【クレ海+フェリオ】の棚

「棘」
最近王子は変わった。
湯上り、体温が上がって気がゆるんだせいもあった。
それに、酒の力を少し借りた。
「お風呂上りに飲むなんて珍しいわね」
笑いながら、同じく湯上りの海がクレフの手元を覗き込む。
「私も頂いちゃおうかしら」
厨からグラスをひとつ手に取り、クレフの隣に腰かける。
クレフが酒を注いでやろうとすると、海がちょっと待ってと言って彼の手を制した。
海が指でくるりと宙に輪を描く。輪の中央から一つの氷が出現し、それは海のグラスの中にカランと落ちた。
「私も作ってもらえばよかった」
羨ましそうに、クレフが少しの笑みを零し、そして氷の上に酒を注いだ。
二人でグラスを軽く合わせて、それから海が一口含んだのを横目に見ると、クレフは最近頭悩ませていた事柄をついに恋人に零した。
「〝変わった〟って、どんな風に?」
海が尋ねると、クレフはグラスをテーブルに置いて押し黙った。
言葉を探している。それは海にもわかった。
彼がこんな風に沈黙を作るのは、なにか言いにくいことがある時。だけど、聞いてほしい時。
そんな時、海はクレフの言葉をじっと待つ。
けしてのんびり屋ではない性格の彼女が、今ばかりはそうする。
随分といい女になってしまったものだなと、クレフは思う。
海の美しい横顔をしばらく眺め、それから肩を抱き寄せた。
「人は変わる」
とクレフが呟いた。
海はクレフの肩口に頭を預け、言葉の続きを待った。
どこか寂しそうな物言いに、海の心にもどこか寂寥が差す。
抱きしめようかと海は少し悩んで、けれどそうせずにグラスを傾けた。
「顔つきが」
クレフがゆっくりと言った。
「大人になった」
自分に向けて言っているのではない。
〝変わった〟と言った男の話を、クレフはしている。
そりゃあ私たちだってもう二十歳をとっくに超えたんですもの。大人にもなるでしょ。
きっと、そんなことを言いたいんじゃない。
クレフの本意を引き出すともなく海が言えば、クレフは「そうだな」と小さく零した。
ほらね。
なかなか心の内を明かさない恋人に、次第に海も焦れてきて「ねえ何を言いたいの」という気持ちを、額をすり付け肩口に伝える。
すり寄る海の頭をそっと撫で、クレフが言った。
「お前も大人になったな」
今度は、自分に向けて発せられた言葉。
グラスの氷がカランと音を立て、酒に触れた唇がひんやりと熱を下げた。
「ね、クレフも、冷たいの飲む?」
海が控えめに言えばクレフは彼女の意図を察し、そうした。
唇が重なる。酒の味と唾液が混ざり合う。
深く吸いたいところをこらえ、いつもよりもずいぶん早く海を解放すれば、上気した頬とうるんだ瞳がクレフの情欲を誘った。
「やはり、及んだのだろうか。王子も」
クレフの言葉に、海がむせかけた。喉を潤そうとしても目の前には強い酒しかない。ケホケホと情けなく咳こんでいるとクレフが海の背をさすって「すまない」と申し訳なさそうに笑った。
「及んだっていうのは……その……つまり」
海が恥ずかしげに尋ねると、クレフはゆっくりと頷いた。
お相手は、きっとあの他国の司令官。
最近、彼らが急接近していることは皆が薄々と察しているところではあった。
元々眉目秀麗である
そして王子もまた、彼を見送るときにはまるで乙女のような瞳の輝きと、そして同じく艶を乗せた表情を浮かべる。
私にもわかっちゃうくらいだから、クレフなら尚更よね。
海はそんな風に思い、複雑な彼の胸中に想いをやった。
「寂しい?」
尋ねたのは、そんな言葉だった。
クレフはハッと目を瞬かせ、海を見る。
海がもう一度尋ねた。
「寂しい?」
認めちゃったら?
そんなニュアンスが、海の声色に交じる。
今度は、クレフが海の肩口に頭を預けた。
そして「ああ」と小さく呟いた。
正論を言っても仕方がない。
けれど誰かが言わなければ。
どのみち刺さる棘ならば、せめてそれを刺すのは自分でありたい。
そんな想いで、海はクレフに言った。
「いつまでも〝みんなのフェリオ〟じゃないんだから」
自分は知らない。
幼少の時から彼らが見守って来た王子は、いずれ巣立つ。
「あなたも、子離れしないと」
クレフのたじろぐような吐息が肩のほうで鳴った。
海は手を伸ばして薄紫の髪をそっと撫でる。
ごめんね。海は呟き、そして髪を撫でた手を止めて、テーブルのグラスに手を伸ばした。
「冷たいの、飲む?」
かけらになった氷が、海の舌で溶けていく。
氷はいずれクレフのものになり、そしてゆっくりと消えていった。
「棘」
end
😇<これみてかいたの
イーフェリ🔞らくがき(※チゼータ仕様)
例によって「くるっぷフォロワー限定公開」です🙇♀️
👇👇👇
https://t.co/ngW1zhmuBJ— LAKI⚔王子をいじ愛で隊 (@laki_b_)June 2, 2023
(埋め込み表示用ダミー)