幽霊とウサギ(ゴスフェ)
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誰かの声が聞こえる。
声が聞こえる。
懐かしい声が呼んでいる。
耳というより、頭の中に染み渡るように、暖かい声がする。
そっと目を開けても、辺りは真っ暗でなにも見えない。
ただ暗いのではなく、光も色も、なにもない空間にぽっかりと浮かんでいるような、そんな不思議な感覚を感じていた。
-×××?そろそろ起きないと遅刻するわよ-
あと五分くらい寝かせてよ…
ママ…
-×××もうすぐテストだろ?勉強頑張れよ!-
成績よかったらお洋服買ってくれる約束覚えてる?
パパ…
-おっはよー!×××!昨日の配信見たぁ?やばくない?」-
親友の彼女の笑顔につられて、私も笑顔になった
でも…
あれ……?
私の名前って…何だっけ…?
すぅ…と、足元が冷えていくような感覚が、徐々に上へ上へと迫り上がってくる。
自分という存在が、記憶が、体ごと消えていくような不安感に、たまらない恐怖がこみ上げてくる
気づけば真っ暗闇のなかへ溶け込んでいくような気持ち悪さに、私はガタガタと震え出した。
もっとも、本当に震えてるのかどうかも、体の感覚すら曖昧になっている今の自分じゃわからない。
私がわたしで無くなっていく。
私、わたし、ワタシ……
ーネムリ…ー
脳裏に一瞬よぎった男の顔にハッと目を見開くと、暗闇の中、眩しい光が差し込んだ。
「…んっ…」
目蓋を暖かく刺してくる光にゆっくり目を開くと、見覚えのない天井が見えた。
ゆらゆらと歪んだ天井が浮かんでいる。
つぅ、と頬を水滴が伝い落ちていった。
「わ、たし…」
手を動かそうとする前に、目元を白い手が優しく拭ってくれた。
「よかった。目が覚めたのね。ご気分はいかが?」
少しかすれた、優しそうな女の人の声だった。
視界がぼやけているせいか、女の人の顔がやたら白く見える。
「こ、こは?…わたし、いったい…あ、なたは?」
「かなり混乱しているみたいね。落ち着いて。大丈夫。ここは安全よ。」
身体を起こそうとすると、とんとん、と優しく肩を叩かれ、再びベッドの中へと押し戻された。
目を瞬かせて見つめていると、視界が次第に鮮明になっていく。
目の前にいる優しい声の女性は、顔が見えなかった。
白い麻袋のようなものを頭からすっぽりと被っており、ひゅーひゅーと苦しげな呼吸音が微かに聞こえる。
呼吸音の方向と、首から下の体の向きで、こちらを見つめていることが伺えた。
驚いたネムリが悲鳴に似た息を溢す。
甲高い声を溢したネムリに、女性は驚いたのか、少しだけ身体をのけぞらせた。
はっとして、ネムリの心に後悔が押し寄せる。
自分のことを心配し、恐らくそばで見ていてくれたであろう人に、なんで失礼なことをしてしまったんだろうか。
気まずい沈黙が漂う中、ネムリは眉を寄せて俯きがちに、あの…と声を出した。
「えっと…その…ご、ごめんなさい。」
「え?どうして?」
麻袋を被った頭がゆっくりと横に傾く。
囁くような声に嫌悪や怒りは感じられなかった。
それでもなおネムリを苛む罪悪感に、ネムリは泣きそうな顔になっていく。
「私、驚いて、悲鳴上げちゃって…看病、してくれたんですよね?なのに、失礼な態度をとってしまって…ほんとにごめんなさい」
気まずくて顔を上げられない中、そよ風のように軽やかな音が聞こえた。
恐る恐る音に耳を傾けて顔を上げると、目の前の女性の肩が震えている。
どうやら、彼女が笑っているみたいだった。
「フフフ…そんなこと気になさってたの?
大丈夫よ。こんな見た目だもの。驚くのも無理はないわ。どうか気になさらないで」
少し掠れた暖かさのある声が、ネムリに笑いかけてくる。
ネムリはもう一度だけ、ごめんなさい。ありがとうございますと呟いて、少しだけ微笑んだ。
「フフ…笑顔が素敵な方ね。ああ、ご挨拶が遅れました。私はサリー・スミッソン。仲間内からはナースと呼ばれていますわ。どうぞよろしく」
「あ、えと、ネムリと、呼ばれています。本当は、本当の名前があった筈なんですが、その…思い出せなくて…」
徐々に声が尻すぼみになっていくネムリに、ナースは、まぁ…とだけ声を上げ、そっと頭を優しく撫でた。
「そうなの…あまり気にしすぎないで?ネムリってお名前もとっても可愛らしくて素敵だわ。」
「ありがとうございます…。」
ナースの優しい声に言われると、不思議と不安になりかけた心が落ち着いた。
儚げな笑みを浮かべるネムリの頭をもう一度優しく撫で、ナースはそっと立ち上がった。
「さて、貴方の意識が戻ったことを皆さんに知らせて参りますね。簡単な軽食もお持ちしますから、ぜひ召し上がってくださいな。」
「あ、ありがとうございます。態々すみません」
くすり、とナースが笑ったような気がした。
「お客様がいらっしゃるなんて初めてですから、ぜひ歓迎させて下さいな。お飲み物はお紅茶?それともコーヒーがいいかしら?」
「あ、えと…じゃあ、紅茶で」
「少々お待ちになってね。まずは、貴方が倒れたと大騒ぎして暴れていたゴーストフェイスに知らせないと」
「ふぇ…?えっ!?」
ゴーストフェイスが、大騒ぎするほど心配してくれてたなんて…
気を失う記憶の前後が曖昧でよく思い出せないが、確か、彼に抱きしめられていたような気が…
かぁ、と顔を赤くして両頬を抑えるネムリに、ナースは微笑ましげにあらあらと呟いてふわり扉の向こうへと消えていった。
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