闇の感覚(マイケル)
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この隠れ家に連れてこられて何日か経った。
この何日間かで、なんとなくマイケルの行動パターンというか、生活サイクルのようなものがわかってきた。
時計がないから正確な時間はわからないが、マイケルが食事の準備をして起こしに来るのが多分朝。
トーストにサラダ、スープと毎朝同じメニューが並んでいる。
その後で決まってマイケルは私のことを抱く。
マイケルに触れられると、拒もうと思っているのに、いつも流されてしまう…。
情事の合間に囁かれる愛と、触れてくる全てから伝わる優しさというか、私に向けてくる愛情を心地良く思ってしまっているのも確かだ。
受け入れたいような…でもこのままここにいるわけにも行かない。
仲間たちのその後も気にもなる。
いけない。脱線してしまった!
と、ともかく。
朝食の後に、私を抱く、そのあとはお風呂だったり部屋でくつろいでいたりしている。
そのあと、マイケルは決まってこの隠れ家の外に出ていく。
多分、儀式をこなしに行っているんだろう。
毎回出て行く前は私を抱きしめて、マスクをずらして口元へとキスをねだってくる。
まるで新婚さんの行ってきますのキスのように、わたしはマイケルとキスをして、彼を送り出す。
入り口を塞ぐチェストを片手で動かし、外に出てから閉める時、いつもずっと、私のことを見つめ続けている。
何を考えているのか、最初はわからなかったけど、今は少しわかる。
マイケルは、私と離れるのが嫌みたいだ。
チェストを動かし、私の顔が見えなくなるまで、じっと私を見つめ続けている。
まるで、離れるのを寂しがるみたいに…。
そんなマイケルに、私も少し胸が締め付けられるような、離れがたい気持ちを感じてしまっている…。
ま、また脱線してしまった!
ともかく、朝食を朝、マイケルが出かけるのを昼と仮定することにした。
マイケルが出かけた後、わたしは特にやる事はない。
マイケルからも何かしらを強要されたこともない。
何も決まってはいない、のだが…。
一応は養って?もらっているようなものなので、簡単に部屋の掃除や洗濯などの家事をする事にした。
掃除も洗濯も、元々物自体も少ないし、マイケルも散らかす方ではないから、すぐに終わってしまう。
洗濯に関しては洗うだけで、干すのはマイケルがやってくれる。
わたしを外には出したくないらしい。
結局、わたしが打ち込めることといったら、料理くらいしかなかった。
幸い、冷蔵庫には食材もあったし、塩胡椒などの最低限の調味料もあった。
初日にマイケルが帰ってきて、わたしがご飯を作っているのを見た時、多分、すごく嬉しかったんだろう。
ドラマのワンシーンみたいに、私を抱き上げてその場でぐるぐる回り出したときは、めちゃくちゃびっくりした。
マイケルが帰ってきて、夕食を取るのが夜。
その後お風呂に入って、また抱かれて就寝。
多分、これが1日のサイクル。
よく身体が壊れないなぁと自分でも感心してしまう。
きっと、マイケルが気を遣ってくれているのかもしれないが…
さて、今日も今日とて、私はこの隠れ家の掃除に勤しんでいるのだった。
「本当に、何もない家なのね」
片隅に無造作に置いてあったほうきで掃き掃除をしつつ、辺りを見渡す。
この隠れ家にはベッドや机などの家具以外のものは、殆どなにもなかった。
「本の一冊でもあれば、もう少し時間潰せそうなんだけどなぁ…」
ため息をつく。無いものはないから仕方がない。
たまには時間をかけて大掃除でもしてみるか、と思い、ネムリは普段は手をつけないクローゼットや戸棚の中を片付けることにした。
「うわぁ…これしかないのか…」
クローゼットの中には見慣れた紺色のつなぎが数着と、ボロボロの病院着らしきものが1着かけてあるだけで、それ以外にはなにもなかった。
引き出しを開けてみると、
「あ…みなきゃよかった…」
ネムリは頬を痙攣らせてそっと引き出しを閉じた。
引き出しの中には包丁やアイスピックなど凶器がいくつか収められていた。
微妙に赤黒い染みがあったような気がしたが、気のせいにすることにしよう。うんそうしよう。
次にネムリは普段触らない、キッチンの近くの戸棚を片付けることにした。
「うわっぐちゃぐちゃだ…」
戸棚を開けてみると、なにやら色々なものが無造作に詰め込まれているようだった。
おもむろに一つ手に取ってみる。
「なにこれ…?割れた手鏡…?」
他にも何故か墓石や、髪の毛の束、宝石やヘアブラシなど、ぱっと見ガラクタのようなものがたくさん出て来た。
私にはわからないけれど、きっとマイケルにとっては大切なものなんだろう。
一先ずごちゃごちゃになっていたのをわかりやすいように分ける程度にしておいた。
「よしっと…あれ?」
ふとクローゼットの隅を見てみると、なにやら見慣れたものがあった。
「あっ!これ、工具箱…」
錆びてボロボロの今にも壊れそうな工具箱だった。
この工具箱を片手に、必死で発電機を直していたころが、随分前のように思えた。
「あっそういえば…」
工具箱を手に持ち、マイケルを見送った階段へと戻る。
階段のすぐそばの明かりが、不安定にチカチカとしている。
「これで直せるかな…?」
階段の上に腰掛け、不規則な灯りを灯すライトへ手を伸ばす。
かちゃかちゃと工具のぶつかる音がする。
不安定だった灯りも、徐々に落ち着いて光るようになってきている。
「よしっ!この調子なら」
順調に直っていくことに、ネムリは油断していた。
儀式のような緊張状態でなくとも、元々、ネムリは発電機や機械の修理が苦手だったことを、すっかり忘れていた。
バチィッ!!!
