とある甘い雨の日
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1〜3成歩堂くん×夢主ちゃん 付き合いたて
天気予報では、雨は降らないと言っていた。
ならば、どうして買い物に出た私の肩は濡れているのだろう。
まさか、ゲリラ豪雨は降雨に含まれないというのか。
なんて、天気予報士を恨んでみる。
「はあ、寒い……」
雨は、薄着で買い物に出ていた私から容赦なく体温を奪っていく。
濡れている肩や髪と指先が冷たい。
幸い、現在地は家に近い。
ただし、家といっても私の家ではないのだか。
恋人である成歩堂さんの家だ。
「これ……」
私はバッグから鍵を取り出す。
以前のデートの時に貰った合鍵だ。
私はまだこいつを使うことが出来ていない。
少しの間だけ雨宿りさせてもらってもいいだろうか……。
*
ガチャリ、と鍵を回す。
面接を受ける就活生のような気分でドアを開く。
ギイイ……。
中は真っ暗だ。
玄関に靴が並んでいない。
どうやらまだ事務所にいるみたいだ。
「お邪魔します……」
家主が不在の部屋に挨拶をして恐る恐る靴を脱ぐ。
部屋全体から成歩堂さんの匂いがする。
人工的な匂いじゃなくて、もっと落ち着く優しい匂い。
リビングの電気をつけて椅子に腰をかける。
お世辞にも片付いているとは言えないけれど、一人暮らしの男性なんてこんなものだろう。(客が来るなんて想定していなかっただろうし)
それにしても……寒い。
風邪を引いてしまいそうだ。
それに、濡れた服が椅子を濡らしてしまっているみたいだ。
「あ、そうだ」
お風呂を借りれば……と思ったけれど、思いとどまった。
鍵を渡されてたとはいえ、いきなり、本人が不在の時に突撃して、さらに風呂まで借りようとは。
あまりに非常識だろう。
しかし、このままでは凍えて死んでしまいそうだ。
部屋をうろうろと徘徊しながら、十分ほど考えた。
しかし、他に寒さに対する打開策は思いつかず……。
「ごめんなさい、成歩堂さん!」
お風呂を借りることにした。
彼には後でたっぷり謝罪しようと思う。
*
「生き返るな〜」
少し狭い湯船、でもそれがちょうどいい。
私はてっきり、成歩堂さんは入浴剤なんて使わないんだろうと思っていたけれど、意外にもゆずの入浴剤があった。
さすがの私も勝手に使用したりはしていない。
男物のシャンプー、ボディーソープ、石鹸が仲良く並んでいる。
コンディショナーは使わないらしい。
もう少ししたら上がってしまおう。
本当に申し訳ない気持ちになるから……。
と思っていたら、ガチャ、と玄関から音が鳴った。
「え、」
どうしよう! 勝手に貰った鍵で中に入ってきたこと、お風呂を借りていることがバレてしまう。
非常識すぎて呆れられてしまったらどうしよう。
別れを切り出されたら……。
急いであがらなければ。
しかし、玄関とお風呂場は近い。
今さらながら、こんな軽率な選択をした事を後悔した。
足音は近づいてくる。
どうしよう、
「まったく、なんで雨が……、って、えええええ!」
濡れたシャツを着た成歩堂さんが浴室のドアを開いた。
私は申し訳なさでいっぱいで、消えてしまいたくなった。
「ご、ごめんなさい、成歩堂さん! 勝手に入っちゃって……」
なんと説明したら良いか私には分からなかった。
だって、何を言っても言い訳がましくなりそうで。
成歩堂さんは真っ赤になって手で顔を隠して、
「ほ、ほんとに奈真恵ちゃん? それとも、ぼくの幻覚?」
と言った。
そこで私は自分が裸だということに気づいて赤面した。
お風呂に入っているのに、だらだらと汗が流れる。
