【クレ海】全年齢



Especial !






「導師はもう決められましたか?」
「なんの話だ」

いぶかしむ表情を隠しもせず、クレフはフェリオのほうを見た。

この国最高位の魔導師に、気軽に雑談をもちかけられる者は少ない。ことフェリオにおいては王子という立場もさることながら、『異世界の少女』に深くかかわる者同士として、こうして話し相手となることも珍しくなかった。

どうせまたろくな話ではないのだろう。無駄話をしている暇があったら手を動かせ。

クレフの厳しい視線にもめげず、フェリオは果敢にも会話を続けた。
「お返しの品ですよ。先月ウミからもらったでしょう?」

フェリオの顔には、悪戯心の隠しきれていない笑みが浮かんでいる。
「カルディナいわく、お返しは高級な品のほうが喜ばれるんだそうですよ」

苦笑いと共に、フェリオはそんな言葉を足した。

クレフは筆記具を机上に置き、机の上で手を組んだ。フェリオから視線を外し、少し過去を探る。そういえば先月、海たちから異世界の食べ物を頂戴した。煌びやかな包みの中には褐色に輝く甘い香りの菓子が入っていて、それは『チョコレート』という名が付いていたと記憶している。
「たしかに受け取った。礼はするつもりでいたが品を何にするかは決めかねていたところだ」

とクレフは答えた。

フェリオはふむと頷く。なんだ、このご高齢者殿もなんだかんだできちんと返礼のことを考えているのではないか。感心にもからかいにも近い感情によって、フェリオの顔はニヤニヤと崩れた。が、続くクレフの言葉によってフェリオの顔は更に崩れることとなる。
「三人ともを満足させる品を選ぶというのはなかなか難しくてな」

フェリオはがくりと膝から床に落ち、「はい?」と素っ頓狂な声を上げた。
「導師、まさかとは思いますが、三人ともに同じ品を贈るつもりではないでしょうね」
「何を言っている。品を分けては不公平になってしまうだろう」
「そんな!」

思わず大きな声が出る。しかし、目の前の人物は師として人として、尊敬すべき人であることをどうにか思い出し、フェリオは一つ咳払いをした。
「そんなことはありません、導師。むしろ同じ品を贈るほうが不誠実というもの。来週ヒカルとフウをここへ呼びましょう。恐れながら、導師はこの異世界の風習についてまだ理解しておられないようだ」





🎁2




「というわけなんだ。ここは一つ! 頼んだ魔法騎士」

ここしばらく誰も使わなかった呼称で彼女たちを呼び、フェリオが頭を下げる。

海のためならと、光と風は快く頷いた。
「それにしても、クレフさんが私たち全員に同じものを返そうと思っていたなんて……」

風は頬に手を当て、困り顔を見せた。
「とはいえ、海さんがクレフさんにまだ想いを伝えていらっしゃらない以上は、私たちがあれこれと口を出すのもはばかられますわねえ」
「クレフに『海ちゃんのチョコレートは本命だからしっかりお返ししてあげてね』って伝えたらダメってことだな」たしか空の色って青だよね?  そんな口調で光が言うと、三人は目を合わせコクコクと頷いた。
「でもクレフ、うらやましいなあ。あんなにおいしい海ちゃんのチョコレートを毎年食べられるなんて」

言いながら、うっとりと目を細める。光は、先月海が『友チョコ』としてふるまってくれたチョコレートアイスの甘さを思い出していた。
「海さんのスイーツ作りは味も見た目もますます磨きがかかっていますものね」
「私、海ちゃんがクレフに作ったチョコレートを少し見せてもらったけど、すごかったよ! ツヤツヤで、キラキラしてて、売り物のチョコよりずっと綺麗だった!」
「そうですわね。あのチョコレートと私たちが差し上げた市販品に対するお返しが同じというのはあまりにも……」

風が、再び頬に手を当てた。



🎁3





交渉には風があたるのが適切だろう。それは一同の総意だった。

約束通り『異世界の風習』を教えるという建前でクレフに自室へ通されると、風と光は『ホワイトデー』とはなんぞやという教示をクレフに与えた。
「私たちも、けして適当に選んで差し上げたわけではありませんわ」

