【番外編】男なんざ!
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「志乃ー♪」
背後から近づき名前を呼ぶ。
彼女の振り向く様が好きだ。
「三郎?」
彼女に名前を呼ばれるのはもっと好きだ。
「なに、今日はしんべえの顔なの」
「うん。これお気に入り。良いだろ?」
「ははっ、身体と合ってない!」
志乃の、自分を見る目は"友愛"だ。
五年のとき一度やらかして関係が拗れそうになったが、武闘大会で一応仲直りできた。それから色々あったが、学園に戻ってきた彼女の自分への態度は友人として安定したものとなった。
でも、それだけだと不満ではある。
兵助は耐えきれずに進学時告白して玉砕したが、三郎が見るに志乃にとっての兵助の存在は五年の中では頭ひとつ抜けていた。恋心ではないにしろ、友愛以上の感情がある。
三郎は、恋仲になれずともなんとか志乃の心に少しでも入り込みたいと思ってしまった。
で、こうしてちょくちょく見かけては声をかけているのだが、それだけでは味気ないので、変装や声色を変えたりして、志乃の反応を楽しんでいた。
そうしているうちに、志乃が誰をどう思っているのか少しずつ見えてくる。
だいたいは友愛、信頼、尊敬といったところ。
兵助への感情の正体を一番知りたいところではあるが、知るのも怖いような気がして変装も声色を真似るのもできずにいた。
そういえば……気になることと言えばもうひとつ。タソガレドキだ。志乃が一時期匿われていた城だが、何か繋がりがあるのだろうが聞けずにいる。雷蔵には趣味が悪いと言われそうだが、今日はひとつ曲者の声色で志乃に近づいてみることにした。
「志乃」
声をかけると、志乃はびくっと肩を震わせてから振り向いた。彼女のその一瞬の表情を見て、三郎は後悔した。
「あ……三郎……」
「……なんだよ、その表情」
志乃は慌てて取り繕った笑顔を見せた。感情に気付かせまいと思ったのだろうが、こっちは気付いてしまった。
これは、恋だ
長年の想い人を待ちわびていたような
でもわずかに哀しみを帯びた
そんな反応だった
よりによってあのタソガレドキ忍隊組頭
「……志乃お前、タソガレドキでなにかあったんだな」
「何もない」
「うそつけ!じゃあ、なんでそんな顔してんだよ」
「本当に、何かあったわけじゃない……私が、勝手に……」
いつも顔色を変えない志乃が珍しいくらい戸惑っている。三郎はそんな彼女をつい攻め立ててやりたくなった。
「兵助に言った、"自分の生き方を考えたい"ってのは方便か。お前、タソガレドキに行くのか?」
「行かない!……行けない。来るなって言われてるから……」
志乃が顔を覆う。
しかし涙は出ていない。三郎は続きを待った。
「だけど、あの人はずっと昔から私にとって特別な人で……この気持ちはどうにも変えられない」
「……昔から……」
いつから、とは聞けなかった。
志乃が語ることのない過去。
きっと学園に来るずっと前だ。
三郎は、もう付け入ることはできないと思った。
「今さらどうこうする気はないよ。というかできないし」
「不毛じゃん」
私も、と三郎は心の中で言った。
「ほんとにね」
「兵助じゃだめなわけ」
「うん。好きだけど。今、私は感情を切り離して自分の生き方を考えてる最中なの」
「感情を切り離したら、自分じゃないんじゃないか?」
「そういう考えもあるね。でも、私たち忍だよ?」
「そうだな」
「そうだよ」
「それにしても、あの曲者とはね。誰も勝てねーじゃねーか」
「うん」
志乃の想いは絶対に動かない。
三郎は本当の初恋とも言える想いに終止符を打った。
「好いた彼女の想い人」終
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【あとがき】
読んでいただきありがとうございます。
なんだか、本編含め三郎には嫌な役を押し付けてしまっただろうか……ごめんね。三郎のことは大好きです。雷蔵とセットでも単体でも。