【過去編】夢の通い路
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※過去話ではありません
昆奈門と志乃祝言当日のお話
*****
「組頭、志乃殿が参られましたよ」
「うん」
陣内に促され、昆奈門は志乃を出迎えた。
輿から姿を見せた花嫁姿の彼女はこの世のものとは思えないほど美しく見えた。
「志乃……きれいだね。君が私に嫁いで来てくれたことを幸福に思うよ」
志乃は少し驚いた顔をした後、頬を赤らめてこくんと頷いた。昆奈門は、手を引くつもりだったが我慢ならず抱き上げる。すると周囲が目を見張った。
「こ、昆奈門さんっ……」
「だって君があまりに美しくて天女に見えたもんだから」
自分でも歯が浮くような台詞だと思うが、何の躊躇いもなく自然と口にしていた。
周囲の反応はいかばかりか……目端に捕らえた彼女の先輩などそれはそれは面白い表情をしていた。
「陣内、このままお連れするけど良いよね」
そう言うと、何故か陣内は呆れた顔で「部屋の手前までですよ」と小さく釘を刺した。
昆奈門は志乃を抱えて歩きながら問う。
「志乃、君はあの日の約束通り、脇目を振らなかったかい?」
「……そんな昔の話、覚えてたんですね」
「それで、どうなんだ」
「さあ、どうでしょう。けっこうな遠回りをした気がしますね。けれど、私は運が良かったと思います。こうして幼い頃の夢がかなってしまって」
「運、ねぇ……」
「生き延びられただけでも運が良いのに、こんなに恵まれて良いのでしょうか」
「運の良さだけでタソガレドキ忍頭の妻にはなれないよ。君が力をつけ、周囲の信頼を得て、強くなったから私は君を娶ることができた」
昆奈門は昔から己の気持ちひとつで結婚相手を決められると思っていなかった。
父親が組頭で、忍と言えど昔からある程度の地位が約束された身のために縁談話は若い頃からあったが、それがいたくつまらなく感じてのらりくらりと躱していた。全身火傷を負ったこの姿になってからは、もういよいよ結婚はすまいと思った。
そしてずっとタソガレドキに尽くせば良い、タソガレドキの子どもたちを育ててゆけば良い、それがタソガレドキに生まれ忍軍を率いる己の使命だ。
そう思っていたのに……
強く美しく育った志乃があまりに甘い視線をくれるから……変わらぬ想いを真っ直ぐに向けてくれるから……妻にするには格好の立場を築き上げてくるから……
志乃を傍に置けたらと、そんな想いを抱いてしまった。
「それでも、やっぱり昆奈門さんは"良い男"だから……きっとこれまで色んなお話がありましたよね」
「おや、こんなハレの日に野暮な話をするもんじゃないよ。でも、まぁそうだね……」
志乃は少し寂しそうにこちらを見た。
これが嫉妬というものなら大歓迎だと思う。
「私をその気にさせたのは志乃だけだよ」
「なら、良いです」
そう言って志乃が昆奈門の首に腕を回すと、後ろに付いて歩く仙蔵と目が合った。仙蔵は声を出さずに「曲者に良いようにされるんじゃないぞ」と唇だけが動いた。
「何か言ったかな立花殿」
昆奈門は後ろに視線を投げてニタリと気味悪く笑って見せたが、志乃が昆奈門の頬に手を添えると表情がふっと弛んだ。
「あの……そろそろ、下ろしてください。さすがにこのまま座に付くのは恥ずかしいです」
「ふむ。我が姫のご要望とあらば仕方ない」
志乃をそっと下ろすと、昆奈門は手を差し出した。
「では、行こうか」
「はい」
志乃が手を添えて微笑みかけてくる。
それに答えるように昆奈門もまた微笑んだ。
「志乃、私を選んでくれてありがとう
。幸せにするなどと大それたことは言えないが、命ある限り必ず君の元に帰るから、君はこれからも脇目を振らずに私だけを見ていてくれないか」
「私を見くびってくれては困ります。長年の想いが簡単に変わるとでも?昆奈門さんこそ、目移りしたら絶対に許しませんよ」
志乃の言葉に昆奈門は愉快そうに笑った。
「はっはっはっ、肝に銘じておこう」
『夢の通い路』終
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