【クレ海+フェリオ】の棚




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   『その恋心、没収です』



スティック状の菓子を四本横に並べると日付の形に見える。
そんな企業のしたたかな企みによって。

今日は浮つく生徒が多くなるからと、放課後の抜き打ち検査を頼まれた。

恨まれ役という名の雑用を任され、少しイラつきながら廊下を行く。
見回りの相方となった教師は、没収したおやつを抱えながら隣を歩いている。
やけに嬉しそうに。
まさか後で食べられるとでも思っているのだろうか。



廊下を行くと、ある教室から不穏な空気を察知した。
教師の勘と言うものか。
良からぬことをしている気配が、扉から漏れ出ているような気がする。

ピシャと扉を開け、入り込むと
教室には、緑髪の生徒が窓際で外を眺めていた。

「げ」

口元には細い棒状のチョコレート菓子。
現行犯だ。

生徒手帳を提示させるまでもない。
指導生徒一覧(ブラックリスト)に名を書き、菓子を預かる。

「んだよ、みんなだって持ってきてるのになんで俺だけ!」
フェリオは捉えられた犯罪人のような口調で言った。

「その〝みんな〟の名を言うか?」
「仲間は売れねーです」

生意気な返答。
叱られているというのにどこか正義漢めいた発言がおかしく、イーグルはクレフの陰でくすくすと笑った。


クレフが原稿用紙を手渡すとフェリオは「うげ」と顔を歪めた。
「二枚も!?」
「自業自得だ」

それから、クレフはイーグルのほうを見て言った。
「悪いがここでフェリオを見張っておいてくれ。こいつがまともに書いて帰るとは思えん。残りのクラスは私が見る」





Side.イーフェリ



二人残された教室で、フェリオは頬杖をつき、シャープペンシルをカチカチと鳴らし続ける。
原稿用紙にはまだ一文字も記されていない。

「ポッキー食べてたくらいで何書けってんだよ」
すると、イーグルはフェリオの前の椅子を引き、そこに腰掛けた。

没収したお菓子をぽりぽりと食べだすので、フェリオは「あー!」と声を上げた。

「内緒ですよ」
「言ってやろ」
「取引しましょ」
と、イーグルは言った。

そして、イーグルは机上の原稿用紙を指さしながら再び口を開いた。
「えー、僕は本日十一月十一日、学校内での飲食を禁止されているお菓子を……ほら、書かなくていいんですか?」

「え?」
フェリオは、言われるがまま、慌ててイーグルの言葉を原稿用紙に書き起こした。

「取引ってこういうことか」
「一緒に食べちゃいましょ。クレフ先生には秘密です」
「イーグル先生、やっぱ話がわかるぜ」

要は、反省文の代行だ。
フェリオは、嬉々としてイーグルの言葉を書き写していく。


一枚目を書き終え、一区切りがついたところで、イーグルが「これ、食べてみてください」と言って、先ほどフェリオから没収したチョコレート菓子を差し出した。

棒状のそれを目の前に差し出されれば「あーん」と口を開けてしまうのは反射反応にも近い。
まるで餌付けされるようにポッキーを食べ進めていると、イーグルが「ちょっと目をつむってもらえます?」と言った。

「目? なんで?」
いいからいいから、と勧めるのでフェリオはその通りにする。
目をつむったままポッキーを食べさせられ、まるでフォアグラのような気持ちにもなってくる。

「ポッキー好きなんですか?」
「嫌いなら食べない」
「好きなんですか?」
「まあ好きだな。なあ、もう目あけていいか?」
「〝イーグル先生〟と言ったら、開けていいですよ」

フェリオはいぶかしみながらもイーグルの言う通りにし、そして目を開けた。


「おい、どういうことだよ」
イーグルが、こちらに向けてスマートフォンを向けている。

「撮ってたのかよ! え? しかも動画!?」
フェリオが激昂の様子を見せたが、イーグルがすぐさま反省文の続きの文面を述べ始めたので文句を言う間もない。
フェリオは慌ててそれを書き写した。


「できた!」
埋まった原稿用紙を満足気に掲げてフェリオが言った後「僕もできました」とイーグルが言った。
「なにが?」

イーグルは先ほどからなにやら熱心に作業していたスマートフォンをフェリオのほうに見せ、動画を再生させた。

目をつむったままポッキーを食べるフェリオの様子。

そして、
「イーグル先生 好きだな イーグル 好きだ」
ツギハギの音声が再生される。
無理な加工だが、繋げてみればなるほど、たしかにそう言っているようにも聞こえる。

「次は見つからないように気をつけてください」

手元のポッキーでフェリオの文句を物理的に封じ、イーグルは教室をあとにした。







Side.クレ海



残ったクラスを見回ったが、思ったほどの成果はなかった。
いや、ないほうがもちろん良いのだが。

あらかたの見回りを終え、最後の教室に海はいた。
「あ」と声を上げた彼女の手元には、やや緑色を帯びたアルミの菓子袋がある。
机の上には緑色の箱。
したたかな企業の、有名なプレッツェル菓子のパッケージだった。

突然教室に現れたクレフを見て、海は多少の驚きこそあれ、フェリオほどの動揺はなかった。


意外と言えば意外だった。
海は、品行方正とまではいかないが、校則を破ってまで、しかも一人で菓子を食べるような素行の持ち主だとは思っていなかった。

「意外だな。そんなに食い意地が張っていたとは」

クレフがそのままを口にすると、海は「別にそういうわけじゃ」と小さく言った。
「そんなものを持ちながら言ってもまるで説得力がない」
「だって……」
どのような言い訳が繰り出されるのか。
クレフは少しの興味を抱えながら、海の言葉の続きを待った。


「先生が……見回りするって、聞いてたから」
クレフの、ファイルを開く手がピクリと止まった。

見回りをすることがわかっているのなら、菓子はしまうべきだ。
矛盾した意味不明の言葉。

けれど、一つの仮定をあてはめればそれはたやすく理解ができる。


とうに気付いてはいる。
この生徒の想い。
そして、それを悪からず思っている自分の感情も。
けれど教師という立場上、今はどうすることもできない。

「規則は規則だ」
言いながらファイルを開き、クレフは指導生徒一覧に〝龍咲海〟の名前を書き記すと、海に二枚の原稿用紙を手渡した。

「二枚も書くの!?」
海が大きな声を上げた。
「自業自得だ」

アルミ袋を海から受け取る。
その時、クレフは目を見開いた。
封が開いていない。

我が校では、菓子の〝持ち込み自体〟は禁止されていない。
つまり、〝校内で飲食〟をしていない限り懲罰することはできない。

「没収するんでしょ?」
と海が言った。

すでにブラックリストに記名をしてしまった。
一度書いた〝龍咲海〟の名前に取り消し線など引けば、あとでイーグルに何を言われるかわかったものではない。


やむをえまい。
クレフは、唐突にアルミ袋の口をつまんで封を裂いた。
中から一本を取り出すと、それを海の口元に突っ込んだ。
海が反応を示す前に、その反対側を一口ついばみ、かじる。
塩気のある乾いた感触が唇に触れた。

「これで共犯だ」

反省文の内容は考えてやるから、早く書け。

そう言って、クレフは海の隣で椅子を引いた。








End



LAKIさまありがとうございました!
タイトルこっぱずかし~~!(でも楽しかった!)



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