手はず通り、風が会話を進める。カルディナがクレフに吹き込んだ誤情報のせいで時折脱線しそうになったものの、会話を軌道修正しながらどうにか本題へと進むことができた。
「けれど、海さんのチョコレート、私たちが差し上げたものとは少し違いましたでしょう?」

クレフは「たしかに」と小さく言った。
「つまり、ウミへの返礼品には少し気を使え。お前たちが言いたいのはそういうことだな」
「ご明察です」

特別なチョコレートものには特別なお返しをしなければ。

と、風は両掌を合わせた。交渉がスムーズに進んだ安心感が風に彼女本来の柔らかな微笑みをもたらす。
「何を贈るか考えるのって少し大変かもしれないけど、クレフ、頑張ってね」

椅子から立ち上がり、光が爛漫に微笑んだ。
「相手のことを想って何を贈りたいかを考えることが大切だと思うよ」と。

それから、私達へのお返しは結構ですから。

その分を海ちゃんに。

そんな言葉を残し、風と光は扉をそっと閉めた。





🎁 4





地球でいうところの三月十四日の暦。

普段ならば、到着してしばらくは友人知人に挨拶をするため連れ立って城を回るというのに。今日は到着するやいなや、光と風が慌てた様子で散開しようとするので海はたじろいだ。
「今日はホワイトデーだものね」

城の回廊、ポツンと一人残された海はそう呟いた。

きっと光たちは想い人たちの者へ向かったのだろう。
「がんばってね!」
「ご健闘をお祈りしていますわ!」

去り際に言われた言葉が気になるところではある。


城での過ごし方にも慣れてきた。時折こうして一人になった時の海の行き先は決まっていた。

約束を結ぶような関係でもない。わざわざ部屋まで会いに行くのも気が引ける。そんな海の想いの、妥協と期待の中間地点がセフィーロ城の園庭だった。執務室からほどない位置にあるその庭は、クレフにとって良い休息場所にもなっていた。
『来ていたのか、ウミ』そんな言葉と共に、彼が園庭に顔を覗かせることを願いながら回廊を進む。途中立ち寄った蔵書室で本を数冊借りた。セフィーロ文字にはまだ不慣れでも、これくらいなら読めるはずだ。
「ホワイトデーねえ」

歩きながら独り言をもらせば、先月クレフにチョコレートを手渡した時のことが思い出される。
『いつもお世話になってるからね! 別にクレフに特別にってわけじゃないし!』

自分のセリフを脳内に巡らせ、我ながらすごく自然に渡せたわと、そんなことを考える。


「そもそも義理チョコとか本命チョコとか、あの鈍感導師にわかるわけがないし」
「誰が鈍感だ」

海の肩がビクと震えた。

独り言への返事。突然降ってきた声に、思わず本を落としそうになる。崩れる本を、クレフがすんでのところで支えた。
「ク、く、クレフ! どうしたの? こんなところで!」
「姿が見えたので追って来たのだ。声をかけても独り言に夢中なようで気が付かんし。少しぼうっとしすぎだぞ」

出会い頭から苦言を呈するクレフに、海の眉がつりあがる。
「クレフこそ、人の独り言を盗み聞きするなんて良い趣味してるわね」

いつものように戯言を二、三繰り広げた後、クレフが咳ばらいをして少し神妙に言った。
「その様子では暇そうだな。用がある。私の部屋へ来い」
「用……?」
「たいしたことではない。いいから来い」

ローブをなびかせスタスタと進むクレフを海は追った。

クレフが先に進んでくれてよかった。

こんなニヤケ顔を見られるわけにはいかない。





🎁 5



ふわふわと柔らかな湯気を放つ。ソファに腰掛けた海はカップから茶を一口すすり、その温度にふうと息をついた。温かさが身に染みる。そういえば今日はなかなか寒い。クレフはソファには腰かけず、窓の外を見ていた。クレフの視線をたどる。今にも雪が降りそうな曇天模様だ。
「寒いか?」

