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短編

「最近目が霞むっていうかさ、なんかちょっと見えにくいときがあるんだよねー」
「ゲームと実況のやり過ぎじゃねえのか? 一度視力検査に行ってみろ。ああいうのは早めがいいだろ」
「ええー……? でも悪くなってたとして、どうするかって話になると、眼鏡はなんか重そうで嫌だし、コンタクトはフツーに怖くて嫌……って、あれ、そうすると眼鏡のほうがマシかなあ……」
 などという会話をしていたのが、小一時間ほど前のことだった。ちょっとした共同運動により、それなりに渇いた喉を潤す為、冷蔵庫に水を取りに行った萬燈が寝室に戻ってみれば、なにやら比鷺の様子がおかしい。
 薄手の毛布に包まったまま、小首を傾げつつ萬燈の眼鏡を勝手に掛けては外しているのだ。そういえばベッドサイドチェストに置いたままだったか。萬燈は壁に背中を預けながら、比鷺に声をかける。
「さっきの話の続きなら、そいつは訳に立たんぞ。なんせ、度が入ってねえからな」
「……は? 伊達ってこと? なにそれ、なんの参考にもならない!」
「言ってなかったか?」
「聞いてない! ていうかなに、眼鏡外したらあんま見えてないと思ってたのに! え!?」
「残念だったな、ばっちりだ」
 大真面目に言う萬燈に、比鷺の顔は赤くなったり青くなったり、果ては白くなったりと目まぐるしく変化している。比鷺のそういうところは初めて会ったあのときから、こういう関係になっても変わらない。
「俺は萬燈夜帳だ。視力も十全に決まっているだろう」
「そんなの反則じゃん! あんだけずっと掛けてたら普通に目が悪いって思うだろ! もうやだ俺寝る!」
「なんだ、足りなかったか?」
「ハア!? 眠るのほうですけどー!?」
 心底信じられないといった表情の比鷺が、ばさりと毛布に潜り込む。次の瞬間、慌てて顔を出しサイドチェストに眼鏡を戻したかと思うと、今度こそ体全体を隠してしまった。
「ま、言葉は正しく使えってことだわな」
「ちょ! 入ってくんなよ!」
「ここは俺の寝室で、これは俺のベッドなんだがな?」
「うぐぐ……」
「それから、水は飲まないのか?」
「……飲む! 飲ーみーまーすー!」
 萬燈の正論に比鷺は悔しげに顔を出し、手渡されたボトルに半分ほど残った水を一気に飲み干すのだった。
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