47話if クレイーのカラダスキャン(R-15)




『カラダスキャン』






「病魔に侵されているな」
「セフィーロにつくまでもたないだろうと、医者に言われていましたから」

覚悟の視線。穏やかな表情の中の、けれど、確かな強さをクレフは感じ取った。
光が堪らない様子でイーグルの腕にすがり、イーグルがそれに応えるように光の手を包んだ。

「イーグル……だったな」
「はい」


「────ついてこい」
しばらくの沈黙を打ち破って、クレフが言った。

光とイーグルは一瞬きょとんとして、顔を見合わせた。
が、クレフが扉のほうへスタスタと歩いて行ってしまうので、二人は小走り気味にクレフを追う。

「ヒカルはここに残れ」
「え?」
声を上げたのは光だったのか、イーグルだったのか。

イーグルは、自分の顔を指差して光を見た。光が頷くのとほとんど同時に、クレフは部屋を出て行ってしまった。

扉が閉まる寸前、イーグルは慌ててクレフの後を追った。


──────────

セフィーロ城の回廊に、二人分の足音が反響する。

なぜ追いつけないのか、不思議で仕方がない。
背丈も足の長さも倍近いイーグルが、クレフのせっかちな歩調に追いつこうと足並みを合わせる。


やがてクレフは、小さな扉の前で立ち止まった。
扉が無音で開き、クレフが中へ入って行く。イーグルも続いた。

真っ暗な室内に踏み込むと、まるで人の気配に反応したかのように天井から淡い光が灯った。

「ここは……?」
「治癒室だ」
「……治癒室」

医務室でも、病室でもない名を聞いて、イーグルは不思議そうにおうむ返しをした。

クレフが再び杖をかざすと、円を基盤とした複雑な紋様が、つるんとした石造りの床の上にポッと浮かび上がった。

「これは……魔法陣……? もしかして、病気が完治する魔法の術だったり──」
「魔法で病は治せん」
言葉を被せるように、クレフが言った。

「ですよね」
イーグルは照れ隠しのように笑い、それから小さく息を吐いた。
たとえ一瞬でも期待してしまった自分がいたことに、複雑な思いを抱く。


「服をすべて脱いで、陣の中央に立て」
クレフが言った。

「早くしろ。ヒカルを待たせている」

幽閉室ですら許可されていた衣服を今になって脱ぐことになるとは、思ってもいなかった。
とんでもない指示のはずなのに、有無を言わせない──圧のような言葉の力があった。
イーグルは、言われるがまま衣服に手をかけた。

黒のアンダーウェアを全て脱ぎ、円の中に歩み入ろうとした時──

「すべて、だ」
とクレフが言った。

これには、さすがのイーグルも少したじろいだ。
が、やがて無言のまま、ゆっくりと下着に手をかけた。

城に捕らわれた時点で、死も覚悟していたではないか。

それに、この導師が、自分の尊厳を奪うような──たとえば過去に受けた拷問まがいのような──仕打ちをしてくるとは考えにくい。

ある意味の信頼を以て、イーグルは文字通り〝裸〟 になると、陣の中に歩いて行った。


「これでいいですか」
背を向け、両腕を軽く広げて見せる。

「……こんな恥ずかしい格好では、死ぬに死ねませんね」

言葉に笑みを滲ませるイーグルに、クレフは何も返さず詠唱を始めた。
声は低く響き、魔力の波動が空気を震わせる。

すると、ずっと以前から──医者に病を宣告されるよりもずっと前から──胸の奥にあった、咳き込みそうなむず痒い違和感が、ふっと消えた気がした。
それだけで、イーグルには完治級の処置のように感じられた。


「……なんだか……あったかいです」
「ああ、それでいい。そのまま力を抜いていろ」
落ち着いた声でそう言って、クレフは言葉を続けた。

「これは生命力の循環を整え、毒素の流れを一時的に留める術だ。症状を抑え、痛みや咳嗽感がいそうかんを鈍らせる。……治すことはできないが、多少生きやすくはなるだろう。結果的に病魔の進行を遅らせることにもなる」
「緩和処置……と延命……いうことですか?」
「言い換えるならそうなる。ただし延命については過度な期待はするな。さて、呼ぶぞ」

そう言って、クレフが杖を掲げた。

「え? 呼ぶ?」
「少し、妙な感覚があると思うが――耐えろ」
「……?」

クレフの詠唱の声が、わずかに大きくなる。
 
その時、ぬるり、と何かがイーグルの手首に絡んだ。
ほの温かい、粘膜のような柔らかな感触が手首から指先を包んでいく。

「これは……?」
「魔力の神経触媒だ。身体の中にある毒素の滞留を探し出し、摩擦と粘液によって緩和する」
クレフは一切表情を変えずに答えた。

「……要するに、〝触手で撫で回す治療〟ですか」
「語弊のある言い方をするな」
 
触手は一つではなかった。
背中、腰、脚、腹部、喉元……それぞれが迷いなくイーグルの皮膚の上を滑らかに這い回る。
時に脈動し、時に震えながら。──まるで生きているかのように。
さらに一本が、ゆっくりと太腿の内側を這い、鼠径部をなぞり始めた。
 
