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短編

〔明日には帰る〕
「ふーん……」
 取材旅行のため、関西へと旅立ったままの萬燈から、不意に連絡が入った。作家として、作曲家として、異様なまでの才を誇る男である。取材旅行になんぞ、行ってみろ。興味と関心の赴くままに、熱中するに違いなく、比鷺には帰りの連絡が入れば上々と言ったところだった。
「今回はドコ行ってたんだっけ。確か国内だったよな……ふあ~、あ。……あー、ねむ……も、寝るかあ」
 重く感じるようになってきたゲームパッドを置き、ノートパソコンをスリープにし、比鷺はゆっくりと伸びをして、人間を駄目にする毛布を着込んだままソファに向かった。


「おい」
「んえ?」
「落とすなよ」
 昼過ぎ、唐突に現れた(としか比鷺には思えない)萬燈が、寝起きでぼんやりとしている比鷺の手に真上から何かを落としてきた。
「わ、わ、わ、え、なにこれ……」
「さてな」
 肩を竦める萬燈は、とっくに旅支度を解いていて、見慣れた姿になっている。比鷺はかろうじてキャッチした小瓶を見た。色とりどりの小さな星が、いっぱいに詰まっている。
「コンペイトウ……?」
「ああ。俺が作った」
「え?」
「取材がてら体験コーナーでな。だから世界に唯一、萬燈夜帳が作ったコンペイトウって訳だ」
「そん!? っんな、なんかやばいものを、なんで俺なんかに渡しちゃってる訳!?」
「なに簡単なことだ。お前への土産だからだよ」
 ヒュッと息を吞む比鷺が、小瓶を握りしめる。
「お、俺、甘いものあんま食わないんだけど……」
「知ってる。だが、これぐらいなら邪魔にならんだろうし、たまには刺激物以外も食え。余ったなら紅茶に混ぜちまってもいいしな」
 至極当然とばかりに提案された対応策に、比鷺は返す言葉がない。だいたい寝起きである自分というのを差し引いても、この男に口で勝てる訳がないのだ。
「あーうんわかった、もらいます。もらうってば!」
 半ばやけくその勢いで立ち上がった比鷺が、ぱか、と何かに気付いたように大きく口を開ける。そして、うあ~と百面相をしたのちに、「お、おかえり……これもありがと……」などと、ぼそぼそ呟いたのであった。
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