○○しないと出られませんシリーズ
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邪神の気まぐれで行われる、理不尽な密室ショー。
あるものは羞恥に悶え、あるものは幸福を感じ、またあるものは激怒するなど、感じ方は人それぞれだ。
毎回様々なミッションが用意され、ミッションを、達成しない限り決して出ることができない特殊な儀式が、今日もまた行われようとしていた。
「なんでゴスフェとなのよ?」
「んっんー!つれないなぁ!俺でよかったろ?もし他のキラーだったら、美味しく食べられちゃってたかもしれないよ?ネムリちゃん?」
「あんたが一番信用できないっつーの!」
抱きつこうとしてくるゴーストフェイスを片手で抑えつつ、ネムリは大きなため息を吐いた。
「そんなにため息つかないでよー」
俺悲しいー、といいながら、ゴーストフェイスはえーんと鳴き真似をする。
最も、口でえーん、といって泣き顔の仮面に手を添えているだけなのだが。
ため息を吐きつつも、内心少し可愛いな、なんて思ってしまうあたり、私も重症かもしれない。
ネムリは心の中で自嘲気味に笑った。
儀式のある無しに関わらず、いつもちょっかいをかけてくるゴーストフェイスが、ネムリは嫌いじゃなかった。
いや、むしろその反対。
さらっとした立ち振る舞いも、音もなく忍び寄ってくるところも、強いのに飄々としているところも、めちゃくちゃカッコ良くて好きだった。
でも、ついついからかうみたいに好きだとかなんとか言ってくるのが悔しくて、本心じゃないんだろうと思うたびに切なくなってしまうから、本音は隠してツンとした態度をとってしまう。
素直に本音を語れるような度胸も自信も、ネムリは持ち合わせていなかった。
故に、本当の思いと本音を心の奥に隠し、今日も臆病に虚勢を張り続けているのだった。
「あーあ!あんたと二人っきりなんてほんとついてない!」
「ひどいなぁネムリ。俺はこのまま永遠に一緒でもめちゃくちゃ幸せなんだけどなー。なんなら住む?同棲しちゃう?」
「もう!馬鹿なこと言ってないで!早くミッション終わらせて出るわよ!」
扉を確認すると、先ほどはなかった文字がじわじわと浮かび上がってきていた。
おどろおどろしい字体に少しだけ怯えつつ、文字を読む。
「っ…ええっと…」
文字に集中しすぎてしまい、ネムリはすぐ背後まで忍び寄っていたゴーストフェイスに全く気づかなかった。
「なーんて書いてんの?」
「きゃあっ!!ちょ、ちょっと!!!離れなさいよっ!!!」
ガバッ!と勢いよく後ろから抱きつかれる。
驚きすぎて口から心臓が飛び出すかと思った。
嫌だからではなく、嬉しくてだけど。
ゴーストフェイスに抱きしめられているせいで、全く文字になんて集中できない。
首筋あたりに微かにゴーストフェイスの吐息を感じて、体が震えてしまう。
ふわっと香る香水は、なんだか甘くて怪しくて、くらりときてしまう色香を感じさせる匂いだった。
ゴーストフェイスらしい香りに余計にドキドキしてしまう。
パニックになりそうなのをなんとか堪えて、口から出まかせの強がりを紡ぐ。
「まったく!馴れ馴れしい男なんてまったく好みじゃないっつーの!早く離れてよね暑苦しい!」
「んっんー。聞こえないなぁ…さってと、ミッションは〜?『お互いの体に油性マジックで名前を書く』?…へぇ。」
「なっ!?なん!?何ですって!?」
びっくりして飛び上がりそうになった体を押さえ込まれるように抱きしめられた。
こぼれそうになった声まで引っ込んでしまった。
「なんだか面白いミッションじゃん?楽しみだねぇネムリチャン♪」
「なっなななな!!」
「あれ?まだ続きあんね?なになに〜?」
ふざけないでよ!!
あんたの所有物みたいになるなんて願い下げなんだから!!!
