いじゃないか」
「へ?」
「本当はどの男の目にだって触れさせたくないんだから」
「本当に、そんな理由で……?」
「結婚前に言っただろう?覚悟を決めてもらうって」
昆奈門は獲物を捉えたような、そんな目をして
「私はね、独占欲強いんだ」
そう一言付け加えた。
「弱みどころか」終