ある日の午後
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今日は朝からのんびりと時間が過ぎていた。
気温も過ごしやすく、時折頬を撫でる風は柔らかく、その心地良さに目を細めるほどだ。
昼食を済ませたあと、寺田屋のお手伝いを一通り追えた私は、みんなの言葉を思い返していた。
朝餉を食べた私達はお茶を含み談笑に入っていた。
「え?皆さん今日はゆっくりお休みなんですか?」
「ええ、そっスね。なので、今日は皆寺田屋にいるっス。」
「じゃ、皆揃ってお昼も夜ご飯も、一緒に食べられるね!楽しみ!」
慎ちゃんの言葉に、私は久々に集合だと思うと嬉しくなり、両手を合わせて声を弾ませ提案した。
「たく、お前は食うことだけか?」
「あ!酷い以蔵っ。そんなことないよっ。」
「ムキになる所が怪しいな」
依存の言葉に、酷いと頬を膨らませているとハハッと声に出して以蔵が笑った。
「以蔵。女性に対してその物言いは失礼だぞ。」
「はい。先生。」
武市さんの一言で以蔵は、一言返事をするとその話題には触れなくなったが、口の端でバカにするように笑って見せたのだった。
本当に以蔵ってば、失礼だ!
以蔵の笑いで私の記憶はそこでプツリと切れた。
今朝のやり取りを思い返しては、皆がそれぞれ何をしているのか気になりだした私は、手持ち無沙汰もあり様子を伺う事にしたのだった。
まず目に付いたのは以蔵だ。
以蔵は目立たないところで木刀を何度も振り下ろしていた。光る汗とともに少し笑顔なのは、手応えがあるのか、楽しいのか。やっぱり以蔵の素振りはとても綺麗で見入ってしまった。
邪魔するのは悪いと思い、そのまま通り過ぎた。
次は武市さんの部屋の前に向かった。
少し楽しそうに久々に書物に目が通せると話していたから、きっとまだ部屋なんだろう。
慎ちゃんも忙しい日が続いて、部屋でゆっくりすると話していたので、もしかしたら寝ているかもしれないと思い。
私は、ふと足を止めて、2人の部屋は素通りする事に決めたのだった。
せっかくの休日に私の勝手でお邪魔する事が、申し訳ない気がしたからだ。
夜に感想でも聞こうと思いながら、進路を変えたのだった。
残るは龍馬さんだなと思いながら、目的の方向へ進路を変えたまさにその時だった。するとまさに目の前に、目的である見慣れた後ろ姿を目にしたのだった。
外歩いてるし少し話しかけてみよう。もし忙しそうなら直ぐに席を外そう。と、思いながら歩く速度を上げたのだった。
その時だった。私の心に、悪戯心が騒いでしまったのだ。
よーし、そっと近づいて後から驚かしちゃおっ。
私は逸る気持ちを抑えながら、足音を立てないようにゆっくりと近づいたのだった。
あとちょっと。あと数歩。もう少しっ。どんどん近づいて、今だ!と声をかけようと勢いをつけた。
「ぐわーっ!!」
「っきゃっー!!」
声をかけようとした瞬間、勢い良く龍馬さんが振り返り覆いかぶさる勢いで、両手を勢い良く上げ、こちらに振り向いたのだった。
驚いた私は、声を掛けるどころかそのまま叫んでしまい、体を収縮させたまま、目を見開いてしまった。
「わっはっはっは。いやーすまんちゃ〜。やっぱりさくらさんやったがー。」
龍馬さんは白い歯をニッカリと見せて、大輪の笑顔を咲かせていた。ごめんと言いながらも楽しそうに笑い、振り上げた手を私の両肩に載せた。
私は、この両手になぜかホッと安堵したのだった。
そして、次第に大声の他に失敗に終わった恥ずかしさと、その前にバレていた事もあり、どんどん顔に熱が集まってきた。きっと顔は赤いだろう。
「ははは。驚かしてしもうて、悪かったの。」
