第13話
お名前は?
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私は悔しそうに歯を食いしばる飯田くんの手を、両手で包み込む様にそっと握った。
飯田くんはピクリと肩を揺らすと、目を見開きながら驚いた様子で私を見つめる。
その視線に応えるように、私は優しく微笑んだ。
『大丈夫。私はここにいるよ。…こうして飯田くんやみんなにまた会えた。だから、もう自分を責めるのはやめて欲しい。私もこれからは自分をもっと大切にする。
みんなに心配かけないようにちゃんとするから……!
だからーー』
握った飯田くんの手に力を籠める。
私の言葉が、ちゃんと届くように願いを込めて…。
『今度は同じ過ちを繰り返さないように、一緒に強くなろう…! そしたらもう、誰も傷つかないから』
「…苗字くん…っ」
飯田くんは一瞬泣きそうな顔をすると、グッと堪えるように唇を噛み締め、今度は飯田くんから私の手を両手でギュッと握り返してくれた。
「あぁ…!俺はもう間違えない。誰も傷付けないように、正しくみんなを導いて行けるヒーローになるさ!」
『うん…!』
さっきまでの暗い表情とは打って変わって、明るく生き生きした表情でそう答える飯田くんに嬉しくなり、胸が熱くなった。
飯田くんならきっと、
みんなを引っ張って行けるヒーローになれるよ…!
「おぉ…!熱いなおめーら!俺好きだぜそーいうの!
一緒に頑張って行こうな、2人共ッ!」
「確かに感動する場面だったんだろうけどさ……この場に轟が居なくて正解だったな」
「あんな自然に触れて胸アツな事言われりゃ、誰だって好きになっちまうだろ!さすが轟を落としただけあるな…高等テクニック過ぎるぜ…!」
『えっ⁉︎ ち、違ッ…!そういうんじゃないから!』
峰田くんが何か変な誤解をしてるのを慌てて否定する。
けど、今の発言で目的を思い出した。
『あの、轟くんって今どこに…?』
「轟くんなら、さっき自分の部屋に戻ったよ。多分まだ起きてるとは思うけど…」
『そうなんだ!ちなみに部屋って何階かな?』
「確か、5階だったはずだよ」
『5階だね。ありがとう緑谷くん!』
お礼を言ってエレベーターに向かおうとすると、後ろから切島くんが近付いて来るのに気付いて顔を向ける。
『どうしたの?』
「…苗字、今から轟のとこ行くのか?」
『うん。そうだよ?』
「そっか、あんがとな。アイツ、スゲェおめーの事心配してたからよ……顔見せたら絶対ェ喜ぶと思う」
『切島くん…』
「呼び止めてワリィー。じゃあ行ってやってくれ!」
『うん!』
……本当A組のみんなって、友達思いの優しい人ばかりだなぁ…。
あったかい気持ちに包まれながら、私は轟くんの部屋へと向かった…。
『轟くんの部屋は……あっ、ここだ!』
5階まで行き順番に部屋を見て回ると、"轟"と書かれた表札を見つけた。
な、何か急に緊張して来た…!!
扉の前に立ちノックしようとした瞬間、急に心臓がバクバク波打つ。
自分でも何でこんなに緊張してるのか分からないまま、勇気を振り絞って扉をノックした。
ーーコンコン。
「…はい」
『!!』
久しぶりに聞く轟くんの声に、またドキンッと胸が高鳴る。
そう言えば私、合宿の途中から轟くんと気まずくなって全然話してなかったんだ…!
ど、どうしよう⁉︎
いきなり来ちゃったけど、もしまだ怒ってたらーー。
ーーガチャ…。
『…!』
ゆっくり開かれた扉の向こうには、目を見開いたまま動かない轟くんがいた。
「……」
『あっ、こ…こんばんは』
「……」
ーーあれ……?
や、やっぱりまだ怒ってたッ⁉︎
反応のない轟くんにどうしようか焦っていると、ふいに腕を強く引っ張られる。
そのままバランスを崩して倒れ込む私を、轟くんの胸が受け止めると、後頭部と背中に腕がまわされ、ギュッと息が止まる程強く抱きしめられた。
ーーえっ…?
ーー私…今、轟くんに抱きしめられてる…!⁉︎
頬に轟くんの胸が当たっているせいで、布越しに伝わる轟くんの温もりと、少し速い胸の鼓動が伝わってくる。
私は急な展開に頭が真っ白になっていた。
「名前…」
『ーーっ…!!』
轟くんの少し低い艶っぽい声が耳元に響いて、私の胸の鼓動はどんどん加速して行く。
「良かった…。ずっと、お前の声が聞きたくて……
俺は…っ」
『と…どろき…くん……』
絞り出すように声を出すと、少し腕の力が緩められた。
「悪ィ、苦しかったか…?」
『…う、うん…ちょっとだけ…』
轟くんは私の肩を掴みながら少し引き離すと、申し訳なさそうな顔をする。
「まさかお前がいると思わなくて……けど、元気そうなお前の顔見たらホッとして、気持ちを抑えられなかった…悪ィ」
『う、ううん…。大丈夫…!』
本当は全然大丈夫じゃないんだけど、何故か変に強がってしまう。
何だかんだで今までも抱きしめられる場面はあったけど、やっぱり何度されてもこれは慣れない…。
けど良かった…。
轟くん、怒ってたわけじゃなかったんだ…。