【クレ海】全年齢


眠りによせて - deep into the night -




薄暗がりの中、意識がぼんやりと立ち上がり目を開く。

まだ起床する時間ではないことを判断した脳が瞼をおろす命令を下したのでそれに従った。
もう一度寝顔を覗こうかと、脳の命令に逆らう。

ふいに、フフというくぐもった声が聞こえ、瞼は反射的に開いた。真横に伸ばした腕の中を覗くと少女は寝息をたて、夢でも見ているのか嬉しそうに笑っている。

きっかけは些末なことだったと思う。
どちらから言い出したか、少女がセフィーロこちらの世界へ訪れた日の夜は寝所を共にするようになっていた。

彼女の衣服の下に隠された素肌には指一本触れたことがない。その唇の感触も知らない。

ただ、互いの寂しさを分け合うように
共に抱き合い眠りに落ちる夜を過ごしていた。

寝起きこそ悪いものの寝姿は大人しいほうだと思っていたので、声を発して笑みを浮かべながら眠るその様子は新鮮で、思わず頬が緩む。

夢の中で彼女を笑顔にしているものは一体何なのだろうと思案する。

願わくば自分であれ、とも思ったし、
彼女に笑顔をもたらしてくれるのならば他の何者でも良い、とも思った。

セフィーロを、真に美しい国へと導いてくれた少女たち。
そんな彼女たちの幸せを心から願っている。
そして、その幸せを願っているのは、自分だけではない。

だから、彼女がこうして自分の腕の中にいることは奇跡のように感じられた。

腕の中の寝姿は、現実味を持たぬほど美しく、夢を見ているのはむしろ自分なのではないかと不安になる。

消え入りそうなほど透明感のある青い髪を、消えてくれるなと祈りながら撫でた。
指に絡んだ絹の感触は、たしかにそれが現実であることを示す。
年甲斐もなく涙腺が緩みかけ、瞳を固く閉じ、決壊までは防ぐ。

形容しがたい感覚が胸の中に溢れた。
そんな胸の感覚を体外へ逃がすため、口を開き彼女の寝顔に囁く。


「ウミ、愛している」


腕の中の海が再び身じろぎし、フフと声をあげた。
まだ起きる様子はない。
起きたらからかってやろう。
彼女の照れた顔や少し怒った顔を想像すると、また口の端が上がった。

腕がジンとしびれていることに気づいた。
彼女の重みで血流が滞っているのだろう。

海を起こさぬよう、手のひらを何度か開閉して血流を促すと軽い痛みが走った。
回復魔法を使うか、少し悩んでやめた。
彼女のもたらすものは痛みでさえも消したくないと思った。

―病気だな

ひとりごちると、海はまた身じろぎをした。そして小さく声をもらし、そっと目を開いた。

「クレフ、起きてたの?」
愛しい声が、呼ぶ。

「ああ。今しがたな」
そう返すと、海は「ねむいわ」と言ってこちらへ擦り寄ってきた。

「夢を見たわ」
「ああ、知っている」
「え!?なんで?」
海が驚いた様子で顔をあげる。

「にやけて幸せそうに笑っていた。よほど良い夢を見たのだろうな」
「クレフの夢を見てたの」
顔を伏せ、少し声がこもった声で海が言った。

あの形容しがたい感覚が胸に走る。
「私の夢?」
「クレフね、私のこと好きなんですって」
言いながら、海はからかうようにフフと笑った。
「……それは、夢ではないな」
そう返すと、笑い声がピタとやんだ。
「からかったつもりだったのに」
「百年早い」
「クレフにとったら誤差みたいなものじゃない」
海はまた可笑しそうに鈴の音の笑い声をあげた。

「ね?クレフ、夢の続きを言ってもいい?」
「ん…?」
考える前に返事をすると、海はその美しい顔に笑みを乗せ、口を開いた。

「私も、大好きよ」






『眠りによせて - deep into the night -』

end









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お付き合いするってレベルではないクレ海ちゃん。
そばにいたいだけなのです。



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