運命の人
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「陣内左衛門は好いている女はいるか?」
山本陣内にそう問われたのは、何度か目の組頭の奥方を訪問した直後だった。
「ほら、先日結婚がどうのと言っていただろう?その気があるなら見合いなりしてみても良いかと思うのだが、好いた相手がいるなら話は別だ」
陣内左衛門はきょとんとした。
「………考えてみます」
「いるのかいないのかどっちなんだ」
「今まで組頭の背を追うことばかり考えていて、そういう色恋事に頭を使うことがありませんでしたので。少し時間をください」
「……お前は忍の鏡のような男だな。まぁ、無理強いするわけではないから、気が向くようなら言ってくれ」
「あら、山本小頭と高坂さん。なんのお話ですか?」
廊下の向こうから声をかけてくる女人がいた。
タソガレドキ城のくのいちタソガレくのいちだ。
色香が漂うこの人は、くのいちに色の指導をする立場であり、忍者隊にも女装の指導を行うこともある。陣内左衛門の完璧な女装も彼女に仕込まれたものだ。しかし彼女は色香だけでなく薬物の知識も豊富で、さすがはタソガレドキのくのいちというだけあって確かな腕を持つ。年は陣内左衛門より三つほど上で、黄昏甚兵衛や昆奈門からの信頼も厚い。
「タソガレくのいち殿、いや陣内左衛門がようやく結婚に興味を持ったものでね」
「あら、そうでしたか。さては組頭の影響ですね?」
タソガレくのいちがくすくすと笑う。
「高坂さん、奥方を見舞ったんでしょう?おめでただとか。どう、あの子元気だった?」
昆奈門の妻は、タソガレくのいちにとってもかつて指導した弟子のようなものなので、気になるようだった。
「元気でしたよ。腹もけっこう大きくなっていて。赤子が動くのを確認させてもらいました。いやしかし、あちらでも惚気られた気がしますね」
「ふふっ、幸せそうで良かった」
「そうですね。本人も幸せだと言っていました」
「それで、結婚したくなったんだ?」
「まぁ、そんなところです」
「ふふっ、決まったら教えてね」
そういえば、この人は結婚していない。どうしてだろうと陣内左衛門は思ったところで、にわか城内が騒がしくなった。
「ふたりたも、殿と組頭がお戻りのようだ。今回は早かったな。出迎えよう」
陣内がそう言うと、ふたりも後について城門へと向かった。
*****
黄昏甚兵衛が側近と共に居室へ戻ると、解放された昆奈門は食堂で陣内左衛門と共に遅めの昼食を取っていた。
「なに、陣左も昼食べ損ねたの」
「はい、奥方を見舞いにいってちょっと長居してしまったもので」
「あぁ、そうだった。数日妻を見舞ってくれてありがとう」
「いえ。元気な様子が見られて良かったです。見舞いに行ったはずが、かえって茶までご馳走になってしまって」
「そうか、そうか。妻も陣左の顔が見れて嬉しかったと思う。私同様にタソガレドキのことを想ってくれているからね」
昆奈門が話を止めて箸を進めると、陣内左衛門が昆奈門の顔をまじまじと見る。
「つかぬことをお聞きしますが、組頭はなぜ彼女との結婚を決意なさったのですか?確か、これまでは来た縁談全て断っていらっしゃったかと記憶しています」
よく知っているねと言った後に、昆奈門はうーんと考えていた。
「……そうだね。端的に言うと都合が良かったから、かな」
陣内左衛門は意外そうな顔をした。
「私の立場からすると、彼女の立場はタソガレドキにとって都合が良い。それに彼女は古くからの知り合いでもあるから新たな関係を構築する手間がない。あとは……気持ちの面でもだね」
「気持ちの都合、ですか」
「そう。私は彼女を手放したくなかった。幸いにも彼女も同じ想いを抱いてくれていた。こんなに都合の良いことはないだろう?」
これは恐らく惚気なのだろうが、今回ばかりなそう感じさせないような真面目な顔つきだった。
「それで、陣左。私たちを見て結婚したくなったか」
ずばり言い当てられて陣内左衛門は赤面した。
「はい……」
「はっはっは、それは良いな。陣内が張り切るだろう」
昆奈門が愉快そうに笑った。
「はい。さっそく見合いはどうかとか、好いた女はいないのかなどと聞かれました」
「で、どうするの。見合いしてみるの?」
「見合いは保留にしてもらってます」
「好きな女でもいる?」
「いや、それがわからないんです」
「陣左といえど女を知らないわけではないだろう?今まで、心に残る人はいなかったか」
心に残る人……
陣内左衛門は思い当たらないわけではなかったが、関係を持ったのは一度きり、そしていかんせん相手の気持ちがわからない。
陣内左衛門の表情を見て、昆奈門はにこりと笑った。
「いなくはないなら立場に縛られる前に動いた方が良い。私はたまたまこの立場が味方してくれたが、そんなことはそうそうない。まーとにかく、後悔のないようにしなさいよ」
「はい」
陣内左衛門は返事をしたあと静かに残りの飯を口に運んだ。