「うわっ!!!」
一瞬火花と共に電気が走る音がして目の前が光った。
びっくりしてネムリはがしゃん!と音を立てて、工具箱を階段の下まで落としてしまった。
「あっちゃあ…」
やらかしてしまった…とため息をつく。
先程手を滑らせたせいで、階段を照らす照明は完全に落ちてしまい、真っ暗になってしまっている。
見えづらいし面倒だなぁと、落ちた工具箱を拾おうとしぶしぶ立ち上がる。
その頭上で、どたどたとなにやら騒がしい音がした。
マイケルが帰ってきた?
頭上に向かってそっと聞き耳を立てる。
なんだか誰かが騒いでいるようなと気配がする。
…だ今の……は?誰か発電機……のか?
誰かの話し声のようなものが聞こえた。
「だ、誰かいるの!?」
久々にマイケル以外の誰かの声を聞いて、何故か少しだけ不安になった。
暗闇に潜む得体の知れないものに呼びかけるように、怯える気持ちを奮い立たせようと、声を張り上げる。
お、おいっ!!!誰かいんのか!?
「……えっ?」
今の声…
何度もわたしを鼓舞してくれた力強い声だった。
とても、聴き慣れた声のような気がして、ネムリは頭上の塞がれた地上への道を見上げる。
「…デイビッド!?」
とっさに叫んでいた。
自分の声が地下の隠れ家に反響する。
聞き間違えるはずがない。
いつも怯えながら儀式に参加する私の背中を押してくれる声だったのだから。
シーン…と地下室の沈黙が耳に痛い。
やっぱり聞き間違いだったのかな…
ため息とともにうつむく。そんなネムリの耳に
ッおい!!!!ネムリか!?ネムリいんのか!?返事しろっ!!!
怒鳴るような大きな声が確かに届いた。
デイビッド!!無事だったんだ…
脳裏によぎるのは、物言わぬ歪な死体となった姿だった。
ネムリはデイビッドの声に、安堵とともに目にじわりと涙が溢れだした。
「デイビッドっ!!無事なんだね!!」
嬉しくてまた叫んでしまった。
今度はすぐにデイビッドの声が返ってくる。
お前の方こそ大丈夫なのか!?一体どこにいる!?
どうやら、デイビッドにはネムリのいる場所がわからないらしい。
それもそうか、とネムリは改めて気づいた。
自分は今マイケルの隠れ家にいて、その入り口はチェストで塞がれている。
外から見たら、まさか家具の下に隠し部屋があるとは普通は思わないだろう。
少しだけ苦笑してから、ネムリは口を開いた。
「私はここ!!!!チェストの」
下だよ、と言おうとした。
言おうとしたのだ。
しかし、ネムリの声は届かなかった。
ぐっ!?ぎぃやぁああああああ!!!!がっ!!
あ゛ああぁあああ!!!!
空間を震わせるような、断末魔の悲痛な叫びが、頭上から地下室の中にまで木霊した。
今まで聞いたどんな悲鳴よりも、悲痛で、耳をつんざくような恐ろしい声だった。
「えっ…で、デイビッド!?」
頭上のチェストを下からドン!と叩く。
勿論、1ミリたりとも動くような気配は無い。
一体何が起こったの?
何かとんでもないことが起きたのは間違いない。
つう、と冷や汗が伝う。
ネムリは無意味と頭の隅で理解しつつも、必死でチェストを叩いた。
「デイビッド!!ねぇ!!デイビッド!!!無事なの!?デイビッドってばっ!!!」
叩き続ける手が痛い。
それでも、手を止める事はできなかった。
手を止めてしまったら、なにか、認めたくない事実を認めざるを得ないような恐怖があった。
どうか、返事をして!!答えて!!!
必死に祈るように叩き続けるネムリの手に、赤い血が滲む。
何度目かで、ついにネムリの手に限界が訪れた。
「痛っ!!…ッデイビッドぉ!!!」
手がじんわりと痺れ、血が滲んで熱を帯びていた。
痛みをグッと堪え、ネムリはなおも叫んだ。
そんなネムリの祈りが、通じた。
ぎぃ、と音を立て、チェストが動いていく。
頭上へ徐々に光が差し込んでくる。
ネムリはまるで光に誘われる虫のように、なんの躊躇もなく階段を這い上がるように登り、光へと手を伸ばす。
その手を、真っ赤な血に染まった手ががしりと掴んだ。