「本当に私です……。幻覚じゃないです。あの、勝手に入った挙句、お風呂まで借りてしまってごめんなさい」
「ベツにそれはいいんだけど! あ、」
顔を覆っていた手が離れて、成歩堂さんとバッチリ目が合う。
そして、すぐ顔を逸らされた。
「み、見ましたか?」
「み、み、み、み、見てない! 安心して!」
全然安心できない。
私と目を合わせないまま、彼は口を開く。
「どうして、奈真恵ちゃんがここに来てくれたのか聞いてもいいかな」
「……傘を持ってなくて、雨宿りをさせてもらいたくて来ちゃいました。本当にごめんなさい」
「あー、きみも? ぼくも雨に濡れてさ……。雨が降るなんて思わなかったよね。ああそうだ、タオルとか持ってこないとだからちょっと待っててくれるかい?」
成歩堂さんが脱衣所から出ていく。
どうやら許してくれたみたいだ。
ほっと息をつく。
それにしても、成歩堂さんはあんな風に取り乱したりする人だっただろうか。
法廷では確かに騒いでいるけれど、普段はもっと落ち着いていて、いつも余裕のある大人の男性というイメージだったのだが……。
「おまたせ。はい、これ使ってね。あと着替えは……。うん、無いや。ごめん。何か貸せるものがないか探してくるから、もう少し浸かってて」
私がお風呂から上がる前に、成歩堂さんは慌ただしく脱衣所を出て行った。
彼が戻ってくるまでに、私は体を拭き終える。
もう少し浸かっていてもいいと言われたけれど、やっぱり申し訳なくなってしまったから。
「はい、これ着ておいて。多分サイズは大丈夫だと思うけど……」
ちょうど戻ってた成歩堂さんからTシャツを受け取る。
袖と裾がかなり余ってしまった。
これはいわゆる彼シャツというやつだろうか。
成歩堂さんの匂いがして、なんだか照れてしまう。
「ありがとうございます……。ごめんなさい、色々とお世話をかけてしまって」
「ううん。ぼくの方こそゴメン。まさか、その……お風呂に入ってるなんて思ってなかったからさ。もっと早く帰ってきてれば良かったよ」
「いえ、私が悪いんです。お風呂まで借りてしまって……」
「気にしないで。むしろ、嬉しいっていうか……」
「えっ!?」
思わず声を上げて驚く。
成歩堂さんはしまった、というように口を塞いで、視線を泳がせた。
「ちがうちがう! そんなヘンな意味じゃなくって!」
成歩堂さんの耳が赤い。
私もつられて顔に熱が集まる。
何だか変な雰囲気になってしまった。
「遠慮がちなきみが家にあがってくれて嬉しいとか、ぼくの服を着てくれて嬉しいとかそういう意味で……。いや、こっちも恥ずかしいな……」
成歩堂さんは両手で頬を抑えて俯いた。
なんだか可愛らしく見えてきて、私は微笑む。
「ふふ。成歩堂さん、可愛いですね」
「な、なんだよ。それ」
「そのまんまですよ」
「奈真恵ちゃんの方がカワイイよ」
突然の褒め言葉に心臓が跳ねた。
今度は私が酷く赤面する番だった。
「え、あ、はい……?」
「照れてる? かわいいなぁ」
成歩堂さんが私の頭を撫でた。
大きな手だ。暖かくて優しい手にドキドキする。
私は成歩堂さんの顔を見上げた。
彼の瞳の中に、私がいる。
それだけで、胸がいっぱいになった。
「あの……」
「ん? なんだい?」
「……キスしてもいいですか?」
「……いいよ」
成歩堂さんの手が後頭部に回る。
私はそっと目を閉じた。唇に柔らかい感触。
雨の音だけが響く中、私たちは何度も角度を変えて口づけを交わしていた。
「……ぼくもしたいなって思っていたんだ」
「そうなんですね」
「うん」
「私達、同じことを考えてたんですね」
「そうだね」
もう一度、成歩堂さんと目が合った。
今度は私から口付ける。