そう言おうと思った。
恥ずかしさも本音も引っ込めて、そう言ってしまおうと思っていた。
「どうしよう!?まるで私がゴスフェのものになるみたいで、嬉しすぎてどうしていいかわかんないっ!!
……えっ…はっ!?」
口から飛び出した言葉に、ネムリは愕然としてフリーズした。
わたし、いま…なにいった?
呆然として硬直するネムリの耳元に、クククッと押し殺したような笑い声が聞こえた。
愉悦を滲ませたゴーストフェイスの声がそっと囁いてくる。
「『ミッションクリアまで本音でしか話せなくなります』…だってネムリ。今何ていった?」
顔が熱くなってくるのがわかった。
嘘でしょ!?なんで、だってそんなことって!
慌ててまたいつものように話そうとする。
「からかわないでよ!!ゴスフェのものになれるのがめちゃくちゃ嬉しいって本当に思ってるんだからっ!!ぁぁあ!!!もうっ!!!なんでっ!!!」
ゴーストフェイスを思いっきり突き飛ばして離れる。
突き飛ばされる前に、おっとぉ?と軽く呟いてひらりと躱された。
いつもの見慣れた泣き顔の仮面が、愉快そうにわらっているようにみえて、ネムリの感情はさらに掻き乱される。
「ご、ゴスフェなんか好きっ!!大大大大大ッ好き!!やぁああもぉおおお!!」
穴があったら入りたい!とネムリはこの時人生で一番痛感していた。
一番晒したくない醜態を、一番晒したくない人の前で晒すことになってしまったネムリは、もはや赤面を通り越して、涙目になっていた。
そんなネムリを見て、ゴーストフェイスはなお愉快そうに笑った。
動揺真っ只中のネムリは気づいていない。
少しづつ少しずつ、ゴーストフェイスがにじり寄ってきていることに。
「ほーんと、可愛いなぁネムリ。俺超嬉しい。ね、俺の事いつから好きになってたの?」
「勘違いしないで!ゴスフェを好きになったのはつい最近なんかじゃないんだから!初めて会った時からずっと好きなんだから!も、もうやだぁ!!」
ゴーストフェイスから逃げるようにネムリは後ずさる。
じわじわとにじり寄っていたゴーストフェイスによって、退路が閉ざされていたなど、みじんも気づかずに。
トンッ…
「えっ?…あっ」
気づいた時にはもうすでに、ネムリの背中は壁にぶつかっていた。
そして、気を逸らしてしまった隙に、ゴーストフェイスは音もなくネムリに詰め寄り、彼女の顔のすぐ隣に両手をついた。
ネムリの身体全てが、ゴーストフェイスと壁によって逃げ場を塞がれ、囲い込まれてしまった。
「つっかまーえた」
「なっ…あ、う…」
真っ赤な顔で金魚のように口をぱくぱくさせるしか出来ない。
真正面にゴーストフェイスの仮面が見える。
顔のすぐ横には、彼の黒い革手袋に覆われて両腕が逃げることを許さない。
いつのまにか、足の間にも、ゴーストフェイスの足が入り込んできていたせいで、身動ぎ一つできない。
「さぁネムリ。もう一度、こっちを向いて聞かせて?俺のことが…なぁに?」
「あっ…」
とっさに顔を逸らそうとしたら、ゴスフェの右手が頬を抑える。
「だーめ。よそ見は許さないよ」
「うっ…」
ゴスフェがいつの間にか仮面をずらしていた。
口元が愉快そうにニヤリと歪んでいる。
まるで舌で舐めるみたいに、ゴスフェの吐息がネムリの肌を伝う。
「俺の大っ好きなネムリは、俺のことをどう思ってるの?」
「う、うぅ…ッ…ッ嘘よ」
ぽろり、本音が溢れた。
追い詰められた極限の状態で、ネムリの口から初めて本心と口から溢れる言葉が、一致した瞬間だった。
「嘘?なにが?」
「あ、あんたが私のこと、好きなわけ無いじゃない!!私のこと、からかって面白がってるだけなんでしょ!?」
目から止めどなく涙が溢れてくる。
