アフターストーリー
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昆奈門は驚愕した。
梅の香城からの使者を歓待する宴。
志乃にとっては一時共に稽古をした者達との懐かしい再会でもあり、和やかに進んでいたと思ったのだが……
「志乃…君、そんなに酒に強かったの……」
気がつくと、彼女を見知る男も女もほとんどの者が志乃によって酔い潰されてしまったのだった。
「私だけ飲むのも申し訳ないので、みなさんと一緒に飲んでいたらこんなことに……」
あまり顔色を変えない志乃の、いつもと違う姿が見られるかもと皆が好奇心で飲ませているのを見たが、まさか返り討ちにあっているとは思わなかった。
「はっは、皆潰されたか」
「いやいや、若いのはだらしないな」
押都長烈と山本陣内が転がっている部下の後始末を始める。
「しかし志乃殿、顔色が全然変わらんね」
長烈が志乃を見ると、志乃は長烈の蘇利古面を覗き込んで言った。
「押都さんも、顔色まったく変わりませんね」
もちろん蘇利古面を着けている長烈の顔色が見えるわけはない。
「……ははは、組頭!志乃殿も顔に出ないだけでけっこう酔っておられますよ」
小頭ふたりが笑い転げていると、
「少し酔いを冷まさせてくるから、後頼む」
と昆奈門は志乃を庭へ連れ出した。
*****
「はぁー、夜風が気持ちいいです」
志乃が心底気持ち良さそうに目を細める。
「少しは酔いは冷めた?」
「……酔ってませんよ」
「え!?」
昆奈門は目を丸くした。
「あの程度では全然酔いません。雑渡さんと話がしたくて、ちょっと芝居しました」
「……これはこれは、ずいぶん忍らしくなったな」
それにしても皆が潰れるほどの酒量をあの程度とは末恐ろしい。
「ふふ、ありがとうございます」
月明かりのせいか、多少なりとも酒の入っているせいなのか、志乃の笑顔がまた妙に艶ぽく感じて昆奈門は少し動揺した。しかしそれを悟られまいと話を振る。
「その分だと仕事も順調そうだね。そういえば梅の香姫に槍術の指南をしていると聞いたよ」
「はい、よくご存知ですね。姫様が私の稽古をご覧になったようで、やってみたいと。侍女も交えてやってるんですよ。なかなか活発な姫様です」
「それはけっこうなことだね。城主とはどう?志乃を養子にするという話を断ったと聞いたけど」
「……雑渡さん、すごく私に詳しいですね」
少しおどけたように志乃が言うと、昆奈門は困ったように笑うだけだった。
それを見て志乃は少し黙って考えていたが、急に真面目な顔をして言った。
「昆奈門さん、ずっと私のことを気にかけてくださってありがとうございます」
「ん、どうしたの急に」
「あのときここに戻ってくるなと言われて、私は自分の生きる道を考えるようになりました。おかげで今の私があります。あのままだったら、私はきっと貴方に依存してしまっていたと思うんです。昆奈門さんはいつも私を助けてくれる」
「そうか……でもそれは買い被りだな」
「いいえ。幼い頃からずっと見守ってくれて、父がいなくなってからも探し続けてくださった。記憶を失った後も、私を助けてくれた。そのあとも、今もずっと気にかけてくださっている」
昆奈門は黙って聞いていた。その表情からはなにも読み取れない。
「……それは、父に義理立てしているのですか?もしそうなら、もう縛られてほしくはないんです。私はもう、自分の足で立てます」
そうだと答えれば、志乃を傷つけることになるだろうか。もう二度と彼女が自分を見ることはなくなってしまうだろうか。
突き放すのならいつもの忍務のように徹底的にやるべきなのに、そうできなかったのはなぜだろう。彼女から向けられるその甘さを含む瞳を少しでも長く感じていたかったからではないだろうか。
もし、自分の意志でやったことだと正直に答えてしまえば……己を止められる自信はもはやない。
しかし、取り繕う言葉は今の彼女に通じるまい。
「あのとき……戻って来るなと言ったのは、私の我が儘だよ。逆だ。君に執着しそうだったのは私の方。君の自由を奪って自分の物にしてしまいたくなったからなんだ……だから、私が君を気にするのは荘助殿に縛られているからなどではないよ」
志乃が、じっと目を見つめてくる。まるで、自分が彼女に喋らされているようだ。
「……私は君が愛しいが、君には自由に生きてほしいんだ。だから、どうかそのままで…」
「昆奈門さん!」
志乃が昆奈門の話を遮った。
「ならば、私の意志を聞いてください」
気がつくと志乃と昆奈門の距離は近づいていた。
「私はもはや自由ですよ。何にも縛られません。貴方がどう思おうとどうしようとも。それではだめですか?私は、あれからずっと貴方に会いたかった。もう離れているのは嫌なんです。昆奈門さんはどうですか?」
心の臓がえぐられる。
抑え込んでいた自分の想いを代弁されたようだ。
あぁ、私は……
志乃はもうすぐに触れる距離で昆奈門を見上げていた。その黒い瞳はあまりにも真っ直ぐて澄んでいて、眩しい。
君のことが
本当に愛おしくてたまらない
昆奈門は聞こえるか聞こえないかの声で呟き、志乃の背にそっと手を回す。
志乃は昆奈門の声に応えるように胸元へ顔を寄せた。