第14話
お名前は?
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『はぁ…足取りが重たい…』
2日後、私は再び1階の開発工房へと足を運んでいた。
何だかんだであの後、発目さんに色々データを取られて、"私がサポートアイテムを作りましょう!" と言って聞かなかった。
私はパワーローダー先生に相談したかったのだけれど、発目さんに強引に言いくるめられ、最終的に先生に許可をもらってから製作すると言うのを条件に承諾した。
『本当に大丈夫かなぁ…』
まだ消えない不安を胸に抱きながら、私は開発工房の扉前に到着した。
2日後には完成させるって言ってたけど、もう出来たのかな…?
この間の事もあるので、今度は警戒しながらゆっくり扉を開ける。
何も襲って来る気配がないのを確認してから、そっと顔を覗かせると、私の存在に気付いた発目さんが嬉しそうにコチラに顔を向けた。
「来ましたね、普通科の人!お待ちしていました!」
『あ、えっと…苗字です。ど、どんな感じになりましたか?』
「コチラになります!」
恐る恐る尋ねると、発目さんは用意していたであろう
"ソレ" を手にして、私の左腕へと装着してくれた。
『えっ…?可愛い!』
装着されたそれに目をやると、腕時計の形を模したデザインに、色分けされた羅針盤と方位磁針の様な物が備え付けられていた。
予想外のコンパクトさに驚く。そんな私の反応を発目さんは嬉しそうに眺めていた。
「フフフ、可愛いでしょう⁉︎ 分かりやすくシンプルに仕上げました!…名付けて、"ライフ・コンパス" !」
『ライフ・コンパス…?これ、どうやって使うの?』
「難しい小細工は一切いりません!個性を使用する際に、ただこのコンパスを確認すればいいのです!」
『この色分けにはどういう意味が?』
「ご説明します!まず、今は指針が青色を指していますね?それが通常の状態。言わば"セーフティゾーン" です!この状態であれば個性をいくら使って頂いても問題ありません」
『おぉ…!なるほど、分かりやすい!…じゃあこの黄色は?』
「それはセーフティ寄りの"グレーゾーン" になります。個性を使うには問題ありませんが、大きなエネルギーを使う際には注意して使用して下さい!」
大きなエネルギーか…。
そこは今後、自分で試しながらどの程度大丈夫なのか把握しないとかも…。
そして残された最後の色を見て、何となく察する。
『じゃあ、赤色はヤバいって事だよね…?』
「はい」
それまでニコニコ楽しそうに話していた発目さんは、
突然笑顔が消失してしまった。
普段陽気な人が無表情になると、何故こんなにも恐怖を感じるのか…。
「"デッドゾーン" です。もしその状態で大きなエネルギーを使ってしまえば、恐らく…」
『ーーそっか、分かった!凄く分かりやすいよ発目さん!ありがとうっ』
「……でしょう⁉︎ 私の可愛いベイビーです!何か不都合な点や改良したければ、いつでもいらして下さい!」
『うん!』
無表情だった顔に、再び笑顔が戻る。
あんなにも不気味に映っていた笑顔が、今は何だか頼もしく思えた。
『……これで私は、もっと自分を大切に出来るよ。発目さん、本当にありがとう』
「フフフ。クライアントの要望に応えるのが私達サポート科の役目なので!」
『かっこいい!』
ヒーロー科にサポート科…。
雄英って本当に凄い人達がたくさんいるんだなぁ…。
最後に発目さんにお礼を言って開発工房を出た所で、
後ろから「名前…?」と呼ぶ声がして振り返る。
『轟くん…⁉︎』
「何してんだ?こんな所で」
そこには、少し驚いた様子で私に近寄って来る轟くんの姿があった。
しかも見慣れた制服姿ではなく、ヒーローコスチュームに身を包んでいる。
以前も轟くんのコスチュームを見た事があったが、明らかにその時より見た目が進化していた。
『轟くんコスチューム変えたの⁉︎』
「えっ?……あぁ、そっか。"コッチ" で会うのは初めてだったな」
『うん!コッチも凄く似合ってるね!』
轟くんは興奮した私に少し戸惑い気味に返答すると、
何かを思い出したかの様に口を開く。
「そんな事より…お前今、工房から出て来なかったか?」
『えっ⁉︎ あぁ、うん…。出て来たね』
「何かあったのか?」
『えっと…』
ど、どうしよう…!
相澤先生からは、ヒーロー科編入はまだ決定事項じゃないから公にするなと言われてるんだけど…。
でも…別に正直に言わなくても、サポートアイテムはヒーロー科以外が持っていてもおかしくはないよね…?
少し考えた末、正直に話す事にした。
それに、轟くんにはこれ以上隠し事はしたくなかったから。
『…ほら、私の個性って使い過ぎると自身への負担が大きいでしょ?だから、自分の身を守るためにサポートアイテムを作ってもらおうと思って!これがあれば、もうみんなに心配かけなくて済むよね?』
今しがた発目さんに作ってもらったライフ・コンパスを見せながら話すと、轟くんはそれを不思議そうに見つめていた。
「これで個性の負担が減らせるのか?」
『うん!これがバロメーター的な役割になってて、これで自分の状態が確認できるの』
「すげぇな」
『本当すごいよね?だからもう大丈夫だよ』
そう言って笑うと、轟くんは柔和な笑みを浮かべた。
「そうか…。良かったな」
『うん!私もみんなが安心出来る救いのヒーローになれる様に頑張らなきゃーー』
言葉の続きは、轟くんが私の頭を優しく撫でた事で阻止された。
突然の行動に驚いて轟くんを見つめると、慈しむ様な眼差しで見つめ返される。
「名前は、もう十分頑張ってる」
『えっ…』
「お前のそう言う
『轟くん…』
静かにそう呟くと、轟くんは私の頭から手を下ろす。
「もうすぐ仮免取得があるんだ。だから今みんなで必殺技を編み出したり、コスチューム改良したりしてる」
『そうなんだね』
相澤先生から聞いていたけど、それは言わずに素直に頷く。
『じゃあ轟くんはコスチューム改良に?』
「あぁ」
そっかぁ。
A組のみんな頑張ってるんだなぁ…。
目指すべき人達でありライバルなんだけど、やっぱりみんなに受かって欲しい…!
『頑張ってね、轟くん!応援してるよ!』
「ありがとな」
私も早くみんなに追いつきたい!
そのためにはまず、与えられた課題をクリアしなくちゃ…!
手首に着けたライフ・コンパスを見つめ、グッと拳を握り締める。
新しく作ってもらったこのライフ・コンパスを活かして、上手く個性を扱えるようなって、そして…
ーー必ず、試験に合格してみせる!!
こうして、残りの時間私達はそれぞれ与えられた課題をクリアするために、日々鍛錬を繰り返して行った…。