DbD短編
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儀式が行われていない時のアーモンド山は、本当に静かな廃墟だった。
風が音を立てて吹く中、比較的暖かい暖炉のそばで、膝を抱えてうずくまっている女の子の姿があった。
目深に被ったフードの隙間から、鮮やかなピンク色の髪と、少し薄汚れた独特の模様の仮面が見える。
暖炉のパチパチと爆ぜる音と、揺らめく暖かな光が、仮面を照らす。
女の子はギュッと強く縮こまるように膝を抱えて俯いた。
「…はぁ……」
何度目かわからないため息を溢して、女の子は膝に顔を埋める。
穏やかな火の音に混ざって、微かに鼻をすするような音と、小さな嗚咽が無人の廃墟に響いた。
「…わたし、何でここに来ちゃったんだろう…」
震えながら女の子、リージョンの1人であるスージーは呟いた。
「ほんとによぉ、スージーってキラーに向いてねぇよな」
事の発端は、フランクからの何気ない一言だった。
わたしは、最近儀式に呼ばれても、ほぼ全員に逃げられてしまい、全くエンティティを喜ばせることが出来ていない。
そんなわたしとは正反対で、フランク、ジョー、ジュリーは次々に生存者を生贄に捧げ、全滅させる事も全く珍しいことではなかった。
「…えっ」
そう言われても仕方ないのに、わたしの口から出たのは、驚いたような間抜けな声だった。
きっと、仮面で見えなかっただけで、わたしの顔は驚いたような、落ち込んだようなひどい顔になってたことだろう。
フランクは、いや、だってそうじゃんよ?と話を続けた。
「サバ共に会ってもすぐ逃げられっし、息切れしてる間にあっという間に発電機点くじゃん?煽られてないことの方が珍しいし、儀式楽しんでるようでもねぇしよぉ」
「ちょっとフランク!!いきなり何よ?」
ジュリーがイラついたような声でわたしとフランクの間に立った。
「いや本当の事だろ?いつも俯いてるし、なんつーか、キラーらしくないじゃん?」
「フランク…あんた喧嘩売ってる?ぶん殴られたいワケ?」
ジュリーがフランクの胸元を掴み上げ、わたしは慌ててジュリーの服の裾を掴んだ。
「じゅ、ジュリー!いいよっ!別に、本当の事だし…」
ちらっとだけ、ジュリーはわたしを見てくれたけど、フランクを掴み上げるのは変わらなかった。
「元はと言えば、アンタがこの子を巻き込んだんじゃない!!この子が望んだわけでもないのにさっ!」
「いや、俺のせいじゃねぇし?エンティティが連れてきたんだから場違いでもしゃあねぇじゃん」
わたしは、頭が真っ白になった。
場違い…
言われても仕方のない事と、頭の隅では分かってるのに、わたしは何も考えられず、場違いって言葉がずっとぐるぐると頭の中を巡っていた。
生存者を殺せもしない、生贄に出来もしない、生存者に恐怖を感じさせることも、邪神を喜ばせることも出来ない。
ただ、みんなと一緒に居たかっただけなのに…
わたしは…わたしはなんで、ここに居るんだろう…
わたし……いらない…?
目の前が真っ暗になったような気がした。
ただ、気づいた時には部屋の外へと駆け出していた。
「ッスージー!待ってっ!!フランク!!アンタねぇ!!!!」
背中にジュリーの声が聞こえたけど、わたしは夢中で走った。
大好きなみんなと居たくてついてきたのに、どうしても、今はみんなと一緒に居たくなかった。
「うぉ!?っ…なんだスージーか?どうした?」
廊下を走っている途中、偶々廊下に居たジョーに思い切りぶつかってしまった。
力の弱いわたしとは違って、全力でぶつかっても倒れる様子もなく、簡単にわたしを受け止めてしまった。
勝手に目元にじわりと涙が浮かんでくる。
「っ…なんでもないっ…」
「何でもないって、あっ!おい!!」
仮面の隙間から覗いた目が心配そうにわたしを見てくれていた。
心配をかけてごめんなさい、と思ったけど、でも、それでも一緒にいるのが辛かった。
これ以上、惨めな思いをしたくなかった。
無我夢中で走ってたどり着いたのがオーモンド山だった。
静かで真っ白なこの場所で、絶対に一人きりになりたいと心のどこかで望んでいたからたどり着いたのかもしれない。
ふらふらと廃墟と化したロッジに入り、火の灯る暖炉の前でぼんやり蹲っていた。
キラーに向いてない…場違い…
じわり、とまた視界が歪む。
ぐすぐす、と惨めったらしくわたしは泣いた。
「…っわたし、みんなと一緒に居たいだけなのにっ…」
一度泣き出したら、涙が止まらなかった。
仮面を外して、目元を乱暴にゴシゴシと擦った。
どんなに擦っても、涙は止まらない。
暖炉の前で、スージーはずっとすすり泣いていた。
どれくらいそうしていたかわからない、突然背後でギィ、と木が軋むような音がした。
誰か来た!?
