【過去編】夢の通い路
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
なんの変わり映えもしない見飽きた天井が目に入った。どうやら自分は今日も生きているらしい。
昆奈門は指先を動かした。
確かに動くが、まだあちこちに痛みが走りひとりで起き上がる気力はなかった。
あれから幾日経ったのか…
何も死のうと思って火の海へ飛び込んだわけではなかった。なぜそうしたのかと問われれば、そうすべきだと思ったからとしか答えようがない。
諸泉を抱え、死地を脱した所までは覚えている。陣内の珍しく人目も憚らず我が名を呼ぶ絶望に満ちた声を聞き、その歪めた顔を見ながら「ごめん」とただ一言告げた。そこから私は長い夢を見ていた。
あれは初めて見るあの世だったのではあるまいか。
父がいた。
先に逝った仲間がいた。
助けられなかったあの人がいた。
揃いも揃って「まだこっちへ来るな」と言う。
そして、最後に自分の背を押したのは誰だったか……
そこで私は意識を取り戻したらしい。
それからというもの、激しい痛みに気を失ってはまた目が覚めて苦痛に耐えるという日が続いた。いっそ死にたいと思えるほどだったがなんとか生きた。元より忍に死すら選択する自由などない。己が今生きているということは、殿が生かす選択をしたということだ。
そして皆が、私を生かそうと動いてくれている。ならばそれに応えねば。
ふと、ぱたぱたと可愛い足音がしたと思うと、襖の開く音と梅の香りが入ってきた。
「雑渡様、起きていらっしゃいますか」
諸泉の息子が桶やら薬やらを抱えて入って来る。
「庭先の梅が咲きましたよ!もう春がきますね」
そう言って手折ってきた梅の枝を近くで見せてくる。
「ずいぶん粋なことをするね」
なんとか起き上がろうと手を付くと諸泉の坊が小さい身体で懸命に背を支えてくれた。
「ありがとう」
梅か……
もうそんなにも月日が経ったか。
鼻先を掠める香りと共にふと思い出す。
荘助殿は…志乃はどうしているだろうか。
狼隊の小頭になってからなかなか顔を出せていなかった。
さらにはこんななりになってしまって、荘助殿は何と言うか…いや、あの人は何も言うまい。
志乃は、どうだろう?
なかなか肝の座った娘だったが、さすがに「こなもんさんのお嫁さんになるのはやめます」などと言うだろうか。
「雑渡様、今日はご気分がよろしいのですね」
「ん、そう見える?」
「はいっ、だって久しぶりに笑顔を見ました!」
そう言って眩しいほどの笑みを見せてくる坊をとても愛しく思った。
「ねぇ坊、いつもありがとね。ここまで回復したのもお前のおかげだよ。面倒ついでに今日は歩く練習に付き合ってくれないか」
坊が目をいっそうに輝かせた。
「もちろんですっっ!!あ、でもお医者様に確認を取ってからで!あと、包帯変えるのとお食事が先ですよ」
「はっは、お前はしっかりしてるね」
坊の頭を撫でた。
そういえば志乃はこの子と同じくらいの年頃だったろうか。
