🏫きんぎょ注意報!🕶🎀(7作)※大工事中




「Birthday × Birthday」



これは、罰ゲームか何かか? と思う

葵は「勘弁してくれよ」と呟き机につっぷした。


新田舎ノ中の同窓会は、例年学び舎で行われる。
それは予算の関係でもあるし、何よりあのエネルギー集合体を収められる会場は、日本にはほぼほぼ存在しない。卒業生がこの校舎を使うには、千歳が若干の権力を発動してはいるものの、今日その彼女の姿はない。

馴染みの教室、黒板には丸っこい文字で「ちーちゃんのおたんじょーびプレゼント 案!」
と横書きに書かれている。

丁寧な文字で、縦書きに箇条書きされているのは、例の炭水化物入りパンだったり、スナック菓子の名前だったり肩たたき券だったり、いろいろだ。何やら高級そうなブランド名には、几帳面なほどにまっすぐな取消線が引かれている。

クラスメイトほぼ全員分の正の字が書かれたその品名に、わぴこは自分と髪の色に似た色のチョークで、丸っこい大きな花丸を書いた。

秀一が、黒板用の大きな三角定規をフックにつるし、白いチョークの粉を手で払いながら言った。

「では、今年の生徒会長の誕生日プレゼントは、--ということで」
封じていたはずの方言が、帰省した途端口から出てしまうように、旧クラスメイトを前に、秀一の口から当時の呼び名が零れた。






プレゼント選びの議論は、例年ながら白熱した。
女子からはそれなりに良いアイディアが出たものの、どれも、しっくりこない。
そこらの品物では満足しないだろう、という一同の見解は、普段からの彼女の高飛車で世間知らずな言動によるものに間違いなかった。しかしながら、文句を言いながらも一同が議論を続けるのは、彼女の根底にある求心力によるものであることもまた間違いない。それに、わぴこの鶴の一声が加わればこそ、だ。

議論が停滞し、徐々に挙手が減った頃、「そういえば」とクラスメイトの一人が言った。

「ちーちゃん、サングラス探してた」

睡眠を貪っていた葵の腕が、ぴくりと動く。
秀一が『サングラス』と箇条書きを追加しながら呟いた。

「そういえば、千歳さん、今年の紫外線は目に来るとかなんとか言っていた気がするな」

「ただのトシじゃねえの」

秀一の呟き声を耳ざとく拾った葵が言った。頭の後ろで腕を組みながら、のんきにあくびなどしている。一同の視線が、葵に刺さる。

「な、なんだよ」

「ねえ葵ちゃん! ちーちゃんにサングラス選んであげてよ」
有無を言わさぬ笑顔に、葵がたじろぐ。このクラスで、最も葵を動かせる存在にそう言われれば、頭ごなしに否定することもできない。

「そうだね、餅は餅屋とも言うし」
秀一が言った。
「俺はグラサン屋じゃねえ!」

わぴこがもう一度微笑み、そして、葵は再び机につっぷすこととなった。
「勘弁してくれよ」


___


この顛末に至った経緯を、千歳にすべて説明するという条件付きで、葵は話を飲んだ。
「言っとかねーとぜってえ面倒くさいことになる」と、葵は経験から判断した。



卒業後は、待ち合わせもショッピングも、二人きりでしたことなどない。

道すがら、気恥ずかしさをごまかすように、二人ともが多弁になった。しかし、「いい天気ね」などと最初こそぎこちなく空回っていた会話も、次第に馴染み、いざお目当ての品を選ぶ段になれば、その空気は「いつも通り」と呼べるものになっていた。

「とりあえず片っ端からかけてみればいんじゃね?」
店頭で、葵が言った。

「なによそれ。任命されたんなら、もうちょっと責任感持ちなさいよね」
言いながらも、千歳はいそいそと手元のグラスを手に取り、目元にかけた。

鏡を覗き、うーん、とうなる。
「どう……?」
その口調には、すでに否の意思が含まれていた。
葵も「ねーな」と即断する。

それを何度か繰り返すと、千歳の審美眼も徐々に育ってきたのか、「どう?」と聞く口調は次第に明るくなり、葵も、反射で否の合図を出すことはなくなってきた。とはいえ、なかなか葵のゴーが出ない。

千歳が「これこそは」と、選んだものですら、葵は「なんか違う」と渋く言った。
「悪くはねーんだけどな」
何が違うのかわかんね、と葵は呟き、ふいとディスプレイ台の端に目をやった。

そのうち一つを手に取り、おもむろに千歳の目元にかけてみる。

「それでいんじゃねーか?」
「えっ、でもこれってサングラスじゃ…?」

葵の中で、答えが出かかる。
顎に手を当て、眼前で千歳の目元を眺めた。
狭い店内で、何十ものサングラスをとっかえひっかえしていたためか。『距離感がバグった』としか言いようがなかった。

「ちょ…っ葵、近…!」

その瞬間、『なんか違う』の正体がはっきりとわかってしまった。
思わず身を引き、葵は千歳から顔をそらした。店内のいたるところに置かれた鏡が、赤面した自分の顔を映している。なので、店員が声をかけて来たのは葵にとってはある種幸運だった。
「そちらはクリアレンズのグラスなので黒いレンズよりも遮光性は低いですが、紫外線を防ぐ効果は十分ありますよ。明暗差が少ないのでサングラスに不慣れな方や最初の1本としてもおすすめできます」
と店員は流暢に言った。

「だ、そうだ。な! 千歳。それにしろ。この葵様が買ってやろう!」
ぎこちなく言いながら葵は千歳の目元からクリアレンズサングラスをひったくるようにして取り外した。
「葵様って…それ、みんなからの集金でしょ」
千歳がジトと葵を睨む。
「いいから、お前は出てろ」と言って千歳に背を向け、葵はずんずんとレジのほうへと向かっていった。



言えるわけがない。
考えただけでも恥ずかしくて死ねる。

遮光性の高い黒いレンズは、その琥珀色に輝く瞳を隠してしまう。
それが嫌だった、などと。


「かけて行かれますか?」と店員が聞くので、店外で待つ千歳にジェスチャーと共に目くばせを向けると、彼女は数回縦に首を振った。

店員が千歳を見、それから葵を見て言った。
「お似合いですね」
「は? いや、俺らはまだそんなんじゃ、」
「あの…? クリアレンズが、お連れ様に」と申し訳なさそうに店員が言い、そしてハサミでタグを切った。

「忘れてください」

葵は、額を抑える。



その尊さに、店員は無事死んだ。








あとがきちゃん:

呼び名が安定しない秀坊が本作の肝です。
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