短編
出来ることならずっと部屋に隠っていたい比鷺を、萬燈は時たま外へと連れ出そうとすることがある。その時たまが、今日だった。
「それってネットで買えないの? 俺も行かなきゃ駄目なやつ~?」
駄々をこねる比鷺の様子を、さっと確認した萬燈が答える。
「買えなくもないが、そうすると今日の夕食は変更になるわな」
「えっ、そうなの? 何から何に?」
「ブッフ・ブルギニョンからありもので炒飯ってところだ」
「大違いじゃん!? じゃあ……」
「だが、寝不足の人間を、無理させてまで連れて行く気もねえよ」
「…………えっと、その、」
「四時……いや、五時だな」
遅すぎる就寝時間を正確に言い当てられ、比鷺が目を伏せる。
「……ハイ」
「お前は大人しく昼寝でもしてろ」
「……ん。いってらっしゃーい」
ひらひらと手を振る比鷺に、片手を挙げるだけの返事をして、萬燈は家を出る。目的地は、然程遠くないスーパーだ。
「ふむ」
こんなものか、とブーケガルニ用のフレッシュハーブを選び終わり、萬燈は次のコーナーに進んだ。今日使う食材以外にも必要なものがあったかと、歩きながら考えていた、だけのはずだった。
「……」
買うより早ければ、クオリティにも自負のある自作ドレッシング以外に、気に入りの味ぐらい萬燈にだってある。かなり減ってきていたから買い足しておくか、と手を伸ばしたところで、ふと同じ段にある別の瓶が目に入った。
以前試しに買ってみたそれは、少し辛めなテイストが比鷺の気に召したようで、あっという間になくなってしまったことがある。その後しばらく見かけなかったので、製造中止になったのかと思っていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。
今日のメインディッシュに合わないことを百も承知で、萬燈は迷わず目に入った瓶を手に取る。実のところ、自分好みの品と両方いっぺんに買ってしまっても、何の問題もないけれど、どうしてかそうする気分にならなかったのだ。
――いや、どうしてか、じゃねえわな。
つい溢れた笑みを噛み殺し、萬燈は残りの買い物を手早く済ませるべく、歩みを進めることにした。
「それってネットで買えないの? 俺も行かなきゃ駄目なやつ~?」
駄々をこねる比鷺の様子を、さっと確認した萬燈が答える。
「買えなくもないが、そうすると今日の夕食は変更になるわな」
「えっ、そうなの? 何から何に?」
「ブッフ・ブルギニョンからありもので炒飯ってところだ」
「大違いじゃん!? じゃあ……」
「だが、寝不足の人間を、無理させてまで連れて行く気もねえよ」
「…………えっと、その、」
「四時……いや、五時だな」
遅すぎる就寝時間を正確に言い当てられ、比鷺が目を伏せる。
「……ハイ」
「お前は大人しく昼寝でもしてろ」
「……ん。いってらっしゃーい」
ひらひらと手を振る比鷺に、片手を挙げるだけの返事をして、萬燈は家を出る。目的地は、然程遠くないスーパーだ。
「ふむ」
こんなものか、とブーケガルニ用のフレッシュハーブを選び終わり、萬燈は次のコーナーに進んだ。今日使う食材以外にも必要なものがあったかと、歩きながら考えていた、だけのはずだった。
「……」
買うより早ければ、クオリティにも自負のある自作ドレッシング以外に、気に入りの味ぐらい萬燈にだってある。かなり減ってきていたから買い足しておくか、と手を伸ばしたところで、ふと同じ段にある別の瓶が目に入った。
以前試しに買ってみたそれは、少し辛めなテイストが比鷺の気に召したようで、あっという間になくなってしまったことがある。その後しばらく見かけなかったので、製造中止になったのかと思っていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。
今日のメインディッシュに合わないことを百も承知で、萬燈は迷わず目に入った瓶を手に取る。実のところ、自分好みの品と両方いっぺんに買ってしまっても、何の問題もないけれど、どうしてかそうする気分にならなかったのだ。
――いや、どうしてか、じゃねえわな。
つい溢れた笑みを噛み殺し、萬燈は残りの買い物を手早く済ませるべく、歩みを進めることにした。