高専卒業後のお話
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「実は、卒業後は呪術師の道ではなく、藤花先輩のように一般人としての道を進もうかと思っていまして」
「そっか…」
何となく、七海の言いたいことはわかるよ
私も丁度1年前、同じことを思っていたから…
「ずっと、心のどこかで考えていたんです。本当に私に呪術師が務まるのかと」
視線を手元のカップに落とし、七海が語り始める
「呪術師は常に死と隣り合わせ。明日命が有る保証なんてない。ずっとわかっていたはずなんです。ですが…」
七海の翠眼が私を映す
その眼が、揺れているように見えたのは、多分気の所為じゃない
「昨年の、土地神・産土神信仰の任務をきっかけに、このまま呪術師の道へ進むか否か考えるようになったんです」
土地神・産土神信仰……
昨年に起こった、灰原が死にかけた任務だ
たまたま近くで任務のあった私に連絡が入り、助っ人に行ったときには既に2人ともボロボロ
灰原に関しては呪霊の攻撃をモロに受けていた
それもそのはず、2級呪霊の討伐のはずが、目の前に居たのは1級相当の土地神
助っ人に行った私でさえ準一級なんだから、2人はよく耐えたと思う
恐らく、灰原に致命傷となる攻撃が放たれた瞬間に帳内に到着した私
1秒遅ければ、灰原は死んでいた
その後は灰原に離脱を促し、七海にも引くように頼んで、なんとか祓えたんだけど、私も重症負っちゃって、後で灰原に泣かれちゃったんだよね
七海も涙目だったし、感謝言われつつもいくら助っ人だからって無茶するなって怒られたんだよね
あんな感情丸出しな七海は後にも先にもあの時だけだったな
「あの時、先輩が来てくれなかったら灰原は死んでいました。下手したら私も死んでいたかもしれません」
「うん」
「感謝してます。こうやって進路を考え直すきっかけを与えてくれたことにも感謝します。ですが…あの時の無茶は、まだ許せません。」
「ゴメンね、心配させちゃって…」
あの時程ではないが、七海が顔を顰めて私を咎める
でも、アレは私にとっても進路を変えたきっかけの1つだった
だから、私は七海に何か与えたわけじゃないんだよ…
「でも、同時に…
“呪術師は死と隣り合わせ”
その意味を初めて理解出来た気がしたんです」
「うん」
わかる…
私も一緒だった
「ずっとわかっていた筈でした。いつ死ぬかわからない。呪術師に未来はない。でも、いざ目の前にすると…
何も、わかっていなかったんです」
「…そんなこと、ないと思うよ」
七海の翠眼が見開かれる
口元も、半開き
七海らしくない、間抜けた表情だ
「何もわかっていなかった、なんてことはないと思うよ。七海の気持ちは凄くわかる。でも…
本当にわかってなかったら、七海はあの時死んでたんじゃないかな」
「ですが…」
「確かに、危機を目の前にして初めて、呪術師の残酷さを理解できたんじゃないかとは思うよ。でも、あの時、呪術師が死と隣り合わせなことをわかっていなかったら、応援を呼ぼうとか、離脱しようとか言う判断すら、出来ないんじゃないかな?」
七海はあの時、私が到着したときには離脱の準備が出来ていた
だからすぐに灰原を避難させられたし、七海も外へ出て、直ぐに硝子に連絡を入れてくれた
だから私は重症を負ってもなんとか助かったし、誰一人欠けず帰ってこれた
私のお陰、なんて言ってるけど、私はあの任務のMVPは七海だって思ってる
「それに七海はいつも冷静に立ち回ることができる。それは呪術師にとって、とっても大切なことだよ」
「……」
七海のアイスコーヒーが、カランっと音を立てる
まるで、この静寂さを表すように
七海、黙っちゃった。
俯いてしまっている七海の表情はわからない
でもきっと複雑なんだろうな
上手く言葉に表せなくて、喉の奥で引っかかってる感じ
かつての自分と重なる
七海は私と似てる
でも…
