それが一年前。彼女、ユウリとビートの恋の始まりだ。いまガラルクイーンの少女は13歳、そして彼は14歳になろうとしていた。


ーー現在　ハロンタウン

『行ってきまーす！』

ユウリとマサル、ホップがハロンタウン入り口で待ち合わせしたあと、隣町の駅でユウリは別れた。今日もナックルシティのところのワイルドエリアに行く予定だったからである。時間を確認して、自分のパートナーであるエースバーンと電車に乗り込んだ。
ガタンゴトンと揺れる車両が心地よいながら、ワイルドエリアに着いたとなれば、まずは自分のポケモンをモンスターボールから出して遊ばせるというのがユウリの日課だった。ワイルドエリアに通いはじめてから野生のポケモン達とも仲良くなったユウリとユウリのポケモン達は、すっかりお友達のようなものだ。

『みんなー！カレー作るよ。今日はなにカレーにしようか、ムツキ』

『エースバン！バン！』

ムツキとは、ユウリの最初のパートナーとしてずっと一緒に居たエースバーンのこと。ユウリは自分のポケモンに必ず愛称をつけて仲間にする。だからこそ皆への愛情もひとしお。ポケモン達からも好かれる少女であった。

『ふむふむ、デコレーションカレーがいいんだね！材料あったかなあ』

ユウリは、こうしてポケモンと話している素振りをすることがあるが、不思議と通じ合っているような感覚を持っていることから会話の不成立はそうそうないようだ。エースバーンの鳴き方と、鳴き方のニュアンス、表情からデコレーションカレーを食べたいのだと瞬時に判断した。材料をカバンの中から探し出せば、早速キャンプ鍋に材料を入れていく。


『エーフィ？』

ユウリのポケモンである一匹、エーフィ。愛称はリコリスが一つ鳴いた。

『んん？どうしたの？リコリス』

カレーを作っている最中にエーフィが見上げる視線の先に居たのは、ナックルシティジムリーダー、キバナだった。

『よお、ユウリ今日も頑張ってるな。』

『あ、キバナさーん！こんにちはー！』

キバナはナックルシティのジムリーダーとあってか、ワイルドエリアでは良く会うことがあり、こうして時折、ユウリの様子を見にきてくれるのだ。


『デコレーションカレー作ってんのか。辛口？』

『中辛程度ですかね』

そんな雑談を交えながらカレー作りをしていると、不意にキバナのロトスマホが、くるくると頭上を旋回しはじめ、思い出したようにキバナが自分の掌（てのひら）の上でポンと拳を落とし、軽快な音を鳴らすと言葉を紡いだ。

『悪い悪い、伝えることがあったんだ。』

伝えることがあると告げられたなら、カレーを皿に盛り付けながらキバナの話を聞く。マイペースなユウリは、カレーをキバナの分まで盛り付けると、紡がれた言葉に首を傾けた。


『ルリナが13、14ぐらいの雑誌モデルの女を探してんだと。で、ユウリにそれをやってほしいっていう話だ。今度撮影する衣装がどちらかといえば、その年齢ぐらいの子に人気の雑誌の撮影らしい。マリィにも声かかっててよ。』


『マリィと会えるの！？』


唯一、ユウリにとって同い年の女の子といえばスパイクタウンにいるネズの妹、マリィだった。あげくにはネズにも会えるかもというファン心も相まって、その話は願ってもないことだった。


『どうだ？今からルリナと打ち合わせにバウタウンに行くってのは』


『行きます！行く！』

二つ返事でキバナからの言葉に返答を返すユウリの姿はどこか輝いていて、バウタウンに行くことになりカレーを平らげて、ポケモンとの交流もそのままに、バウタウンまで足を運ぶのだった。