クレフは海の元へゆっくりと歩みを寄せ、杖の宝玉から一枚の膝かけを取り出した。

膝の上にゆっくりと舞い降りた柔らかな布を、指先でつまみ引き寄せる。「ありがと」と海が小さく礼を言うとクレフの口元がゆるやかに弧を描いた。

回廊での喧々としたやりとりが嘘のようだ。そう様々な表情を見せられては調子が狂う。

柔らかな笑顔も、落ち着いた深い声も、今は自分だけに向けられている。そのことが海にとってはこの上ない喜びだった。
「しかしまた、随分と借りてきたな」

サイドテーブルに置かれた本を指でなぞり、クレフが言った。
「お菓子のレシピ本をね、借りてきたの。こっちの世界の味付けも勉強してみたいし、色々と違いがあって面白いのよ」

ペラペラとページをめくり「見て、すごくおいしそうじゃない?」と声を弾ませる海に、クレフが言った。
「ウミは、本当に好きなのだな」
「はい!?」

思わず声が裏返る。この一瞬で心を読まれたのかと思った。

はい、好きです。お慕い申し上げております。そんな心の声を。

けれどほんの数秒も考えればクレフの示すところの目的語は『クレフ』ではなく『お菓子作り』であることに気付く。

海は取り繕うように、「まあね」と返した。
「ほ、ほらこれ見て」

動揺の解消作業は続く。

開いたページをクレフに見せると、海は早口に言った。
「これなんて、この前クレフに渡したチョコレートにそっくり。あのチョコね、温度管理がとっても難しくって、あんなふうにツヤツヤの鏡みたいなミロワールにするのは結構大変なのよ。お部屋が暖かすぎてもいけないから真冬なのに窓を開けてね、それで何回も作り直してようやくあの艶が……」

ここまで言って、海は自らの口を塞いだ。
(こんなこと言ったら、恩着せがましいと思われちゃう!)

つい、お菓子作りへの熱が勝ってしまった。動揺を解消するために語った熱弁は、もしかしたら押しつけがましさとして伝わってしまったかもしれない。
「あの……」

海が弁明の言葉を口にする前に、クレフが言った。
「そのような手間をかけて作ってくれたのか」

彼の表情には、申し訳なさというよりも、むしろ喜びのほうが色濃く表れていた。

予想外のクレフの反応に、海は声ともつかぬ声をもらした。
「えっと…あの……違くって……」

その時、海が小さく悲鳴を上げたのは、突然クレフが横隣に腰かけたからだった。

クレフの杖はいつのまにか姿を消していた。すぐ真横には端正な顔が覗く。

長い前髪から透ける青い瞳が、海を差した。
「違うのか?」
「違…わない……けど、別にそんなんじゃ……」

クレフがまるで肩を抱くかのように背もたれに腕を回すので、海の顔は急速に赤く染まっていく。
「先日」

クレフは、腕を回したまま上体を少し前に傾けると、海の膝に開かれた本の挿絵を指でコツコツと叩き、言った。
「『これ』の風習についてフウとヒカルから手厚い教示を頂戴してな」
「きょーじ……?」
「お前が私にくれたものは、何やら特別なものだったらしい」

覗き込むようなクレフの視線に、ドキドキと心臓が跳ねる。

まさか、光と風が自分の気持ちをクレフに伝えるわけがない。それにしても今の彼の行動は、海には到底理解しがたいものだった。

クレフの手が髪に触れるので、海はいよいよ思考を手放しかけた。

脳は沸騰寸前だ。
「失礼する」

小さく呟き、クレフは海のカチューシャをそっと取り外した。
「え……?」

突然のクレフの行動と、髪の毛が跳ねる違和感に、海は反射的に頭を抑えた。
「クレフ!?」
「これを」

言いながら、クレフが懐をさぐる。

海はわけも分からず、ただ頭を抑えたまま目をパチクリと瞬いた。
「気に入らなければ処分してくれ」

クレフの手元には、紺碧色の絹のような装飾品があった。海の瞳がにわかに潤む。

そのヘッドドレスは、今しがた取り外された自分のカチューシャと酷似している。
「これ…まさか、私に…?」

口元を両手で抑えながら海が言った。
「お前以外に誰がいる」

クレフの声質もまた、少しの緊張を含んでいた。
「つけてみせてほしい」

クレフが言うと、海は両手を口に当てたまま小さく頷いた。

クレフの指が海の前髪、頭頂、そして耳元に触れる。

如才ない所作でヘッドドレスを装着すると、クレフは仕上げのように、海の髪を撫でた。
「良いな」

芸術品を作り上げたかのような満足気な笑みを浮かべる。クレフの艶めき立った囁き声に、海は堪らず顔を覆い隠した。
「ウミ、顔を見せてはくれまいか?」
「無理です……」
「ウミ」
「無理よ」
「ウミ」
「恥ずかしいんだってば」

