闇の感覚(マイケル)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今日の儀式を終え、僕はネムリの待つ我が家へと歩いていた。
自然と足取りは軽く、そして早くなってしまう。
多分、儀式の最中で生贄達を追うときよりも早く動けているような気がする。
帰りしな、昨日の出来事が頭をよぎった。
彼女が外に出ようとしていたときは、肝が冷えた。
もし、外に出てしまったら、またあいつらがネムリに触れようとしてしまう。
馴れ馴れしくベタベタとネムリに触れて、ネムリを汚そうとする。
愛しいネムリが汚されるなんてもう二度と耐えられない。
愛しい、愛しくてたまらないネムリ。
なによりも大切な僕の宝物。
誰にも奪わせないし、指一本たりとも触らせない。
変な輩が彼女を拐ったりしない様に、彼女の足を鎖に繋いだ。
僕が居ない時に彼女を守ってくれるお守りだ。
本当ならリボンが一番似合いそうだが、リボン程度では害悪が簡単に引きちぎってしまう。ダメだ。
美しい彼女には不釣り合いな飾りだが、彼女を守る為には仕方がない。
階下から、寂しげに僕を見上げる姿も堪らなく愛おしい。
悲しげに「いってらっしゃい」と呟いたネムリの姿が脳裏によぎり、僕はマスクの下がにやけているのがわかった。
あの時、すぐに駆け寄って抱きしめて、骨の髄まで愛し尽くしてあげたかった。
しかし、彼女との生活を守る為には、エンティティに逆らうわけにはいかない。
身を引き裂かれる様な思いの中、後ろ髪を惹かれつつも、心を鬼にして儀式に向かったのだった。
我が家が見えて来た。
半ば駆け込む様に、家に入る。
チェストの置いてある、ネムリの待つ家の入り口がある部屋に駆け込む。
僕は、その場に凍りついた。
チェストが…動かされている。
僕はすぐに部屋の周りを探し回った。
また余計な奴らがネムリを拐いに来たのかと、血眼になって茂みや部屋の隅やロッカーなど、塵1つ見逃さないくらい探しまくった。
周りには誰もいない…
ネムリ…っ!!!
すぐに僕は階段を駆け下りた。
途中で飛び降りて、部屋の中に降り立つ。
バキリと足元で音がした。
足元を見ると、僕に踏み潰された金属片が見えた。
ゆっくりと足を動かすと、足の下にあったのはネムリの足首につけたはずの、足枷だった。
僕は弾かれる様にベッドルームに向かう。
きっといる。いつも通り、笑顔で「おかえり」と抱きついてくるはずだ。
ベッドルームには、いない…。
ベッドの下にもいない。周りにはもちろん居ない。
キッチン、居ない。
リビング、居ない。机の下もくまなく見たが、居ない。
クローゼットの中、居ない。
バスルーム、居ない。
居ない。居ない居ない居ない。
居ない居ない居ない居ない居ない居ない居ない。
どこにも、居ない。
ネムリの姿が、どこにも居ない。
僕の手足が震えた。眩暈がする。
その場に倒れ込みそうになった。
ネムリが、居ない。
僕の最愛の人が、僕の宝物が、居ない。居なくなってしまった。
崩れ落ちそうな体を気力で支える。
暗闇の中、ぼんやりと犯人の顔が思い浮かんだ。
そうだ。犯人ならわかっているじゃないか。
頭が冴えていく。
僕は冷静に獲物を持つ手を掴みなおした。
コソ泥の様にネムリの周りを嗅ぎ回っていたあの男。
僕はクローゼットから割れた手鏡を取り出す。
いつもの僕が割れた鏡から見つめ返してくる。
儀式の時と同様に、生贄の命の火を消す為に、奴らが巣食っているキャンプ場へと向かうことにした。
階段の上から光が差す。
光の中、一瞬神々しく微笑むネムリの姿が見えて、僕は慌てて手を伸ばすも、そこには誰も居なかった。
虚空を掴んだ手をじっと見つめ、強く拳を握りしめた。
待っていてネムリ。
すぐに君を連れ戻して見せるから。
もう二度と、誰にも君を汚させたりしない。触らせたりしない。
今度こそ、僕と君だけの完璧な世界を作って見せる。
仄暗い決意を胸に、ハロウィンの殺人鬼はゆっくりと動き出した。
テント内でローリーと談笑していると、キャンプ内にいたフェンミン、メグ、ネア、が私のテントに訪れて来た。
「ネムリー、今大丈夫?」
「大丈夫だよフェンミン。どうしたの?」
返事をすると、なぜかフェンミンはキョトンとしてしまった。
「…?どうしたの?」
「どうしたの、って… ネムリこそどうしたのよ?」
「え?」
目を瞬かせていると、今度はメグとネアが話しかけて来た。
「キャンプ帰って来た時今にも泣き出しそうな顔してたじゃない。よっぽど辛いことがあって落ち込んでるんだと思ってたのに」
「まるで憑物が落ちたみたいにスッキリした顔してるじゃないさ。なんだか拍子抜けしちまったね」
「え?え?そ、そんなに私落ち込んでたかな?」
そんなにあからさまに私はマイケルに会えないことを寂しがっていたのだろうか…
なんだか恥ずかしくなってきて、ネムリは赤面して俯いた。
その様子をローリーは愉快そうに笑った。
ネアが首を傾げながら、そんなローリーとネムリを交互に眺める。
「元気ならなによりだけど、何かあったのかい?ローリーは知ってんだろ?」
ネアがローリーに尋ねる。
ローリーは悪戯に笑ってネムリに目配せする。
「ですって。話してみる?義理姉さん?」