もう、抑えようがなかった。
隠し続けた本音は、一度吐き出すと際限なく流れ出す。
涙と一緒に、抑えようのない本心も、止めどなく溢れ出した。
「私だけが!!私だけがゴスフェのこと好きでっ!片思いなんでしょ!?ドキドキして!!嬉しくてっ!!!でもゴスフェにとってはただの冗談で!!面白いだけで!!私はおもちゃみたいなもんなんでしょ!?」
つっ、とゴーストフェイスの手がネムリの涙の跡を辿る。
いまだ止まらない涙を溢したまま、ネムリはゴーストフェイスを見つめた。
視界に映るゴーストフェイスの口元は今なお笑みを称えていた。
「私のことが面白い…?必死なのが、そんなに面白いの?」
ゴーストフェイスはなにも答えない。
ただ笑ってこちらを眺めている。
ネムリはただ、唇を震わせる。
諦めにも似た落胆が心を沈ませる。
「…酷い人。私は必死なのに、馬鹿にして…。ゴスフェのこと、嫌いになれたらいいのに…」
「ネムリ。その本音だけは受け止められないや」
ゴーストフェイスの囁きと共に、ポツリと溢した本音は、ゴーストフェイスの唇で塞がれ消えていった。
ネムリは驚いて目を見開いていた。
唇に微かに残る、柔らかくて熱い感触。
確かめようと伸ばした手を、ゴーストフェイスが掴んだ。
「俺も好きだよ。初めて見かけた時からずっとネムリのことが。」
ゴーストフェイスが優しく囁いた。
そっと、涙を拭うように手が頬を撫でる。
ネムリはとくん、と高鳴りそうになる胸を押さえつけた。
「ッ…それこそ、嘘でしょ?」
「ネムリこの部屋が本音しか言えない部屋って忘れてない?ネムリだけじゃないんだよ。本音で話してるの」
「だってっ!ゴスフェ、いつもとなにも変わらない…」
「俺は自分に正直なの。本音しか言わないさ。いつだってね」
ネムリの瞳が揺れる。
悲しみと期待がない混ぜになった、儚い光をたたえてゴーストフェイスを映す。
「嘘よ…」
「嘘なもんか。俺結構ストレートに伝えてるのになんで信じてくれないかなぁ?」
ふっ、とゴーストフェイスが笑う。
いつもと違う少し寂しそうな雰囲気だった。
「だって…だって…」
「信じてくれるまで何度でも言うよ?好きだよネムリ。好きだ。俺だけのネムリになって」
「うっ…」
「嘘じゃない。ネムリ、愛してる」
とめどなく、ネムリの目から涙が流れ続ける。
ゴーストフェイスはそっと、ネムリの目元へ口付け、こぼれ落ちる大粒の滴をぺろりと舐めた。
「ひゃっ…」
「泣くなよ。両思いだろ?それとも、両思いは嫌かい?」
ゴーストフェイスが優しく見つめてくる。
どこか切なく、でもまっすぐにネムリを見据える。
その目に曇りなど一切ない。
ネムリはただ、臆病だっただけ。
関係の悪化が怖くて、自ら閉じこもろうとしていただけなのだ。
そんな必要など、なにもなかったのだと、真正面からゴーストフェイスを見つめて、初めて気づいたのだった。
「うっ…」
「う?」
「うれ、しい…嬉しいよぉ!」
ネムリは、変わらず目からボロボロ涙を溢しながら、ゴーストフェイスに抱きついた。
ゴーストフェイスは若干驚いたものの、笑みを浮かべるとすぐにネムリを抱きしめた。
「俺のネムリってわけね。もう離さないけどいいかい?」
「っ…うんっ!!!」
ネムリも負けじとゴーストフェイスをギュッと抱きしめ返した。
「よぅし、ネムリ?少しじっとしてて。」
「んっ…なぁに?」
「ミッションクリアだよ」
そう言ってまたゴーストフェイスはネムリの頬を抑え、右手に隠し持っていた油性ペンをその柔らかい頬の上に走らせた。
「やっ!んっん!く、くすぐったい!」
「我慢してー。よっし!書けた!」
完璧!といいながらゴーストフェイスが手を離す。