「もー笑いすぎです。でも、いつ私だとわかったんですか?」
私は頬の熱を確かめるために両手を頬に当てて、恥ずかしさから視線を泳がせた。
「いやなに、ついさっきじゃ。何やら可愛らしい気配がするなーと思っただけやき。そいたら、何かコソコソと楽しそうに近づいてくるもんやき、さくらさんに間違いないと思うただけじゃ。」
最後にニカッと自信満々に太陽みたいな笑顔でどうじゃと、言うものだから、私はつられて笑ってしまっていた。
龍馬さんには敵わない。
「あ〜あっ、驚かそうと思ったのに、失敗しちゃいました。」
「また次の楽しみにとっておくぜよ。」
少しかがみ、目線を合わせ、近距離でパチンとウインクする姿がなんとも大人でカッコイイ。大人の雰囲気だと思ったら、「ニシシ」なんて子供っぽく笑うものだから、私は顔が熱くなってしまった。
「もー、覚悟しておいて下さいね!」
「おおっ、楽しみじゃっ」
二人で笑っていた時だ。ふいに後ろから声を掛けられたのだった。
「あーっ、やっぱり2人でしたかっ」
「慎ちゃんっ、どうしたの?」
「どうもこうもないっス!姉さんの叫び声が聞こえたから、急いで駆けつけたッスけど・・・大丈夫そうッスね。」
角から出てきた、慎ちゃんが笑顔で話しかけてきた。
「ごめんなさい。私が驚いて大声出しちゃったから」
きっとゆっくりしていただろう慎ちゃんを思うと、申し訳なくなり素直に謝罪の言葉を口にした。
慎ちゃんは大丈夫と笑顔を向けてくれて、私は心を撫で下ろした。
「こら龍馬!さくらさんに何をした!」
「また、変なことしたんだろ。龍馬。」
「あ、武市さん、以蔵君。龍馬さんは姉さんと戯れあってただけッスよ。いつもの事ッス。」
「え!?」
「ぬ!?」
慎ちゃんの一声に、私と龍馬さんの声が重なった。
いつもの事ってどういう事?何だか恥ずかしくなって龍馬さんを見ると、龍馬さんも頬を赤らめて、私を見ていた。私は、目が合ったことで更に暑くなり、少し顔を逸らしてしまった。
「なんじゃ、おんしら!失礼じゃっ。」
「なんだ龍馬。両手をあげて襲いかかろうとしていたでは無いか。」
「いえ、先生。失礼ながら、正確には・・・また襲ってきてくれ。好きじゃ。だったかと。」
「お?そうだったか。二人だけの秘密と逢い引きの約束までしていたから、てっきり昼間から・・・。」
「ちょ、ちょっと、二人とも。二人だけの約束じゃーって、楽しみにしていた龍馬さんが可哀想ッス。」
「〜〜〜。」
言葉にならなかった。すべて見られていたと全て分かった。
龍馬さんもゆでダコのように真っ赤になり震えている。ダメ。もう恥ずかしすぎて、見れない。
私は、両手で顔を隠すように覆うと、それが切っ掛けの様に龍馬さんがピストルを構えて叫んだ。
「おんしら〜。もう、今日こそは許さん!覚悟せぇ!」
龍馬さんの一言でドタバタと追いかけっこが始まってしまった。
「うわ〜、龍馬さん!落ち着いて下さいッス」
「何を今更。こんな大通りでイチャついているのが悪い。さっさくらさん、お茶にしよう。」
「え!?この状況で?」
「先ずは武市からじゃ〜!」
「おい!龍馬!先生に向けるな!」
ギャーギャーと、騒ぎ始めた姿に私はいつの間にか笑っていたのだった。
何気なく笑って過ごせるこんな日が、ずっとずっと続くようにと心から願った私は空を見上げた。
見つめ合った視線の擽ったさと、午後の陽気さに出来た約束。それに、今日もみんなと過ごせる事の当たり前を、幸せに感じれる日に、今日も良い天気だなと空を仰いだ、ある日の午後の話なのでした。
fin...
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