蚊の鳴くような声で海が言うので、どうしたものかとクレフは腕を組んだ。

そしてはたと閃き、人差し指をピンと立てた。

その指が空中に楕円形を描く。指先から空中に表れた楕円の水粒は凝固し銀色の塊となった。指の隙間から様子を覗いていた海は、それが『鏡』なのだと気付いた。
「ウミ」

クレフがもう一度名を呼ぶ。海は顔の前から、ゆっくりと手を外した。

鏡に映る上質な絹の青色は、流れる薄水色の髪ととても良く調和している。あしらわれた宝石や金属の類は、おそらくセフィーロでも上等のものなのだろう。

装飾品の上品さに底上げされてか、見慣れた自分の顔が少し大人っぽく見える。

これは、このヘッドドレスは、クレフが魔法を施して用意してくれたものだということが、海には直感でわかった。
「これ……もしかして私のために作ってくれたの……?」
「〝鈍感導師〟は少々頑張ったつもりだ」
「い……イジワルね」
「どうとでも」

戯言は、甘く丸く柔らかな口調で営まれる。二人ともがクスクスと笑い声を零した。

鏡の中で目が合うと、クレフは一層目を細め「綺麗だ」と囁いた。海の表情が固まる。

こんなふうにクレフに容姿を褒められたことは、今までに一度もなかった。

違う、私じゃなくてヘッドドレスのことを言ったに決まっている。

自分自身にそう言い聞かせながら、海は止まりかけた呼吸をどうにか取り戻した。
「あの……」

大きく深呼吸をし、背筋を伸ばす。

そういえば、大切なことを言っていなかった。

鏡ごしではなく、クレフと直接目を合わせて海は言った。
「嬉しいわ。クレフ、本当にありがとう。大切にします」

満面の笑みと共に紡がれる素直な言葉。用意したヘッドドレスは想像をはるか超えて海の魅力を引き立てていた。息が止まったのは、今度はクレフのほうだった。



ガタリと音を立て、突然立ち上がったクレフに、海が「どうしたの?」の声をかける。
「せっかくだ、外に出よう」

目も合わせずに言うと、クレフは杖を出現させ、そして外行きのローブを二組取り出した。
「用事?」
「いや」

海も立ち上がり、クレフからローブを受け取る。布地をくるりとひるがえして背に羽織り「一緒に行くの?」と尋ねればクレフは「不服か?」と尋ね返した。
「そんなわけっ…! ……だって、珍しいじゃない。用事もないのに二人でお出かけするなんて」

慣れないセフィーロ製の留め具に手間どり、海は襟元の金具をいつまでもカチャカチャと触っている。見かねたクレフが海の留め具を留めてやると、海は礼を言った後、「でも……」と小さな声で言った。俯いた表情は、照れくさそうに微笑みを零している。
「……嬉しいわ。クレフと一緒にお出かけできるの」

はにかむように下唇を噛み、海はそう呟いた。

その瞬間、クレフが両手で海の頬を包んだ。
「な、なに……!? いきなりどしたの…?」

半ば強制的に上を向かされた海の瞳には、驚きと戸惑いの色が浮かぶ。
「お前というやつは、本当に」
「あ、あの……クレフ…?」

戸惑いと緊張の中、二人の距離が次第に縮まっていく。

前髪が重なり合った時、海は覚悟と共に瞳を閉じた。

ぎゅうとまぶたを固く閉じ、緊張に震える海の様子を見、クレフは苦笑いを浮かべた。

そして、それ以上距離を縮めることはやめ、包んでいた手で海の頬を柔くつまんだ。
「へ……?」

むに、と頬をつままれ、海の口からは抜けた声が漏れる。
「その顔」
「え?」
「その顔、他の者の前ではしないこと」
「なんのこと? どの顔よ?」
「今日この部屋で見せた顔全てだ」

クレフは、不機嫌にも近い口調で言ってのけると海に背を向け「行くぞ」と言った。
「そんなこと言ったって!」

海に構わず、クレフはスタスタと進んでいく。
「なんなのよ、もう」

顔を真っ赤にして、海はクレフの後を追った。











 
 後日談1




「随分と景気がよろしいでんなあ」

翌週、セフィーロ城の回廊でカルディナにでくわした。その瞳は、ヘッドドレスに装飾された宝石に負けず劣らず、興味津々に輝いている。
(これをクレフからもらったことは光と風以外には言っていないのに!)

