短編
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土曜日の午後。開けられた窓から迫田武文の部屋に心地よい風が入ってくる。普段の喧騒が嘘のように穏やかである。
そんな部屋の主に呼び出された夢野。これといった予定もなく二つ返事で遊びに来たのだ。最初こそ会話をしていたが段々と口数も減り、迫田は自身のベッドに寝転びながら雑誌を読み、夢野はベッドを背もたれにして床に座って、その辺に積まれていた漫画を漁った。
パラパラとページを捲る音、小さな息遣い。たまに欠伸の声。
喉が渇いた夢野はテーブルに置かれたオレンジジュースを飲んで一息つく。腕をぐぐっと上に伸ばせば、固まってしまっていた背中の骨が鳴った。
迫田はどうしているのだろうと気になり振り返ると彼はまだ雑誌に夢中になっていた。
何となく派手な半袖の柄シャツから伸びている迫田の腕を見る。喧嘩した時に出来たであろう擦り傷があった。
夢野はそれを視線でなぞると、無造作にさらされた左腕に爪を立てた。
「いって!」
痛みから逃れるために小さく飛び退いた迫田の姿がおかしくて笑い声を上げれば、こつりと頭を小突かれた。
「何すんだ」
「やっぱり痛かった?」
「当たり前だろ!」
――いつもあんなに喧嘩して怪我してくるくせに?
その疑問を口には出さず、夢野は食い込んで出来た爪の跡をまじまじと眺めた。出来たばかりの後は少しだけ赤らんでいる。
「本当に?」
「嘘ついてどうすんだよ」
もう一度、夢野が爪を立てようとすれば流石にその動きは迫田にバレバレだったようで空いていた右腕で阻まれた。
「喧嘩なら買うぞ」
「違います〜」
「なら、何だよ」
「……解かんない」
「んだそりゃ」
迫田は体を起こし、何も答えようとしないまま俯いた夢野の両脇を掴み、ベッドへと引き上げた。二人分の体重でベッドが小さく軋んだ。
「急に持ち上げないでよ!」
「葵こそ急に爪立てたんだから、おあいこだろうが!」
むくれる夢野を迫田は丸め込むように抱き締めた。
「苦しい」
「構ってやってんだよ」
「別に寂しくてやったんじゃないんだけど」
「へいへい」
「信じてないでしょ!」
バタバタと暴れてみたが、体格差もあって迫田が動じる事はなく、抱き締める腕が解かれる事はなかった。
もう疲れたと夢野は暴れるのを止め、腰を浮かせてベストポジションを探ると座り直した。その様子に満足した迫田が笑う声が頭上から聞こえる。
「ムカつく」
「おいコラ彼氏が甘やかしてやってんだぞ」
「顔に似合ってない」
「殴るぞ」
「どうぞ?」
やれるもんならやってみろと夢野は迫田を見上げた。
こうして言い合いはした事はあったが、迫田は一度も手を上げてきた事はない。その確信があったからこそ夢野は余裕を持って挑発した。
「殴らないの?」
「……あほ」
「ぎゃあ!」
迫田はガブリと夢野の鼻を噛んだのだ。
咄嗟の事に驚いた夢野は反撃としてビンタをおみまいしてやった。
「なにすんの!ばか!」
「油断してたからな」
「もー!跡ついてないよね!?」
「さぁな?」
「……鏡見てくる!」
夢野は立ち上がろうとしたが、背中にガッチリと腕が回されたままだ。
もう一度立ち上がろうとすれば、さらに力が込められる。
「離してよ」
「ダメだ」
「誰かさんのせいで跡ついたかもしれないから確認したいの!!」
「ついてるぞ」
「嘘!?」
慌てて鼻を触ってみるが、よく解らなかった。
「何て事してくれんの乙女の顔に」
「すぐ消えるだろ」
あっけらかんとする迫田を睨んでみるが、効果はないらしい。迫田もそうだが、周りには強面の部類に入る迫田に負けないくらいの人達が居るのだから夢野の睨みなど可愛いものだからだ。
「まーだから、あれだ」
「なに」
「治るまでこのままだな」