「さて、ネムリも書いて?んー、俺はここがいいかなぁ?」
そう言ってゴーストフェイスは身につけたローブを引っ張ると、自身の首筋を晒した。
普段見えないローブの下の首筋や、意外にしっかりとした逞しい肩の筋肉に、ネムリはつい目を逸らしてしまう。
「ほーら。ちゃんと見て。」
「あ、う…」
照れるネムリをみて、ゴーストフェイスは少しニヤつきながら再び彼女を壁際に追い詰める。
「これで照れてたら後きついんじゃない?」
「ご、ゴスフェのばかっ」
「ほら早く」
ニヤニヤと笑いながら、油性ペンをネムリの手に握らせる。
「うぅ…」
ネムリはなんとか震える手でペンを握りしめると、ゴーストフェイスの首筋に、小さく『ネムリ』と名前を書いた。
同時にけたたましいブザー音が鳴り響く。
重たい音を立てて、扉がゆっくりと開いていった。
「あ、あいた…」
「だね。さて、帰ろうか」
スッと差し出されるゴーストフェイスの手。
ネムリははにかむように笑って、そっとその手を握り返した。
「ねぇ、ゴスフェ」
「ん?」
「…ほんとに好きよ」
「知ってる。俺も好き」
ちらりとこちらを上目遣いでみて微笑むネムリに、ゴーストフェイスは余裕を装いつつも内心では少し動揺と、幸福感を感じていた。
いつも顔を赤らめつつもツンツンとした態度のネムリも嫌いじゃないが、素直に気持ちを伝えてくるネムリも愛しくてたまらない。
ネムリには見えない仮面の下で、ゴーストフェイスは誰にも見せたことがないほど破顔していたのだった。
その後、それぞれの拠点に戻ったあと、油性ペンで名前を書かれたことなどすっかり忘れていたネムリは、頬に刻まれた「Ghost Face Only」の文字を散々仲間にからかわれ、赤面することになるのだった。
一方のゴーストフェイスは、首筋に書かれた文字を仲間のキラーに見せつけ、いかにネムリが可愛くて愛しいかを散々惚気まくるのだった。
あるものは羞恥に悶え、あるものは幸福を感じ、またあるものは激怒するなど、感じ方は人それぞれだ。
毎回様々なミッションが用意され、ミッションを、達成しない限り決して出ることができない特殊な儀式が、今日もまた行われようとしていた。
「なんでゴスフェとなのよ?」
「んっんー!つれないなぁ!俺でよかったろ?もし他のキラーだったら、美味しく食べられちゃってたかもしれないよ?ネムリちゃん?」
「あんたが一番信用できないっつーの!」
抱きつこうとしてくるゴーストフェイスを片手で抑えつつ、ネムリは大きなため息を吐いた。
「そんなにため息つかないでよー」
俺悲しいー、といいながら、ゴーストフェイスはえーんと鳴き真似をする。
最も、口でえーん、といって泣き顔の仮面に手を添えているだけなのだが。
ため息を吐きつつも、内心少し可愛いな、なんて思ってしまうあたり、私も重症かもしれない。
ネムリは心の中で自嘲気味に笑った。
儀式のある無しに関わらず、いつもちょっかいをかけてくるゴーストフェイスが、ネムリは嫌いじゃなかった。
いや、むしろその反対。
さらっとした立ち振る舞いも、音もなく忍び寄ってくるところも、強いのに飄々としているところも、めちゃくちゃカッコ良くて好きだった。
でも、ついついからかうみたいに好きだとかなんとか言ってくるのが悔しくて、本心じゃないんだろうと思うたびに切なくなってしまうから、本音は隠してツンとした態度をとってしまう。
素直に本音を語れるような度胸も自信も、ネムリは持ち合わせていなかった。
故に、本当の思いと本音を心の奥に隠し、今日も臆病に虚勢を張り続けているのだった。
「あーあ!あんたと二人っきりなんてほんとついてない!」
「ひどいなぁネムリ。俺はこのまま永遠に一緒でもめちゃくちゃ幸せなんだけどなー。なんなら住む?同棲しちゃう?」