その日は甘い雨の日だった。
天気予報では、雨は降らないと言っていた。
ならば、どうして買い物に出た私の肩は濡れているのだろう。
まさか、ゲリラ豪雨は降雨に含まれないというのか。
なんて、天気予報士を恨んでみる。
「はあ、寒い……」
雨は、薄着で買い物に出ていた私から容赦なく体温を奪っていく。
濡れている肩や髪と指先が冷たい。
幸い、現在地は家に近い。
ただし、家といっても私の家ではないのだか。
恋人である成歩堂さんの家だ。
「これ……」
私はバッグから鍵を取り出す。
以前のデートの時に貰った合鍵だ。
私はまだこいつを使うことが出来ていない。
少しの間だけ雨宿りさせてもらってもいいだろうか……。
*
ガチャリ、と鍵を回す。
面接を受ける就活生のような気分でドアを開く。
ギイイ……。
中は真っ暗だ。
玄関に靴が並んでいない。
どうやらまだ事務所にいるみたいだ。
「お邪魔します……」
家主が不在の部屋に挨拶をして恐る恐る靴を脱ぐ。
部屋全体から成歩堂さんの匂いがする。
人工的な匂いじゃなくて、もっと落ち着く優しい匂い。
リビングの電気をつけて椅子に腰をかける。
お世辞にも片付いているとは言えないけれど、一人暮らしの男性なんてこんなものだろう。(客が来るなんて想定していなかっただろうし)
それにしても……寒い。
風邪を引いてしまいそうだ。
それに、濡れた服が椅子を濡らしてしまっているみたいだ。
「あ、そうだ」
お風呂を借りれば……と思ったけれど、思いとどまった。
鍵を渡されてたとはいえ、いきなり、本人が不在の時に突撃して、さらに風呂まで借りようとは。
あまりに非常識だろう。
しかし、このままでは凍えて死んでしまいそうだ。
部屋をうろうろと徘徊しながら、十分ほど考えた。
しかし、他に寒さに対する打開策は思いつかず……。
「ごめんなさい、成歩堂さん!」
お風呂を借りることにした。
彼には後でたっぷり謝罪しようと思う。
*
「生き返るな〜」
少し狭い湯船、でもそれがちょうどいい。
私はてっきり、成歩堂さんは入浴剤なんて使わないんだろうと思っていたけれど、意外にもゆずの入浴剤があった。
さすがの私も勝手に使用したりはしていない。
男物のシャンプー、ボディーソープ、石鹸が仲良く並んでいる。
コンディショナーは使わないらしい。
もう少ししたら上がってしまおう。
本当に申し訳ない気持ちになるから……。
と思っていたら、ガチャ、と玄関から音が鳴った。
「え、」
どうしよう! 勝手に貰った鍵で中に入ってきたこと、お風呂を借りていることがバレてしまう。
非常識すぎて呆れられてしまったらどうしよう。
別れを切り出されたら……。
急いであがらなければ。
しかし、玄関とお風呂場は近い。
今さらながら、こんな軽率な選択をした事を後悔した。
足音は近づいてくる。
どうしよう、
「まったく、なんで雨が……、って、えええええ!」
濡れたシャツを着た成歩堂さんが浴室のドアを開いた。
私は申し訳なさでいっぱいで、消えてしまいたくなった。
「ご、ごめんなさい、成歩堂さん! 勝手に入っちゃって……」
なんと説明したら良いか私には分からなかった。
だって、何を言っても言い訳がましくなりそうで。
成歩堂さんは真っ赤になって手で顔を隠して、
「ほ、ほんとに奈真恵ちゃん? それとも、ぼくの幻覚?」
と言った。
そこで私は自分が裸だということに気づいて赤面した。
お風呂に入っているのに、だらだらと汗が流れる。
「本当に私です……。幻覚じゃないです。あの、勝手に入った挙句、お風呂まで借りてしまってごめんなさい」
「ベツにそれはいいんだけど! あ、」