「ろ、ローリー!その呼び方やめてってば!!」
慌てるネムリにローリーがまた微笑む。
「「義理姉さん…?」」
「…一体どうゆうことだい?」
フェンミンとメグは首を傾げ、ネアだけが呆れた様にため息をついた。
ネムリは、しどろもどろになりつつも自分の気持ちを正直にみんなに話した。
マイケルを愛していること。
マイケルの側で生きていきたいということ。
みんなを裏切るつもりも、騙すつもりもないこと。
ローリーに本音を聞いてもらって、どこか吹っ切れたのもある。
どう思われようと、マイケルと共に居たい気持ちは変わらないと、決心がついたからかもしれない。
ネムリは嘘偽りのない本心をみんなに語った。
話を聞き終わった3人は、それぞれ全く違う様子だった。
フェンミンは目をキラキラと輝かせて、ネムリを見ていた。
メグは複雑そうな顔をして硬直している。
ネアは厳しい顔でじっとネムリの目を見つめていた。
「ま?ま?それま?ガチ恋してるのネムリ!?」
「て、照れ臭いんだけど…うん…。本当にマイケルが好きなの」
きゃーと叫びながらフェンミンがネムリに抱きつく。
はしゃぐフェンミンかわいいなぁと思いながら、ネムリもフェンミンを抱き返した。
「マジなんだとしたら、ちょっとびっくりかも。えー…私はキラーを恋愛対象としては絶対みれないわ…」
メグは相変わらずなんとも言えない顔でうーんと唸ってしまっている。
物好きだわ、なんでいいながら苦笑いされてしまい、ネムリも同じく苦笑する。
和気藹々と和んだような雰囲気に、ネムリは内心でホッとした。
よかった…みんなが受け入れてくれて。
「正気かいネムリ?マジなんだとしたら、あんたは私らの敵になる覚悟があるんだね?」
冷ややかなネアの声に、場の空気が凍りついた。
フェンミンとメグは目を見開き、ローリーは静かにネアを見つめる。
ネアの目だけが、ネムリを冷たく射抜く。
「惚れたかどうかなんて関係ない。私らを裏切ってまで、殺人鬼と共に行くって覚悟はあるんだろうね?」
「ネ、ネア!そこまで言わなくたって」
フェンミンがネアを宥めようとする。
「そうだよ!ネムリみたいなお人好しが、私たちを騙すわけないじゃない」
メグも一緒になってネアを宥めにかかる。
そんな二人に何を言うでもなく、冷たい視線で一蹴すると、ネアは厳しい目のままネムリを睨みつける。
思わず身体が縫い止められたように固まる。
ネアは目を細めてそんなネムリに詰め寄った。
至近距離で、まるで心の奥底まで覗き込むかのようにネアはネムリの目を凝視する。
「いっときの感情に流されて、今まで一緒に生きてきた私らを裏切って、それでもなお後悔しないって言い張れるのかい?」
「そ、それはっ…」
「裏切り者と罵られる覚悟、あるんだね?」
ネアがジロリと睨みつけてくる。
ネアの目がネムリを威圧し、責める。
仲間を捨ててまで行くのか?
裏切り者になってもいいのか?
ネアはネムリに厳しく問い詰める。
そんなネアに気圧され、一瞬怯んだ。
みんなから、裏切り者と罵られる。
大切な仲間たちから嫌われる。
どくん、と心臓が騒ぐ。
そんなの嫌に決まってる。
必死に助け合って、命をかけて共に戦っている仲間たちを、裏切るなんでしたく無い。
けれど
けれど、頭の中には彼の姿が映る。
白いマスクの風変わりな殺人鬼。
敵の私に愛を囁き、私の身も心も全て抱きしめ、何処にも行くなと縋りついた愛しい殺人鬼。
白いマスクが、こちらを振り向く顔が頭に浮かぶ。
大好きで、愛しくて仕方ない、私のブギーマン…
ネムリはキュッと唇を結んで強く頷いた。
「…しない。たとえみんなから非難されても、嫌われるのは嫌だけど、でも、それでも私は、マイケルの側に居たい!離れたくない!」
最後は半ば叫ぶようにネムリはネアに言い放った。
ネアは未だなおじっと冷たい視線をネムリに向け続ける。
硬い表情のまま、ネムリはネアの視線を真っ正面から受け止める。
どれくらいそうしていたのか、先に声を出したのはネアだった。
はぁ、とため息をつき、呆れたような、でも何処か穏やかな笑みを浮かべていた。
「そこまで言えるなら好きにしな。あんたの自由だ。私にどうこうする権利はないよ。」
「ネア…。ありがとう。ごめんなさい」
泣きそうな顔で微笑むネムリの頭をネアが優しくポンと叩いた。
「ばーか。謝るくらいなら、殺人鬼なんかに惚れてんじゃ無いよ。」
「さ、殺人鬼だから好きになったわけじゃ無いんだけどね。」
「ま、愛想尽かしたならいつでも戻ってきな。こき使ってやるよ」
突き放すようなことを言いながらも、ネムリを見つめるネアの目は優しく、暖かかった。
ホッとした様子でフェンミンとメグも肩の力を抜いた。
ローリーも穏やかに微笑んでいる。
「もぅネアってばぁ!心配なら心配って普通に言えばいいのに!」
「うっさいよ。ミンみたいにお気楽じゃあいられないのさ」
なによもー!とフェンミンが怒る。
その様子が可愛らしくて、みんなで笑った。
笑いながら、ネムリの心の中は、愛しい人のそばに居られるという幸福と、この大切な人たちから離れるという寂しさとが混ざり合い、少しだけ胸の奥がきゅっと締め付けられた。
邪神の箱庭、暗い暗雲とハロウィンの殺人鬼は、穏やかに過ごすキャンプのすぐ近くまで忍び寄っていた。
儀式まで、あと数刻…