「もう!馬鹿なこと言ってないで!早くミッション終わらせて出るわよ!」
扉を確認すると、先ほどはなかった文字がじわじわと浮かび上がってきていた。
おどろおどろしい字体に少しだけ怯えつつ、文字を読む。
「っ…ええっと…」
文字に集中しすぎてしまい、ネムリはすぐ背後まで忍び寄っていたゴーストフェイスに全く気づかなかった。
「なーんて書いてんの?」
「きゃあっ!!ちょ、ちょっと!!!離れなさいよっ!!!」
ガバッ!と勢いよく後ろから抱きつかれる。
驚きすぎて口から心臓が飛び出すかと思った。
嫌だからではなく、嬉しくてだけど。
ゴーストフェイスに抱きしめられているせいで、全く文字になんて集中できない。
首筋あたりに微かにゴーストフェイスの吐息を感じて、体が震えてしまう。
ふわっと香る香水は、なんだか甘くて怪しくて、くらりときてしまう色香を感じさせる匂いだった。
ゴーストフェイスらしい香りに余計にドキドキしてしまう。
パニックになりそうなのをなんとか堪えて、口から出まかせの強がりを紡ぐ。
「まったく!馴れ馴れしい男なんてまったく好みじゃないっつーの!早く離れてよね暑苦しい!」
「んっんー。聞こえないなぁ…さってと、ミッションは〜?『お互いの体に油性マジックで名前を書く』?…へぇ。」
「なっ!?なん!?何ですって!?」
びっくりして飛び上がりそうになった体を押さえ込まれるように抱きしめられた。
こぼれそうになった声まで引っ込んでしまった。
「なんだか面白いミッションじゃん?楽しみだねぇネムリチャン♪」
「なっなななな!!」
「あれ?まだ続きあんね?なになに〜?」
ふざけないでよ!!
あんたの所有物みたいになるなんて願い下げなんだから!!!
そう言おうと思った。
恥ずかしさも本音も引っ込めて、そう言ってしまおうと思っていた。
「どうしよう!?まるで私がゴスフェのものになるみたいで、嬉しすぎてどうしていいかわかんないっ!!
……えっ…はっ!?」
口から飛び出した言葉に、ネムリは愕然としてフリーズした。
わたし、いま…なにいった?
呆然として硬直するネムリの耳元に、クククッと押し殺したような笑い声が聞こえた。
愉悦を滲ませたゴーストフェイスの声がそっと囁いてくる。
「『ミッションクリアまで本音でしか話せなくなります』…だってネムリ。今何ていった?」
顔が熱くなってくるのがわかった。
嘘でしょ!?なんで、だってそんなことって!
慌ててまたいつものように話そうとする。
「からかわないでよ!!ゴスフェのものになれるのがめちゃくちゃ嬉しいって本当に思ってるんだからっ!!ぁぁあ!!!もうっ!!!なんでっ!!!」
ゴーストフェイスを思いっきり突き飛ばして離れる。
突き飛ばされる前に、おっとぉ?と軽く呟いてひらりと躱された。
いつもの見慣れた泣き顔の仮面が、愉快そうにわらっているようにみえて、ネムリの感情はさらに掻き乱される。
「ご、ゴスフェなんか好きっ!!大大大大大ッ好き!!やぁああもぉおおお!!」
穴があったら入りたい!とネムリはこの時人生で一番痛感していた。
一番晒したくない醜態を、一番晒したくない人の前で晒すことになってしまったネムリは、もはや赤面を通り越して、涙目になっていた。
そんなネムリを見て、ゴーストフェイスはなお愉快そうに笑った。
動揺真っ只中のネムリは気づいていない。
少しづつ少しずつ、ゴーストフェイスがにじり寄ってきていることに。
「ほーんと、可愛いなぁネムリ。俺超嬉しい。ね、俺の事いつから好きになってたの?」
「勘違いしないで!ゴスフェを好きになったのはつい最近なんかじゃないんだから!初めて会った時からずっと好きなんだから!も、もうやだぁ!!」