顔を覆っていた手が離れて、成歩堂さんとバッチリ目が合う。
そして、すぐ顔を逸らされた。
「み、見ましたか?」
「み、み、み、み、見てない! 安心して!」
全然安心できない。
私と目を合わせないまま、彼は口を開く。
「どうして、奈真恵ちゃんがここに来てくれたのか聞いてもいいかな」
「……傘を持ってなくて、雨宿りをさせてもらいたくて来ちゃいました。本当にごめんなさい」
「あー、きみも? ぼくも雨に濡れてさ……。雨が降るなんて思わなかったよね。ああそうだ、タオルとか持ってこないとだからちょっと待っててくれるかい?」
成歩堂さんが脱衣所から出ていく。
どうやら許してくれたみたいだ。
ほっと息をつく。
それにしても、成歩堂さんはあんな風に取り乱したりする人だっただろうか。
法廷では確かに騒いでいるけれど、普段はもっと落ち着いていて、いつも余裕のある大人の男性というイメージだったのだが……。
「おまたせ。はい、これ使ってね。あと着替えは……。うん、無いや。ごめん。何か貸せるものがないか探してくるから、もう少し浸かってて」
私がお風呂から上がる前に、成歩堂さんは慌ただしく脱衣所を出て行った。
彼が戻ってくるまでに、私は体を拭き終える。
もう少し浸かっていてもいいと言われたけれど、やっぱり申し訳なくなってしまったから。
「はい、これ着ておいて。多分サイズは大丈夫だと思うけど……」
ちょうど戻ってた成歩堂さんからTシャツを受け取る。
袖と裾がかなり余ってしまった。
これはいわゆる彼シャツというやつだろうか。
成歩堂さんの匂いがして、なんだか照れてしまう。
「ありがとうございます……。ごめんなさい、色々とお世話をかけてしまって」
「ううん。ぼくの方こそゴメン。まさか、その……お風呂に入ってるなんて思ってなかったからさ。もっと早く帰ってきてれば良かったよ」
「いえ、私が悪いんです。お風呂まで借りてしまって……」
「気にしないで。むしろ、嬉しいっていうか……」
「えっ!?」
思わず声を上げて驚く。
成歩堂さんはしまった、というように口を塞いで、視線を泳がせた。
「ちがうちがう! そんなヘンな意味じゃなくって!」
成歩堂さんの耳が赤い。
私もつられて顔に熱が集まる。
何だか変な雰囲気になってしまった。
「遠慮がちなきみが家にあがってくれて嬉しいとか、ぼくの服を着てくれて嬉しいとかそういう意味で……。いや、こっちも恥ずかしいな……」
成歩堂さんは両手で頬を抑えて俯いた。
なんだか可愛らしく見えてきて、私は微笑む。
「ふふ。成歩堂さん、可愛いですね」
「な、なんだよ。それ」
「そのまんまですよ」
「奈真恵ちゃんの方がカワイイよ」
突然の褒め言葉に心臓が跳ねた。
今度は私が酷く赤面する番だった。
「え、あ、はい……?」
「照れてる? かわいいなぁ」
成歩堂さんが私の頭を撫でた。
大きな手だ。暖かくて優しい手にドキドキする。
私は成歩堂さんの顔を見上げた。
彼の瞳の中に、私がいる。
それだけで、胸がいっぱいになった。
「あの……」
「ん? なんだい?」
「……キスしてもいいですか?」
「……いいよ」
成歩堂さんの手が後頭部に回る。
私はそっと目を閉じた。唇に柔らかい感触。
雨の音だけが響く中、私たちは何度も角度を変えて口づけを交わしていた。
「……ぼくもしたいなって思っていたんだ」
「そうなんですね」
「うん」
「私達、同じことを考えてたんですね」
「そうだね」
もう一度、成歩堂さんと目が合った。
今度は私から口付ける。
その日は甘い雨の日だった。
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