「だからってね、無理に呪術師を続けろなんて私は言わないよ。呪術師にしろ、一般人としての道を進むにしろ、私は七海の選んだ道を応援する」
ゆっくり七海の顔が上がる
そこにあったのは、やっぱりかつての私と同じ瞳
「私はね、七海も知ってる通り、家が呪術師の家系であるけど、五条みたいに御三家じゃないし、本当にただの呪術の家系であるだけだからさ、比較的周りの理解もあって、どの道に進むこともできた」
我ながら、環境に恵まれていると思う
呪術師の家系であるものの、父親は呪術なんて全く知らない非術師だし、お母さんもゆるゆると呪術師をしていたけれど、結婚して引退した
私に呪術を教えてくれたのはおばあちゃんだし、高専への手続きをしてくれたのもおばあちゃん
おじいちゃんは、私が生まれるより前に死んじゃったみたいだから、よく知らないけど、おばあちゃんからは、特級との健闘の末、命を落としたって
でも、そんなおじいちゃんをおばあちゃんは誇りだって言ってた
それもあって、なのかな
一昨日の冬、帰省したときに、一般人として生きていく道を自ら提案してきたおばあちゃん
正直、びっくりした
直々に呪術を教えてくれたおばあちゃんがそう言うなんて
呪術師じゃない道を、指してくれるなんて…
「でも、逆にそれが迷いを生んだんだよね。結局、一度大学へ進学して、一般社会を経験してみて、4年後にはっきり決めるってことにした」
だから、私はまだ迷ってる
まだ呪術師じゃなくなって3ヶ月ぐらいしか経ってないけど、日々を過ごせば過ごすほど、揺れていく
「…先輩は、この3ヶ月と少し、一般人として過ごしてみてどうでしたか?」
少し控えめに、でもさっきよりも翠眼に光を宿して七海が訪ねる
「まぁ、命の危険はないよね。よっぽどのことがない限り、安全性の高い世界。なんだか異国の地に来たみたいな感覚が今でもする」
「異国…」
「何より、見えるものが見えない世界。呪霊を祓えない今、呪霊を目撃しても、私に出来ることはない。見て見ぬふりしてるみたいで、どこか罪悪感がある」
危険性の少ない呪霊だったとしても、今の私には見て見ぬふりをすることしかできなくて、それに罪悪感が拭えない
祓う術はあるのに、祓えない
それは、思春期女子にありがちな虐めのようなもの
辞めさせようと思えばできるのに
祓おうと思えば祓えるのに
結局、何もできない
自分の視界に入れないようにすることしかできない
今の私は、一般人だから
呪術界の人達とそう約束したから…
「でも、良いことも沢山あるよ。大学の課題にヒーヒー言って友達と助け合って、ここでバイトもして、飲み会で馬鹿騒ぎもしたりして…いい経験だなって思える」
グルっと店内を見渡す
すっかり慣れたここの空気
いい匂いにつられて入ってくるお客さん
人当たりの良い店長
私が手間取っていると、やな顔一つせず助けてくれる先輩
何より、こじんまりとはしてるけど、安らかな気持ちになれるこの雰囲気が私は好きだ
「カスクート、どうだった?」
七海のお皿に目を向ける
空になったそこはカス1つなく綺麗だった
「とっても美味しかったです。今まで私が食べてきた中で1番」
目を細め、口角を上げる七海
それは、七海の今日1の表情だった
「よかった」
カスクートでも、進路の話でもなんでもいいからさ
少しでも七海の力になれてたら良いな
「少し、自分の中で道が開けた気がしました。ありがとうございます」
「私は大した話をしてないよ。なんだか自分語りばっかりしてた気分」
「例えそうだとしても、五条や夏油さんの自分語りよりタメになりましたよ」
晴れやかな表情した七海が言う
七海がそう言うなら、良かった
「またいつでも相談乗るからね」
「ありがとうございます」
七海の翠眼には、もう曇りはなかった
むしろ、太陽に照らされた海のようにキラキラと輝いているようにも見えた
可愛い後輩のそんな姿にこっちまでクスッと笑みが溢れる
