幽霊とウサギ(ゴスフェ)
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「さ!ついたよネムリ!」
「ここは…?」
意気揚々と両手を広げてゴーストフェイスが示したのは、御伽噺にでてくるような古びた洋館だった。
どんより雲で覆われた空に、鬱蒼と生茂る木々が洋館を飲み込むように聳え立っている。
お誂え向きに真っ黒なカラスが枯れ木の枝に止まってガアガアと不気味な歌を歌っている。
お世辞にも素敵な場所とは言い難い、お化け屋敷のような場所だった。
ネムリはひぇ、と小さく悲鳴を上げて、縋り付くようにゴーストフェイスの服の袖を掴む。
ゴーストフェイスの眼前には、自身の服の袖を掴んで、今にも泣き出しそうな顔でぷるぷると震えるネムリの姿がある。
幻覚…いや幻覚じゃないね!ウサギの可愛い可愛い耳が見える!!
可愛いウサギが怯えながら俺に縋り付いてるっ!!
儚くか弱い愛しのウサギが、自分だけを頼っている状況に、ゴーストフェイスはただただ有頂天になり、酔いしれていた。
感情の赴くまま、がばりと勢いよくネムリに覆いかぶさるように抱きしめる。
「っはぁあああ!!!好きッ…可愛過ぎヤバイよネムリ…」
「あ、あの…ゴスフェさん苦しい…」
むぎゅむぎゅと抱きしめられてネムリは困惑と気恥ずかしさで顔を僅かにしかめた。
その表情すら、ゴーストフェイスにとってはただただ『可愛い』く、火に油を注ぐだけだった。
余計にゴーストフェイスは可愛い可愛いを連呼しながらネムリを抱き上げてぎゅうぎゅうに抱きしめる。
「あっ、あの…」
わたわたと手足をバタつかせようとしながらも、ネムリの僅かな身動きさえも抱きしめるようにゴーストフェイスは両の手に力を込める。
ど、どうしよう…
何か言おうとしても、ゴスフェさんには聴こえていない様だ。
息苦しいし、この場所ちょっと怖いしどうしようとゴスフェさんの腕の中で悩んでいた時だった。
「おいお前ら。玄関先で何やってんだ。ったく」
知らない男の声がした。
びっくりしつつも、ネムリがおずおずとゴスフェの肩越しに声のした方を窺うと、白いマスクに、色の暗いオーバーオールを着たガタイの良い男が腕組みをしてこちらをじっと見ていた。
仮面越しでどんな顔をしてるのかはわからないが、声の調子と、にじみ出るオーラで男が決して機嫌が良いわけではないのが伺えた。
「ひぇっ!?」
まるで睨まれたような寒気を感じ、ネムリは小さく悲鳴を上げてゴーストフェイスの腕の中で縮こまった。
自身の腕の中に身体を埋めるかの様子に、またもゴーストフェイスは可愛い可愛いと騒ぎ立て、ネムリを固く抱きしめる。
その力は最早抱きしめるなどという可愛らしいものではなく、締め上げる、といった方が正しいような感じすらあった。
「ご、ごしゅふぇさ…苦…し…」
肺ごと強く締め付けられたネムリの顔色が心なしか白く、そして次第に青ざめ血の気が消えていく。
抱きしめているのか、抱き殺そうとしているのかわからないゴーストフェイスの暴走を眺めていた白い仮面の男、トラッパーは、ハァと大きくため息を吐いた。
「埒が明かん。おら、さっさと中に入れ。そいつが誰だか知らんが、一度離してやれ」
大股でのしのしと二人の方へと歩み寄ると、騒ぐゴーストフェイスの襟首を掴み、トラッパーは引き摺るように洋館の中へと入っていく。
無抵抗に引き摺られながら、離せの言葉に鋭く反応し、弾かれるようにゴーストフェイスが顔を上げ、仮面越しにトラッパーを強く睨み上げた。
「っはぁ!?俺からネムリを引き離そうって!?ふざけんじゃねぇよ裸エプロン野郎!」
ゴーストフェイスの罵声にトラッパーの米神がピクリと震え、襟を掴む手に血管の筋が浮き上がる。
トラッパーもまた、仮面越しに射抜くような鋭い視線をゴーストフェイスに向ける。
「おう洋館より肉フックがいいらしいな?干し肉にしてやってもいいんだぞ?幽霊野郎」
「うるさいなトラバサミガチムチ野郎!人の恋路を邪魔する奴はトラバサミに掛かって自爆しちまえ!」
トラッパーの血管がさらに痙攣する。
片手に持ったナタを振り上げようとして、トラッパーの目に意識を失った女の姿が映り込み、思わず手を止めた。
ゆっくりと手を下ろして、トラッパーは大きくため息をついた。
「馬鹿言ってねぇで一度離さないと、そのネムリとやら死ぬぞ?」
「あぁ!?…え?うそ!?ネムリ!?ネムリーーー!!!!」
トラッパーへの怒りが覚めやらぬまま、ゴーストフェイスが自身の腕の中へと目を向けると、先ほどまでの熱気はどこへやら、今度はゴーストフェイスから凄まじい勢いで血の気が引いていく。
大慌てで絶叫しだしたゴーストフェイスの腕の中、色味を失った顔で意識を飛ばしているネムリの姿があった。
「しっかりしてくれぇウサギちゃんんん!!!!」
悲鳴を上げながら玄関先でバタバタと暴れるゴーストフェイスに、トラッパーは今日一番のでかいため息を吐いて、やれやれ、と溢した。