幽霊とウサギ(ゴスフェ)
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これは、ある殺人鬼の独白である。
椅子に腰掛けた白い泣き顔の仮面を被った男は退屈していた。
代わり映えのない儀式の日々に。
あんなに楽しかった命がけの追いかけっこと、ナイフを刺す瞬間の高揚感が、全て味気ないルーティンと化したことに。
手慰みで愛用のナイフをくるくると回す。
だらけきった態度で椅子にふんぞり返った男は、一人ぼやくように口を開いた。
最近さ、俺の仲間で女を囲い出したやつが居るんだよねぇ。
まぁ、そいつのことはどーっでもいいんだよ。
別に興味ないし。あ、マスクの下は気になるかな?
ま、いいや。
でさ、そいつ最近やたら幸せそうなわけ。
真っ白な顔でなーに考えてるかなんて1ミリもわかんねぇし、表情なんて無いからなおのことわかんねぇんだけど。
それでもさ、なぁんか幸せオーラ?俺満たされてますよぉーって感じが煩いくらいするんだよねぇ…。
なぁんかさ、ムカつくじゃん?
俺は大好きなゲームもぜーんぶルーティンになってんのに、なんでお前はそんな気分最高!みたいになってんだよ?ってさ
男は一度言葉を切ると誰もいない天を仰ぐ。
でさ、俺考えたわけ。
あいつだけ特別ってのが嫌なんだよ。それなら俺にもさ、そういう癒しというか、ご褒美があってもいいわけじゃん?
なぁ、エンティティ?
男の頭上から、ずるりと這い出るように黒い蜘蛛の脚のようなものが現れる。
蠢く異形の神をしばし見つめ、男は笑った。
いやいやいや!
それはいい。あのクソ生意気なサバイバーの女共なんざ、俺の趣味じゃないわけよ。
ああいう小馬鹿にしてくるようなんじゃなくて…
んー…
そうだなぁ。
男は顎に手を当てて思案する。
んー、だの、あー、だの暫し唸って、男はぽん、と手を叩いた。
ウサギ!ウサギみたいな女がいい。
臆病で、無力で、愛されることに慣らされていて、孤独を恐れて震える、そういうとにかく俺に溺愛される為に用意された女が欲しい。
キラーでもサバイバーでもない、俺だけの為の女。
どう?用意できる?エンティティ様?
頭上を渦巻く邪神は一度考えあぐねるように男の頭上を旋回し、そのまま消えていった。
「ちっ…なんだよ。
神っつってもなーんもできないってことかよ。」
ブーイングをかましつつ、はぁ、とため息をついて、男は椅子に身を沈める。
そんな男の頭上に、再び異形の神が舞い降りる。
鋭い刃物のような脚に抱えられるように、隙間から華奢な人間の手足が見えた。
「おっ?おっ?もしかして…」
男は勢いよく立ち上がり、舞い降りる邪神へと両手を広げる。
男の手の中へ、まるで天からの贈り物のように、邪神の足から何かが降ろされる。
柔らかい女の身体が男の手にゆっくりと沈み込んでくる。
あどけない顔で眠るように睫毛で縁取られた目が閉じている。
ふんわりとした髪が男の手に掛かる。
華奢な雰囲気を醸し出す、白いワンピースに身を包んだ、自分だけの可愛いウサギ。
「っいい!!最高だよエンティティ!!俺の理想そのものだ!」
男は目を閉じている女の頬に仮面をずらして口付けをする。
柔らかく温かな頬が、なんの抵抗もなく男の唇を受け止める。
「んっ…」
大人しそうな雰囲気の、少し高い声。
「んんっ!いいねぇいいねぇ!可愛い…」
額にかかる髪をそっと撫でる。
手袋越しに柔らかい髪の感触が伝わってくる。
撫でられることが好きなのだろうか?
女は気が抜けたようなふにゃりとした笑みを浮かべた。
「エンティティ様最高!!絶対に離さないし大事にするよ!」
プレゼントを貰ってはしゃぐ子供のように、男は女を抱き抱えてその場で回り出す。
「お、そうだ。名前つけなきゃな…。俺だけの可愛いウサギちゃんなんだから…」
無防備に眠り続ける女の顔を見つめて、男はにやりと笑った。
「ネムリ…そう!ネムリがいい!!俺の可愛い可愛いウサギちゃん!」
これからヨロシクね。ネムリ…。
そっと囁き、その唇に自身の唇を重ね合わせる。
殺人鬼、ゴーストフェイスと、彼に飼われることとなった哀れなウサギ、ネムリとの物語が、邪神の箱庭で静かに幕を開けた…。
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