第13話
お名前は?
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『…いきなり来てごめんね?なるべく早く直接お礼が言いたくて』
「何の礼だ?」
『相澤先生に聞いたの。私が敵に連れ去られそうになってた時に、轟くんが救けに来てくれたって…。本当にありがとう』
そう言って頭を下げるけど、何故か轟くんは渋い顔をしていた。
「……何で、奴等に狙われてた事、言ってくれなかったんだ?」
『…!』
轟くん、私が狙われていた事…どうして知ってるの⁉︎
「…心操から聞いた。ショッピングモールで死柄木に会ったんだろ?」
『!!』
まるで私の心の内を読んでいるかの様に、轟くんは静かに答える。
「幼馴染みなのに…俺なんかより、アイツの方がよっぽどお前を知ってる。アイツに言えて、俺に言えない理由って何だ?…俺は、そんなに頼りない男に見えるのか…?」
『そんなことないよ!私はただ、轟くんに心配かけたくなくて…!』
そう言うと轟くんは眉間にしわを寄せて、苦しそうな顔をする。
「いや…本当は分かってんだ。お前が誰にも迷惑かけたくない性格だってことは…。悪ィ…こんな責める様な言い方…」
『…轟くん…』
「アイツに言われたんだ…"コイツの事を何も知らない"って。その通りだった…俺は、昔のお前を知ってるだけで、"今"のお前を何も知らない……俺はただ、知ったつもりでいたんだ…。お前が今までどんな辛い経験をして来たかも知らずに…!」
『…えっ…?』
「親父から全部聞いたよ。お前が火事に巻き込まれた時のこと……そして、その影響で記憶障害を起こしちまったことも、全部…」
『ーーっ…!!』
エンデヴァーから全部…?
…じゃあ、エンデヴァーは私が火事に巻き込まれた時のこと、ちゃんと覚えててくれてたんだ…。
『そっか……私のことを…』
「お前は…過去にどんな辛い事があったとしても、いつも笑って過ごしていた。1度も弱音を吐かずに…自分より他人の幸せを喜ぶ。お前はそういう奴なんだ」
『…そんなこと…』
「そんな優しいお前だから、きっと誰にも言わずに、辛い事も全部1人で背負い込んで来たんだろ?俺にもずっと黙って…」
『…っ…』
「今まで気付いてやれなくてごめん…。けど、これからはもっと俺を頼ってくれ。1人で全部抱え込むな。お前は…全部1人で背負い込み過ぎだから…」
『…轟くん…っ』
優しい轟くんの言葉が、胸に染み渡る。
今まで胸の内に秘めていた思いを全て、あたたかい温もりで包み込まれていく様な感覚だった。
私は溢れそうな涙をグッと堪えて、何とか笑顔を作って見せた。
『…ありがとう。これからは、もう少し周りに頼る努力をするよ…!』
「あぁ…頼む」
轟くんは私の言葉に安心したように頷く。
そして、真っ直ぐ私の目を見据えた。
「他に俺に言ってない事……もうないよな?」
『うん、もうーー』
"君の命が危なくなるよ"
『ーー!!』
一瞬、脳裏で病院の先生に言われた言葉がフラッシュバックする。
ようやく落ち着いていた心臓の鼓動が、またバクバクと鳴り響く。じわりと嫌な汗が滲み出た。
「…名前?どうしたんだ?」
『…!』
「顔色悪いぞ…?」
私の様子に気付いた轟くんが、心配そうに顔を覗き込んでくる。
『あ…、わ、私…』
「?」
喉元がキュッと締められてるみたいに、言葉が中々出て来ない。
言わなきゃ…。
轟くんにたった今、言われたじゃないか…!
1人で抱え込むなってーー…!
『私の…個性は…っ…』
不安気な轟くんの瞳が私を映す。
その瞳に映る私は、一体どんな顔をしているんだろう…。
『本当は…使い過ぎるとーーー
……ちょっと体に負担がかかって、動けなくなっちゃうんだ。だから気を付けてってお医者さんに言われちゃって…』
「そうなのか。じゃあこれからは使い過ぎに注意しねぇといけねぇな」
『……うん。そうだね』
言えない…言えないよ…!
ごめん、轟くん…。
やっぱり私、怖いよ…。
私を大切に思ってくれるあなただから、本当の事を言えば、私以上に悲しむ顔をするのが分かるから…。
ーーこの秘密だけは、誰にも教えられない。