カラッとした夏の空気が、私達の間を通り抜けていくような気がした
まるで、纏わりついたものを取り祓うように…
「そっか…」
何となく、七海の言いたいことはわかるよ
私も丁度1年前、同じことを思っていたから…
「ずっと、心のどこかで考えていたんです。本当に私に呪術師が務まるのかと」
視線を手元のカップに落とし、七海が語り始める
「呪術師は常に死と隣り合わせ。明日命が有る保証なんてない。ずっとわかっていたはずなんです。ですが…」
七海の翠眼が私を映す
その眼が、揺れているように見えたのは、多分気の所為じゃない
「昨年の、土地神・産土神信仰の任務をきっかけに、このまま呪術師の道へ進むか否か考えるようになったんです」
土地神・産土神信仰……
昨年に起こった、灰原が死にかけた任務だ
たまたま近くで任務のあった私に連絡が入り、助っ人に行ったときには既に2人ともボロボロ
灰原に関しては呪霊の攻撃をモロに受けていた
それもそのはず、2級呪霊の討伐のはずが、目の前に居たのは1級相当の土地神
助っ人に行った私でさえ準一級なんだから、2人はよく耐えたと思う
恐らく、灰原に致命傷となる攻撃が放たれた瞬間に帳内に到着した私
1秒遅ければ、灰原は死んでいた
その後は灰原に離脱を促し、七海にも引くように頼んで、なんとか祓えたんだけど、私も重症負っちゃって、後で灰原に泣かれちゃったんだよね
七海も涙目だったし、感謝言われつつもいくら助っ人だからって無茶するなって怒られたんだよね
あんな感情丸出しな七海は後にも先にもあの時だけだったな
「あの時、先輩が来てくれなかったら灰原は死んでいました。下手したら私も死んでいたかもしれません」
「うん」
「感謝してます。こうやって進路を考え直すきっかけを与えてくれたことにも感謝します。ですが…あの時の無茶は、まだ許せません。」
「ゴメンね、心配させちゃって…」
あの時程ではないが、七海が顔を顰めて私を咎める
でも、アレは私にとっても進路を変えたきっかけの1つだった
だから、私は七海に何か与えたわけじゃないんだよ…
「でも、同時に…
“呪術師は死と隣り合わせ”
その意味を初めて理解出来た気がしたんです」
「うん」
わかる…
私も一緒だった
「ずっとわかっていた筈でした。いつ死ぬかわからない。呪術師に未来はない。でも、いざ目の前にすると…
何も、わかっていなかったんです」
「…そんなこと、ないと思うよ」
七海の翠眼が見開かれる
口元も、半開き
七海らしくない、間抜けた表情だ
「何もわかっていなかった、なんてことはないと思うよ。七海の気持ちは凄くわかる。でも…
本当にわかってなかったら、七海はあの時死んでたんじゃないかな」
「ですが…」
「確かに、危機を目の前にして初めて、呪術師の残酷さを理解できたんじゃないかとは思うよ。でも、あの時、呪術師が死と隣り合わせなことをわかっていなかったら、応援を呼ぼうとか、離脱しようとか言う判断すら、出来ないんじゃないかな?」
七海はあの時、私が到着したときには離脱の準備が出来ていた
だからすぐに灰原を避難させられたし、七海も外へ出て、直ぐに硝子に連絡を入れてくれた
だから私は重症を負ってもなんとか助かったし、誰一人欠けず帰ってこれた
私のお陰、なんて言ってるけど、私はあの任務のMVPは七海だって思ってる
「それに七海はいつも冷静に立ち回ることができる。それは呪術師にとって、とっても大切なことだよ」
「……」
七海のアイスコーヒーが、カランっと音を立てる
まるで、この静寂さを表すように
七海、黙っちゃった。
俯いてしまっている七海の表情はわからない
でもきっと複雑なんだろうな
上手く言葉に表せなくて、喉の奥で引っかかってる感じ
かつての自分と重なる
七海は私と似てる
でも…
「だからってね、無理に呪術師を続けろなんて私は言わないよ。呪術師にしろ、一般人としての道を進むにしろ、私は七海の選んだ道を応援する」