「だっ誰!?誰かいるの!?」
スージーはびくりと肩を震わせ叫んだ。
キラーらしさの欠片も無い、情けない声にまた勝手に涙が出てきてしまう。
おそろおそる振り返った先には、誰もいなかった。
気のせい?でも、確かに…
ノロノロと立ち上がって大人した方へと歩き出すと、今度はガタッ!と大きな音がした。
驚いて音の方を見ると、物陰でガタガタ震えながら、こっちを見上げている女の子がいた。
すごく怯えた目で、こっちを見上げている。
あまり見覚えのない、気の弱そうな様子の女の子に見えた。
多分、キラーには居なかったはず。
声をかけようとすると、女の子はヒッ!と悲鳴を溢して、またガタガタと震えだした。
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!!お願いっ!こ、殺さないでっ…」
女の子はスージー以上に目からボロボロと涙を溢して縮こまっていた。
スージーは、なんだか自分を見ているような気がして、その子のことが放っておけなくなった。
「殺したりなんかしないよっ…大丈夫。怖がらなくてもいいよ…」
「ほ、ほんと…?」
半泣きで、恐々とスージーを見上げるその目は、間違いなく殺人鬼をみる生存者の目だった。
スージーは、なんだかほんの少しだけ気持ちが慰められたような気がした。
「うん。絶対殺さない。…そこじゃ寒いでしょ?こっちに来て一緒にお話ししない?」
女の子は暫く俯くと、本当に恐る恐ると言った様子で恐々とスージーの後ろをついてくると、少し離れたところにおずおずと座り込んだ。
先程までのスージーと同じように暖炉のそばで縮こまるようにしている。
「…あなたの名前は?」
「… ネムリ」
「ネムリだね?わたしはスージー。えっと、一応キラーで、リージョンの1人、なの…」
話しながら、スージーの声はどんどんと小さな声になっていく。
次第に俯いてしまい、スージーもまた前と同じように
しょんぼりと蹲ってしまった。
今度はネムリがあの…とスージーに話しかける。
「スージーさんは…どうして、ここに?」
「えっと…なんとなく…かなぁ…。1人になりたくて…」
ネムリからみたスージーは、なんだか今にも泣き出しそうに見えた。
ネムリも、なんだかスージーが、自分に似ているような不思議な感じがして、思わず、同じだ…と呟いていた。
「えっ…?」
スージーが下がり眉のまま、ちょっとだけ目を見開いた。
ネムリもまた、少し泣きそうな顔で、ぽつりぽつりと話しだした。
「私もね…1人になりたかったの…私、わたし…足手纏い…だから…」
ネムリの泣きそうな声に、スージーもまた泣きそうになってしまった。
「足手纏い…わたしもだよ…みんなと違って、全然上手く出来なくて…」
「キラーのスージーでも、そんなことあるの?」
ネムリが少しだけ、信じられないというように言った。
スージーは泣きそうな顔のまま、僅かに頷いた。
そのままぽつりぽつりとお互いのことを話した。
スージーが全くキラーらしく出来なくて、場違いと言われてしまったのと同じように、ネムリもまた上手くチェイスが出来ず、発電機も頻繁に爆発させてしまい、仲間から足手纏いだと言われていたらしい。
「それでねっ、みんなと居るのが辛くて、誰もいないとこに来たくて走ってたら、気づいたらここにいたの…」
「… ネムリ、わかるよ…。わたしも一緒だもん。1人になりたくてここに来たの」
「スージーも?でも、私みたいに邪魔だって言われたんじゃないんでしょう?どうして…?」
フランクの言葉が、また蘇る。
場違い…キラーらしくない…
スージーはまた涙がこみ上げてきて、咄嗟にネムリから顔を逸らした。
違う方を向いて肩を震わせながら泣いているスージーの背中を、ネムリは心配そうに見つめた。
「っわたしね…ただみんなと一緒に居たくて、この世界についてきたの。でも、でもわたし、キラーらしくないって、場違いって仲間から言われちゃって…」
「っそんな!…ひどい」
「んーん。違うの…本当のことだから…でも、でもわたし…堂々とみんなの仲間だって言えないのが…すごく悔しくて…っかなしいのっ…」
膝に顔を埋めて、スージーは本当に泣き出してしまった。