ゴーストフェイスから逃げるようにネムリは後ずさる。
じわじわとにじり寄っていたゴーストフェイスによって、退路が閉ざされていたなど、みじんも気づかずに。
トンッ…
「えっ?…あっ」
気づいた時にはもうすでに、ネムリの背中は壁にぶつかっていた。
そして、気を逸らしてしまった隙に、ゴーストフェイスは音もなくネムリに詰め寄り、彼女の顔のすぐ隣に両手をついた。
ネムリの身体全てが、ゴーストフェイスと壁によって逃げ場を塞がれ、囲い込まれてしまった。
「つっかまーえた」
「なっ…あ、う…」
真っ赤な顔で金魚のように口をぱくぱくさせるしか出来ない。
真正面にゴーストフェイスの仮面が見える。
顔のすぐ横には、彼の黒い革手袋に覆われて両腕が逃げることを許さない。
いつのまにか、足の間にも、ゴーストフェイスの足が入り込んできていたせいで、身動ぎ一つできない。
「さぁネムリ。もう一度、こっちを向いて聞かせて?俺のことが…なぁに?」
「あっ…」
とっさに顔を逸らそうとしたら、ゴスフェの右手が頬を抑える。
「だーめ。よそ見は許さないよ」
「うっ…」
ゴスフェがいつの間にか仮面をずらしていた。
口元が愉快そうにニヤリと歪んでいる。
まるで舌で舐めるみたいに、ゴスフェの吐息がネムリの肌を伝う。
「俺の大っ好きなネムリは、俺のことをどう思ってるの?」
「う、うぅ…ッ…ッ嘘よ」
ぽろり、本音が溢れた。
追い詰められた極限の状態で、ネムリの口から初めて本心と口から溢れる言葉が、一致した瞬間だった。
「嘘?なにが?」
「あ、あんたが私のこと、好きなわけ無いじゃない!!私のこと、からかって面白がってるだけなんでしょ!?」
目から止めどなく涙が溢れてくる。
もう、抑えようがなかった。
隠し続けた本音は、一度吐き出すと際限なく流れ出す。
涙と一緒に、抑えようのない本心も、止めどなく溢れ出した。
「私だけが!!私だけがゴスフェのこと好きでっ!片思いなんでしょ!?ドキドキして!!嬉しくてっ!!!でもゴスフェにとってはただの冗談で!!面白いだけで!!私はおもちゃみたいなもんなんでしょ!?」
つっ、とゴーストフェイスの手がネムリの涙の跡を辿る。
いまだ止まらない涙を溢したまま、ネムリはゴーストフェイスを見つめた。
視界に映るゴーストフェイスの口元は今なお笑みを称えていた。
「私のことが面白い…?必死なのが、そんなに面白いの?」
ゴーストフェイスはなにも答えない。
ただ笑ってこちらを眺めている。
ネムリはただ、唇を震わせる。
諦めにも似た落胆が心を沈ませる。
「…酷い人。私は必死なのに、馬鹿にして…。ゴスフェのこと、嫌いになれたらいいのに…」
「ネムリ。その本音だけは受け止められないや」
ゴーストフェイスの囁きと共に、ポツリと溢した本音は、ゴーストフェイスの唇で塞がれ消えていった。
ネムリは驚いて目を見開いていた。
唇に微かに残る、柔らかくて熱い感触。
確かめようと伸ばした手を、ゴーストフェイスが掴んだ。
「俺も好きだよ。初めて見かけた時からずっとネムリのことが。」
ゴーストフェイスが優しく囁いた。
そっと、涙を拭うように手が頬を撫でる。
ネムリはとくん、と高鳴りそうになる胸を押さえつけた。
「ッ…それこそ、嘘でしょ?」
「ネムリこの部屋が本音しか言えない部屋って忘れてない?ネムリだけじゃないんだよ。本音で話してるの」
「だってっ!ゴスフェ、いつもとなにも変わらない…」
「俺は自分に正直なの。本音しか言わないさ。いつだってね」
ネムリの瞳が揺れる。
悲しみと期待がない混ぜになった、儚い光をたたえてゴーストフェイスを映す。