ニッと凶悪そうな顔で笑う迫田に夢野は腹が立ちながらも「そうする」と迫田の背中に手を回すのだった。
そんな部屋の主に呼び出された夢野。これといった予定もなく二つ返事で遊びに来たのだ。最初こそ会話をしていたが段々と口数も減り、迫田は自身のベッドに寝転びながら雑誌を読み、夢野はベッドを背もたれにして床に座って、その辺に積まれていた漫画を漁った。
パラパラとページを捲る音、小さな息遣い。たまに欠伸の声。
喉が渇いた夢野はテーブルに置かれたオレンジジュースを飲んで一息つく。腕をぐぐっと上に伸ばせば、固まってしまっていた背中の骨が鳴った。
迫田はどうしているのだろうと気になり振り返ると彼はまだ雑誌に夢中になっていた。
何となく派手な半袖の柄シャツから伸びている迫田の腕を見る。喧嘩した時に出来たであろう擦り傷があった。
夢野はそれを視線でなぞると、無造作にさらされた左腕に爪を立てた。
「いって!」
痛みから逃れるために小さく飛び退いた迫田の姿がおかしくて笑い声を上げれば、こつりと頭を小突かれた。
「何すんだ」
「やっぱり痛かった?」
「当たり前だろ!」
――いつもあんなに喧嘩して怪我してくるくせに?
その疑問を口には出さず、夢野は食い込んで出来た爪の跡をまじまじと眺めた。出来たばかりの後は少しだけ赤らんでいる。
「本当に?」
「嘘ついてどうすんだよ」
もう一度、夢野が爪を立てようとすれば流石にその動きは迫田にバレバレだったようで空いていた右腕で阻まれた。
「喧嘩なら買うぞ」
「違います〜」
「なら、何だよ」
「……解かんない」
「んだそりゃ」
迫田は体を起こし、何も答えようとしないまま俯いた夢野の両脇を掴み、ベッドへと引き上げた。二人分の体重でベッドが小さく軋んだ。
「急に持ち上げないでよ!」
「葵こそ急に爪立てたんだから、おあいこだろうが!」
むくれる夢野を迫田は丸め込むように抱き締めた。
「苦しい」
「構ってやってんだよ」
「別に寂しくてやったんじゃないんだけど」
「へいへい」
「信じてないでしょ!」
バタバタと暴れてみたが、体格差もあって迫田が動じる事はなく、抱き締める腕が解かれる事はなかった。
もう疲れたと夢野は暴れるのを止め、腰を浮かせてベストポジションを探ると座り直した。その様子に満足した迫田が笑う声が頭上から聞こえる。
「ムカつく」
「おいコラ彼氏が甘やかしてやってんだぞ」
「顔に似合ってない」
「殴るぞ」
「どうぞ?」
やれるもんならやってみろと夢野は迫田を見上げた。
こうして言い合いはした事はあったが、迫田は一度も手を上げてきた事はない。その確信があったからこそ夢野は余裕を持って挑発した。
「殴らないの?」
「……あほ」
「ぎゃあ!」
迫田はガブリと夢野の鼻を噛んだのだ。
咄嗟の事に驚いた夢野は反撃としてビンタをおみまいしてやった。
「なにすんの!ばか!」
「油断してたからな」
「もー!跡ついてないよね!?」
「さぁな?」
「……鏡見てくる!」
夢野は立ち上がろうとしたが、背中にガッチリと腕が回されたままだ。
もう一度立ち上がろうとすれば、さらに力が込められる。
「離してよ」
「ダメだ」
「誰かさんのせいで跡ついたかもしれないから確認したいの!!」
「ついてるぞ」
「嘘!?」
慌てて鼻を触ってみるが、よく解らなかった。
「何て事してくれんの乙女の顔に」
「すぐ消えるだろ」
あっけらかんとする迫田を睨んでみるが、効果はないらしい。迫田もそうだが、周りには強面の部類に入る迫田に負けないくらいの人達が居るのだから夢野の睨みなど可愛いものだからだ。
「まーだから、あれだ」
「なに」
「治るまでこのままだな」
ニッと凶悪そうな顔で笑う迫田に夢野は腹が立ちながらも「そうする」と迫田の背中に手を回すのだった。
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