『はい…？は？どういうことですか』


『だーかーら、スパイクタウンの怪事件の調査なの』


不機嫌そうにも、ユウリの話を聞いているのは彼女の恋人であるビートだ。いま、スパイクタウンで宿泊を決め込むユウリは、その夜さっそくビートに報告をしていたのだった。しかし心配するあまり、その調査とやらの話を聞いて彼が呟いたのは、ダメです。だった。


『なーんで！大丈夫だよ！私が強いのはビートくんも知ってるでしょ』


『それは……まあ、解りますけど、察してください』

ビートは素直じゃないので、これと言った明確な言葉はあまり出さない。例えばユウリが心配だから、とか…、そういった甘い言葉をかけ慣れない。そういうストレートな気持ちをぶつけられるのは、いつだってユウリの幼馴染のホップだ。彼ならこういうとき、心配だからとか、そういうことを平気で口にできるんだろう…と、思うもののビートの性格上難しい。それを汲み取って言葉を返してくれるのがユウリだからこそ、この二人は仲の良い恋人同士だと思われるのだろう。

『ねえ、ビートくん。私のこと心配してくれるの？』

『…当たり前でしょう。何を言ってるんですか。あなた頭沸いてます？』

『ええ、ひどーい！ビートくんの口から聞きたいのに！』


素直な感情をぶつけてくれるユウリ、そんな彼女だから愛おしくもある。そんな素直に言われてしまったら、言葉に出さないわけにもいかない。


『…心配です』

『ん？』

『だから、心配ですって言ってる。』

『もう一回！！！』


『あー……はいはい、わかりました。ユウリのことが心配です。だから彼氏としてはそういう危険な事はしてほしくないんですよ。以上です！』

『ふへへ〜』

そんなやりとりが好きで嬉しくて、思わずにやけてしまうのがユウリである。別に変な笑い方ではなくて、これが彼女の特徴的な笑い方。電話越しでも解る、ユウリの笑顔は頬を軽く赤らめて、どこか締まりのないヘニャリとした柔らかくて愛らしい表情だ。ビートの好きなユウリの表情である。


『くれぐれも無理はしないように。』

『はーい！それじゃあまたね、ビートくん』

『おやすみなさい。ユウリ』


そうしてロトムの通話は切れるが、この時の二人の心内は当然幸福で満ちているものだ。先程まで彼女と繋がっていたスマホロトムと共にビートはそのまま自室へと帰り、ユウリも彼と繋がってたスマホロトムを休ませて、眠りにつこうとした。……その時。


ーガタン、ガタン

『へっ！？』

ユウリが宿泊している、スパイクホテルの部屋の隅っこからガタンと音が鳴る。正直いえばユウリはそう言った怪奇現象的なものは苦手である。そのため、何もないはずの部屋の隅からガタンと音が鳴るならそれは勿論びびる対象となるわけで……


『……ええ〜……いまくるの……？ユキゲツキ！』


『ミミッキュっ』

ボールから自分のポケモンであるミミッキュこと、ユキゲツキを出すとその様子を見に行ってもらうことにした。


『キュー？キュキュ？』


調べてもらって数秒後のこと、恐る恐るミミッキュに近づくとミミッキュはその場で首…もとい頭を捻（ひね）る。


『え？なんもないの？』


『キュー…ミミッキュ！』


ミミッキュの反応は至（いた）ってシンプル。何もないなら何もないで、ないよ！と言うように鳴く。


『ええ……よけい怖いよ』

『ミミッキュっ』

『今日は一緒に寝よ〜ユキゲツキ〜』


『キュ』

結局なにも解らずじまいのその夜は、ミミッキュと一緒に眠ることにした。