ゆっくり七海の顔が上がる
そこにあったのは、やっぱりかつての私と同じ瞳
「私はね、七海も知ってる通り、家が呪術師の家系であるけど、五条みたいに御三家じゃないし、本当にただの呪術の家系であるだけだからさ、比較的周りの理解もあって、どの道に進むこともできた」
我ながら、環境に恵まれていると思う
呪術師の家系であるものの、父親は呪術なんて全く知らない非術師だし、お母さんもゆるゆると呪術師をしていたけれど、結婚して引退した
私に呪術を教えてくれたのはおばあちゃんだし、高専への手続きをしてくれたのもおばあちゃん
おじいちゃんは、私が生まれるより前に死んじゃったみたいだから、よく知らないけど、おばあちゃんからは、特級との健闘の末、命を落としたって
でも、そんなおじいちゃんをおばあちゃんは誇りだって言ってた
それもあって、なのかな
一昨日の冬、帰省したときに、一般人として生きていく道を自ら提案してきたおばあちゃん
正直、びっくりした
直々に呪術を教えてくれたおばあちゃんがそう言うなんて
呪術師じゃない道を、指してくれるなんて…
「でも、逆にそれが迷いを生んだんだよね。結局、一度大学へ進学して、一般社会を経験してみて、4年後にはっきり決めるってことにした」
だから、私はまだ迷ってる
まだ呪術師じゃなくなって3ヶ月ぐらいしか経ってないけど、日々を過ごせば過ごすほど、揺れていく
「…先輩は、この3ヶ月と少し、一般人として過ごしてみてどうでしたか?」
少し控えめに、でもさっきよりも翠眼に光を宿して七海が訪ねる
「まぁ、命の危険はないよね。よっぽどのことがない限り、安全性の高い世界。なんだか異国の地に来たみたいな感覚が今でもする」
「異国…」
「何より、見えるものが見えない世界。呪霊を祓えない今、呪霊を目撃しても、私に出来ることはない。見て見ぬふりしてるみたいで、どこか罪悪感がある」
危険性の少ない呪霊だったとしても、今の私には見て見ぬふりをすることしかできなくて、それに罪悪感が拭えない
祓う術はあるのに、祓えない
それは、思春期女子にありがちな虐めのようなもの
辞めさせようと思えばできるのに
祓おうと思えば祓えるのに
結局、何もできない
自分の視界に入れないようにすることしかできない
今の私は、一般人だから
呪術界の人達とそう約束したから…
「でも、良いことも沢山あるよ。大学の課題にヒーヒー言って友達と助け合って、ここでバイトもして、飲み会で馬鹿騒ぎもしたりして…いい経験だなって思える」
グルっと店内を見渡す
すっかり慣れたここの空気
いい匂いにつられて入ってくるお客さん
人当たりの良い店長
私が手間取っていると、やな顔一つせず助けてくれる先輩
何より、こじんまりとはしてるけど、安らかな気持ちになれるこの雰囲気が私は好きだ
「カスクート、どうだった?」
七海のお皿に目を向ける
空になったそこはカス1つなく綺麗だった
「とっても美味しかったです。今まで私が食べてきた中で1番」
目を細め、口角を上げる七海
それは、七海の今日1の表情だった
「よかった」
カスクートでも、進路の話でもなんでもいいからさ
少しでも七海の力になれてたら良いな
「少し、自分の中で道が開けた気がしました。ありがとうございます」
「私は大した話をしてないよ。なんだか自分語りばっかりしてた気分」
「例えそうだとしても、五条や夏油さんの自分語りよりタメになりましたよ」
晴れやかな表情した七海が言う
七海がそう言うなら、良かった
「またいつでも相談乗るからね」
「ありがとうございます」
七海の翠眼には、もう曇りはなかった
むしろ、太陽に照らされた海のようにキラキラと輝いているようにも見えた
可愛い後輩のそんな姿にこっちまでクスッと笑みが溢れる
カラッとした夏の空気が、私達の間を通り抜けていくような気がした
まるで、纏わりついたものを取り祓うように…