からかう気満々の彼女の様子に、海の心臓は落ち着かなかった。

カルディナは顎に手を当て、海のヘッドドレスを凝視したまま、低いうなり声をあげた。
「うーん? まさかこの宝石、°˖✧˖✧石と☽⋆。˚✩石ちゃう?」

耳慣れない宝石の名に、海は首をかしげる。
「やっぱそうや。間違いない! ほんまもんは初めて見たわ!」
「これ、そんなにすごい石なの?」
「なんや、知らないでつけとるん!? °˖✧˖✧石と☽⋆。˚✩石言うたらセフィーロ屈指のおっっ高い石でな、しかもこの色、超高等魔術がかけられてるやろ? この石にまじないかけるんは本っ当ーにむずかしうて、それこそセフィーロ最高位の……」

カルディナの饒舌なおしゃべりがピタリと止んだ。
「ほーほー」とか「なるほどなるほど」と言いながらニマニマと笑みを浮かべている。
「ま、大事にしたほうがええよ。その石をその色に光らせるまじないはちょっと『特別すぺしゃる』や。一生に一度……そやね、たとえば求婚の時に使われることもあるさかいに」
「きゅ、きゅ、求婚……!?」
「本人にその意思があるんかはわからんけどな。しっかしこの色の純度! ちょっとした執念みたいなもんを感じるわ」
「執念……!?」
「ともかく、それほどドえらい石っちゅうことや。いらんようになったら声かけてえな」

見積りまっせ、と楽しそうに言いながら、カルディナは去って行った。
「そんなにすごい石だったの……。もう一回、お礼を言いに行こうかしら」

そうして海は今日も、想い人の部屋へ赴く理由を作った。





 
 後日談 2


「『ホワイトデー』のホの字も知らなかったお方が、まさかそんな高級品を返礼の品にするとは」
「特別なチョコレートものには特別なお返しを、だろう」

風の言葉を借り、クレフが口の端を上げるとフェリオもわずかに表情を崩した。
「しかし、初めての『ホワイトデー』がそれでは、来年からが大変ですね」
「どういう意味だ」
「来年はもっと高級な品を渡さないといけなくなってしまうでしょう」

悪戯っぽい笑みを浮かべ、フェリオは言った。
「ウミは…ウミたちは物をねだるような娘ではなかろう。それに、幸い生活には困っていないものでな」
「来年には土地でも買ってやるんでしょうね」

フェリオが少しの嫌味をこめて言うと、クレフは「それは良い」と可笑しそうに笑った。

その時、扉の向こうに気配を察する。
「すまない、この話はまた別に機会に。フウにもあらためて礼を言っておいてくれ」

退室の意をくみ取ったフェリオは、ひざまずき、一礼をしてから導師に背を向けた。

部屋の扉が開き、青髪の少女とすれ違う。
「よう、地主さま」
「は?」
「いや、なんでも。それより随分と良いものを身につけているじゃないか」

軽口を叩くフェリオに、海も笑顔で応じる。
「あなたの恋人のおかげかもね」

海が入室しフェリオが回廊へ出ると、部屋の扉はスとしまった。

心なしか追い出されるように早めに閉まった気がしないでもない。
「まったく……」

頭の後ろで手を組み不満げにため息をつくが、その表情は嬉しそうに緩んでいる。
「俺のおかげでもあるんだけどなあ」そんな独り言を零す。

そして、フェリオははたと思い返した。海が装着していたヘッドドレス。

装飾品のあの石はたしか。

フェリオは一層顔を緩め、そしてこのからかいがいのある話を共有すべく、恋人の元へと急いだ。





「Especial !」End
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