一年前…
チャンピオンになった後、皆でシュートシティで宿泊して次の日に帰る。という話になった夜。ビートに呼び出されたユウリは、シティのホテルの中庭に赴（おもむ）いた。

『ビートくん、どしたのー？こんな所に呼び出して』

中庭にたどり着いた時、ビートの後ろ姿が目に入ると、月に照らされてなんとも言えない程に儚げなその空気感に一瞬戸惑ったけれど普通に話さないと、彼のことだ。嫌味の一つ二つ言われるかも。と、構えたものの何処か横顔に惹かれてしまう自分もいて、しごく普通に明るく声かけをしながら、そっとその顔を盗み見るように顔を傾け、距離を縮めた。

『ちょ……近っ』

しかしその行動は彼を驚かせてしまったようで、ユウリの顔を見たビートは、碧紫色（あおむらさきいろ）の瞳を大きく見開いて飛び退いてしまったのだ。

『ええ？呼び出したのそっちじゃん。なんでそんな驚くの？』

『あなたは……もう少し節度というものを保ったほうがいいのでは？』

『むぅ……』

そう指摘されると、 ユウリはユウリで引けないところもある。呼び出しておいてその対応？と、ビートの対応に不服そうに頬を膨らませてジト目で睨みつけるも、当の彼は動じず。むしろ冷静なのか、垢抜けたのか、とてもとても柔らかな表情を浮かべたのだ。今まで見たことのないような優しい表情。その表情がなんだかとてもユウリの心内に響いて、トクントクンと音が鳴る。考えてみたらビートとは幾度も幾度も堂々巡りを繰り返して、ホップと同様に切磋琢磨しては嫌味を言われて勝ってきた。最初は嫌な奴と思ったけれど、接していく内にどういうわけか、どうしてあんな態度なのだろう？と思わずにいられなくなってしまった。極め付けには、かつてガラルポケモンリーグの委員長であったローズに見限られた彼は何処か頼りなさげな空気感になってしまったけど、アラベスクタウンのジムリーダーポプラに見初められ、次に会ったときには、ジムリーダーとして凛とした姿を目にした。思えば、ビートのことはホップとは違う意味でライバル視していた筈なのに、会いたい。元気にしてるのだろうか。と、いらない心配もしていたことを思うと、その頃から惹かれていたのかもしれない。なんて思う。

『ビートくんが呼んだんでしょ？』

ふいっと顔を背けると、彼はキョトンとした表情でこちらを見つめてくるけれど不意に口元に手を当てて、月を見上げ始めて間もなく唇を開くと言葉が紡がれた。

『……そういうところは、クイーンのくせに子供っぽい。言っておきますが、ぼくはあなたより年上ですからね。もう少し言葉遣いを……いや、そうじゃない。ぼくが言いたいのはそういうことじゃなくて』


ビートはユウリの方へ振り返り、素直じゃないながら本題から外れて言葉を述べてしまうこともあるようで、見目がいいぶん、そこは損をしている部分だろうと思いながらユウリは次の彼の言葉を待つ。たしかに彼はユウリより一歳年上だが、さして変わらないだろう。と不満に感じるも言葉は出さなかった。

『ビートくん…何か話があるんだよね？』

なかなか言葉を切り出さない彼に詰め寄り、自分から言葉を選んで問いかけると彼は頬を染めながらユウリを見つめては、その手を頭に置いて柔らかな髪の感触を楽しむように撫で付けると、ふと唇から溢れたのは告白だった


『…ユウリ、あなたが好きです。ぼくを負かしたのも、ぼくの初めて好きだと思った女性も…きみだけだ。付き合って…くれませんか。』


どこか躊躇いがちにも聞こえるが、その表情は真剣そのもので、もちろん彼のその言葉を聞いてユウリが断るはずもなく、ふわりと柔らかな体を詰めたと思えば彼に腕を回し顔を埋めながら言った。

『もちろん！！よろこんで！』