そんなスージーを眺めていたネムリは意を決したように小さく頷いてから、スージーの隣ににじり寄った。
すぐそばに近づいた人の気配に、泣きながらスージーは顔を上げる。
ネムリが優しいけれど、何処か力強い、そんな不思議な目でスージーを見つめていた。
スージーも吸い寄せられるように、その目をじっと見返した。
「一緒に練習しよう。スージー」
「…え?」
「スージーはキラーの、私はサバイバーの練習。一緒に特訓して、強くなろうよ!」
グッと両手を握りしめて、ネムリは頷く。
スージーは目を瞬かせた。
瞬きの拍子に、目尻に溜まっていた涙がぽろりと落ちていく。
「で、でも練習って…」
「スージーは私を本番みたいに追いかけて、私も本番みたいにスージーから隠れたり逃げるの」
「そ、そんなことできないよ!ネムリが痛い思いしちゃうじゃない!」
慌ててスージーが止めようとすると、ネムリは優しくにっこりと笑った。
「大丈夫!セルフケア持ってるし、治療や痛みに耐える練習もやっぱりしないと、サバイバーで生き残れないし」
「でも、でも…」
俯くスージーに、ネムリは笑顔で頷きかける。
出会った時の怯えていた人とは思えないほど、その目は力強くて、優しい光が宿っていた。
「私ね、スージーとおんなじだと思ったの。自分がうまく出来ないのが悔しくて、悲しくて。スージーの気持ち痛いくらいわかるの。私もだから。
「ネムリ…」
「おんなじ私達なら、一緒に強くなることもできるんじゃないかなっておもったの。1人だと、弱いけど、2人なら頑張れるような、そんな気がしたの」
優しく微笑むネムリに、スージーは暗く落ち込んでた心の中に、ポッと暖かい光が灯ったような感じがした。
とても小さな、か弱い光だけど、でも確かに先程まで泣いている事しかできない自分を奮い立たせることが出来る、希望の光だった。
スージーはまた目をゴシゴシと擦る。
手を退けた時、スージーの目からはもう涙は溢れていなかった。
相変わらず下がり眉で、今にも泣き出しそうな顔ではあったけれど、涙と期待で赤くなった頬と、希望の宿ったキラキラとした目で、ネムリを見つめていた。
「強く、なれるかなぁ?わたしたちで」
「うん。慣れるよ!なろう、スージー!」
笑顔で差し出されたネムリの手をスージーも笑顔でギュッと握り返した。
それから2人はアーモンド山で待ち合わせては、特訓に打ち込んだ。
基本的な動きは勿論、スージーはキラーの行動パターンを、ネムリは生存者の立ち回りや隠密のポイントなどをそれぞれ教え、より実践的な立ち回りを覚えていった。
それから半年後…
生存者の断末魔が再び儀式の森に響く。
「畜生!また1人やられちまったか」
青い顔で呟くクエンティンのもとに、ケイトが傷を庇いながら必死に掛けよってきた。
「キラー、リージョンよ。やっぱりスージーだったわ…」
「やっぱりか…ヤバイなんてもんじゃないな…」
ケイトの治療をしながら、2人は現状の悪さに青ざめた。
発電機はまだたったの一つしかついてないのに、既にケイトもクエンティンも2回吊られ後がない。その上、味方が既に1人処刑されてしまっている。
しかも、よりによって今回のキラーはスージーだ。
リージョンたちの中でも最も全滅率の高い、生存者達が恐れるキラーの1人だ。
生存者の行動を完全に読んだ立ち回りをされるせいで、チェイスになればまず逃げ切れない。
ある1人の生存者を除いて。
「でも、今はネムリがチェイスしてくれてるから、もしかしたら行けるかもしれない」
ケイトの言葉にクエンティンの硬い表情が少し和らいだ。
「本当か!?なら、俺たちは急いで発電機を回そう。彼女がチェイス中なら安心して発電機に集中出来る。」
2人は頷くとすぐさま残りの発電機に向かって駆け出した。
2人から離れた地点で、スージーとネムリは命がけの鬼ごっこを続けていた。
板や窓を飛び越え、互いにフェイントを掛けながらの騙し合いが続く。
目まぐるしい逃走劇の中、2人は一瞬目を合わせ、互いに笑った。
「今日こそは私が勝つよ!スージー!」
「今日も私が勝つよ!ネムリ!」
晴れやかな2人の顔に、もう涙はなかった。