「嘘よ…」
「嘘なもんか。俺結構ストレートに伝えてるのになんで信じてくれないかなぁ?」
ふっ、とゴーストフェイスが笑う。
いつもと違う少し寂しそうな雰囲気だった。
「だって…だって…」
「信じてくれるまで何度でも言うよ?好きだよネムリ。好きだ。俺だけのネムリになって」
「うっ…」
「嘘じゃない。ネムリ、愛してる」
とめどなく、ネムリの目から涙が流れ続ける。
ゴーストフェイスはそっと、ネムリの目元へ口付け、こぼれ落ちる大粒の滴をぺろりと舐めた。
「ひゃっ…」
「泣くなよ。両思いだろ?それとも、両思いは嫌かい?」
ゴーストフェイスが優しく見つめてくる。
どこか切なく、でもまっすぐにネムリを見据える。
その目に曇りなど一切ない。
ネムリはただ、臆病だっただけ。
関係の悪化が怖くて、自ら閉じこもろうとしていただけなのだ。
そんな必要など、なにもなかったのだと、真正面からゴーストフェイスを見つめて、初めて気づいたのだった。
「うっ…」
「う?」
「うれ、しい…嬉しいよぉ!」
ネムリは、変わらず目からボロボロ涙を溢しながら、ゴーストフェイスに抱きついた。
ゴーストフェイスは若干驚いたものの、笑みを浮かべるとすぐにネムリを抱きしめた。
「俺のネムリってわけね。もう離さないけどいいかい?」
「っ…うんっ!!!」
ネムリも負けじとゴーストフェイスをギュッと抱きしめ返した。
「よぅし、ネムリ?少しじっとしてて。」
「んっ…なぁに?」
「ミッションクリアだよ」
そう言ってまたゴーストフェイスはネムリの頬を抑え、右手に隠し持っていた油性ペンをその柔らかい頬の上に走らせた。
「やっ!んっん!く、くすぐったい!」
「我慢してー。よっし!書けた!」
完璧!といいながらゴーストフェイスが手を離す。
「さて、ネムリも書いて?んー、俺はここがいいかなぁ?」
そう言ってゴーストフェイスは身につけたローブを引っ張ると、自身の首筋を晒した。
普段見えないローブの下の首筋や、意外にしっかりとした逞しい肩の筋肉に、ネムリはつい目を逸らしてしまう。
「ほーら。ちゃんと見て。」
「あ、う…」
照れるネムリをみて、ゴーストフェイスは少しニヤつきながら再び彼女を壁際に追い詰める。
「これで照れてたら後きついんじゃない?」
「ご、ゴスフェのばかっ」
「ほら早く」
ニヤニヤと笑いながら、油性ペンをネムリの手に握らせる。
「うぅ…」
ネムリはなんとか震える手でペンを握りしめると、ゴーストフェイスの首筋に、小さく『ネムリ』と名前を書いた。
同時にけたたましいブザー音が鳴り響く。
重たい音を立てて、扉がゆっくりと開いていった。
「あ、あいた…」
「だね。さて、帰ろうか」
スッと差し出されるゴーストフェイスの手。
ネムリははにかむように笑って、そっとその手を握り返した。
「ねぇ、ゴスフェ」
「ん?」
「…ほんとに好きよ」
「知ってる。俺も好き」
ちらりとこちらを上目遣いでみて微笑むネムリに、ゴーストフェイスは余裕を装いつつも内心では少し動揺と、幸福感を感じていた。
いつも顔を赤らめつつもツンツンとした態度のネムリも嫌いじゃないが、素直に気持ちを伝えてくるネムリも愛しくてたまらない。
ネムリには見えない仮面の下で、ゴーストフェイスは誰にも見せたことがないほど破顔していたのだった。
その後、それぞれの拠点に戻ったあと、油性ペンで名前を書かれたことなどすっかり忘れていたネムリは、頬に刻まれた「Ghost Face Only」の文字を散々仲間にからかわれ、赤面することになるのだった。
一方のゴーストフェイスは、首筋に書かれた文字を仲間のキラーに見せつけ、いかにネムリが可愛くて愛しいかを散々惚気まくるのだった。