闇に潜む枯れた毒花

夜の横浜の街。

ビルの屋上に立ち、その夜景を見下ろす一人の女がいた。

「花圃ちゃん。」

その後ろ姿に、別の女が声を掛ける。
花圃と呼ばれた女ーー三宅 花圃はゆっくりと後ろを振り返り、声の主をジッと見つめた。

「こんな所にいたの?探したのよ。」

三宅は何も答えない。

「何を見ていたの?」

女は三宅の隣に立ち、同じように横浜の街を見下ろした後、三宅の方を向きそう問い掛けた。

「…何も。」

漸く口を開いた三宅だったが、発した言葉はそれだけだった。

「そうなの?…うーん、確かに、気になるような物は何もないわね。」

三宅の言葉を聞いてもう一度下を見下ろすも、確かに三宅の言う通り、気になる様な物は何も無かった。それなら何故下を見ていたのか、と普通ならば気になるのだろうが、彼女はその問を口にする事はなく、また、気にもしなかった。

「綾女は?私に、用事があった、んじゃないの?」

三宅が綾女ーー東雲 綾女の方を見てそう問い掛けた。

「えぇ。そうだったわ。」

綾女はクスッと小さく笑いをこぼす。

「お仕事の時間よ。」

三宅は返事をしない。が、それはいつもの事だ。

「標的は?」
「この人よ。殺人で指名手配されているの。花圃ちゃんなら詳しいんじゃない?」
「…見つかったの?」

綾女が示した指名手配犯。無差別殺人を犯した後何処かに逃げ隠れ、今まで捕まっていなかったのだ。

「心当たりがあるから、仕事が回ってきたんだと思うわ。」
「部下達でも、何とかなりそうだけれど。」
「それでも命令を受けたのは私達よ。それにしても…心当たりって、誰の心当たりなのかしら。」
「誰かなんて…誰からでも、情報は仕入れられる。…だって、私達は。マフィアなのだから。」
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