「ッ……!?」
「見つけたようだな」
「なに、して…るんですか、これ…っ…」
「声を耐える必要はない。呼吸は細く。荒く吸いこまないようにだけ気をつけろ。ああ、そうだ。うまいではないか。経験があるのか?」
「せ、セクハラです、よ…っ。…という、か…こんなところ……を、触る必、要が…?」
「そこが毒素が最も滞留している部位ということだろう」
「こ、呼吸器……では、……なく?」
「むやみに動こうとするな。大人しく身体を委ねたほうがかえって楽だぞ 」
イーグルを無視して、クレフが言う。

「そ……そうは言っても……くすぐった、くて…っ。あなたも、そんなに淡々としてないで、もう少しくらい動揺してくれたっていいんじゃないですか…」
「オートザムの医者は診療のたびに動揺するのか。クビにしたほうがいいな」
「オートザムには…っ…こんな…医療触手ない…ンですよ……っあ…っっ?」

触手がとどめに〝何か〟 をし、イーグルの体からにゅるにゅると外れて行った。
一仕事終えた職人のような風体で解散していく触手たちを見送りながら、イーグルはぐったりと倒れ込んだ。

ぺしょぺしょに濡れた体を両手両ひざで支え、裸の男が床にひざまずく。
クレフがそばに立ち、脱ぎ捨てられた服を近くに置いてやった。



「延命とおっしゃいましたが……どのぐらいもつものなんですか?」

息を整え、地を這いながら手元に服を手繰り寄せる。
これほどの辱めを受けたのだから、二日や三日などとは言わず、せめて一週間は欲しい。欲を言えば一か月。それだけあれば戦略もだいぶ変わってくる。

揺らぎが生まれる。
故郷に帰ることも、もしかすると叶うかもしれない──


「長くとも50年程度だ」
「は?」
思わず声が漏れ、「失礼」とイーグルはすぐに言い直した。
「50年?」

「端数のような年数だろう。言ったはずだ、期待はするなと」
「端数って……。あなた、いったいおいくつなんですか」
「私は745歳だ」
「……ずいぶんお若く見えますね」
「奥に浴室がある。支度が終わったら部屋へ戻って来い。ヒカルと共に待っている。拘束は──いらんようだな」

わずかな笑みと共にそう言い残し、クレフは治癒室を出て行った。








回廊に、二人のあわただしく走る足音が響く。

「クレフ! 城の中まで崩れはじめたわ!」
「フェリオやファーレン、チゼータの方々は居住区に!」
海と風が、叫びながらクレフの部屋に駆け込んできた。

「って……クレフは?」
海と風が不思議そうに室内を見渡す。
クレフの部屋には、一人ぽつんと残された光の姿しかなかった。

「クレフならイーグルとどこかに行っちゃったよ」
「どこかってどこに!? 二人で!?」
ヒカルはついてくるなって。イーグルの体を診るって言ってた」
「かっ、体を見るですってー!?」
「海さん、おそらく漢字が違いますわ」



イーグルという男──いくら光から「大丈夫。いい人だから」と聞かされているとは言え、どうにも信用できない。人の良い光のことだ。うまく言いこめられている可能性もある。
なにせ、腹にバルカンを思い切り打ち込んでくるような輩だ。

なにせ、腹にバルカンを思い切り打ち込んでくるような輩だ。


が、海の心配をかき消すように、クレフはほどなくして戻って来た。

「クレフ!?一人?大丈夫!? 変なことされてない!?」
「ああ、心配はいらない」
「だって! イーグルって、あのオートザムの……!」
海はすっかり慌てふためき、駆け寄った勢いのまま、クレフの服をめくって腹のあたりを探ろうとした。

「ウミ、案ずるな。あの男は脅威ではない」
海の手を掴んで止め、クレフは言った。

「どういうこと…?」


しばらくして、のろのろと腰を引きずりながらイーグルが入室してきた。
光が心配そうにイーグルのほうへ駆け寄る。
「イーグル! 大丈夫? 顔色が悪……悪い? っていうか赤い?みたいだけど……」

海と風との対面もそこそこに、 イーグルは気まずそうに微笑んで、光の頭をポンと撫でた。
「……今は、あなたに合わせる顔がありません。また、元気になったら会いましょう」

自分の口からでた「元気」という単語に驚きながらも、イーグルは一旦の停戦を誓い、セフィーロ城を後にした。

あんな醜態をさらしておいて、おめおめと死ぬわけにはいかない──絶対に。
そんな強い意志を持って、イーグルはNSXへの帰路に着いた。

白い機体が、曇天を裂いて飛ぶ。



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end
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おだいじに~。
生きねば。






ボス様が…描いてくださった…🙏🙏🙏⬇
リンク先(ポイピク)にもアララなイーグルくんがいます🤤💚



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