第12話
お名前は?
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目を開くと、見慣れない天井に、ほんのり薬液臭い匂いが鼻を掠めた。
ここは…病院…?
私、まだ夢から覚めてないのか…。
ふと顔を横に向けると、ベッド横にある椅子に座ってコチラを見つめる見知った顔と目が合った。
「お、ようやく目が覚めたか」
『…相澤先生…?…えっ、何で私の夢にいるんですか?』
「まだ寝ぼけてんのか。ここは現実世界だ」
『えっ…?』
言われてようやく意識が鮮明になる。
そして状況が全く飲み込めず、私は困惑の眼差しで相澤先生を見つめた。
『あの、何で私は病院に…?合宿はどうなったんですか?』
「合宿中、敵に襲われたのは覚えてるな?お前はその連中に
『…敵に…』
ーー瞬間、継ぎ接ぎ男の嘲笑う顔が脳裏をよぎった。
…そうだ!
私、みんなを救けようとして、
森の奥に1人で行ったんだ。
そこで、あの男にーー…。
私はガバリと上半身を起こし、相澤先生に詰め寄る。
『轟くんが救けてくれたんですか⁉︎…みんなは…、他のみんなは無事ですかッ⁉︎』
私の言葉に、相澤先生は呆れたように溜め息を吐いた。
「お前以外もうみんな退院してるよ。お前が眠っていた間、コッチも色々大変だったんだぞ…知らんと思うが」
『そうなんですか…?』
けど良かった…。
みんな無事だったんだ…。
……轟くん、私の事救けに来てくれてたんだ。
心配かけただろうな…後でお礼言わなきゃ。
ほっと一安心していると、相澤先生は少し怒ったような顔を私に向ける。
「全員無事なのは大変喜ばしい事だが……俺はお前に教師として叱らなきゃならない」
『えっ…?』
「……何故、勝手な行動をした」
『!』
声の低さや、その口調から、相澤先生から静かな怒りが伝わって来る…。
これは…相当なお怒りだ…。
「しかもお前は元々連合の連中に狙われていたハズだ。分かっていながら、何で自ら危険な場所に突っ込んで行く?それは自殺行為になると思わなかったか?」
『で、でもっ…、あの時はみんなを救けなきゃって気持ちが上回っててーー』
「じゃあ、もしあのまま連合に連れ去られていたらどうしてた?お前の身勝手な行動で誰かに負担が掛かり、その結果誰かが傷付く事になったらお前はどう思う?それでも自分は正しい行動をしたと言えるのか?」
『そ…それは…っ、…』
ぐうの音も出なかった。
相澤先生の言う通りだ。私は自分の気持ちばかりを優先して、周りの事を何も考えていなかった…。
「…前に一度、死柄木に出会った日に言った"忠告" を覚えてるか?」
『…忠告ーー…』
「次こういう事があったら、すぐプロに報告するなり助けを求めろ。間違っても後をつけようとするな。ヒーロー科ならまだしも、お前は普通科の生徒だ。敵と対峙した所で返り討ちにされるだけだ」
『…っ…』
「お前に何かあったら、その責任は俺達に掛かる。
ましてや今回は、俺からお前にこの合宿に来て欲しいと頼んだ。俺達プロが守るから安心しろと言ってな……。
……頼むから、もうちょっとコッチの気持ちを汲み取ってくれ。俺だって自分の教え子に手を出されたくないんだよ」
相澤先生の不安や心配が入り混じった様な感情がひしひしと伝わって来て、私は申し訳なさから頭を下げた。
自分が思っていた以上に、相澤先生に心配をかけさせてしまっていたみたいだ。
『……本当に…すみませんでした』
「分かってくれりゃ良い」
ーーコンコン。
『?』
突然、病室の扉の方からノック音が聞こえて顔を上げると、白衣を着た男性が顔を覗かせた。
「おっ。目が覚めたかい?良かった」
「お世話になってます」
「いえいえ。そちらも色々と大変でしょうが、雄英のこと応援してますよ」
「…ありがとうございます」
『……』
…ん?
さっきも相澤先生が言ってたけど、私が眠っている間に雄英に何かあったのかな?
2人のやり取りを見てそんな風に思っていると、白衣を着た…恐らく担当医の先生が私に視線を向ける。
「気分はどう?いつもと変わった所はない?」
『あ、はい。特に変わりはないです』
「そう…。君が眠ってる間にリカバリーガールに来てもらって治癒を
何故かそこで区切ると、担当医の先生は「うーん…」と唸りながら渋い表情を見せる。
「何かありましたか?」
相澤先生も何かを察してそう聞くと、担当医の先生は言いにくそうに口を開く。
「実は…少し気がかりな事があってね。君に施した治癒力が、何故か効かなかったんだ」
えっ…?
リカバリーガールの治癒力が効かなかった…?
『それってつまり……どう言う事ですか?』
「……とても言い辛いんだけど、もしかして君の個性は、使い過ぎると自身の生命に危険を及ぼす物なんじゃないかい…?」
『ーー!!』
ドクン…と心臓が大きく波打つ。
聞く前から何となく嫌な予感はしていた。
いつも個性を使い過ぎた時、体の負担が大きくて…心のどこかで、あまり良くない使い方をしていると言う自覚はあったから…。
「苗字…、お前…」
相澤先生もかなり動揺しているみたいで、揺らぐ瞳が真っ直ぐに私を見据える。
私は思わずその視線から逃げたくなった。
嫌だ…。
そんな顔で私を見ないで下さい、先生…っ。
私は、ヒーローに…、みんなを救えるヒーローになるために今まで頑張って来たのに……そんな顔されたら、
私はどうすれば良いんですか…?
「もしかして、今までも無茶な使い方して来たんじゃないかい…?個性だって身体能力だから、無茶をすればそれなりの反動が自身に返ってくるよ。それを繰り返し続けていれば、最後には取り返しがつかない事になる。
……"君の命が危なくなるよ"」
『……じゃあ…、私はっ…もう……個性を使えないって事ですか…?』
「今のまま無茶な使い方をするなら、ね?だからそこまで思い悩まなくて良いよ。それからーー」
担当医の先生はそう言いながら、白衣のポケットから折り畳まれた紙を取り出し、私に差し出してくれた。
『…これは?』
「預かっていたんだ。君にお礼を伝えたいって言う子からね。…だから、あまり気に病まないで前向きに考えてね?」
そう言って優しく微笑み、担当医の先生は私に折り畳まれた紙を渡してくれると、病室を出て行った。
私は渡された紙を丁寧に広げる。
『ーー!』
そこに書いてあったのは、"苗字さんへ"と幼さの残る手書きの文字で私に当ててくれたーー…洸汰くんからの手紙だった。
『…っ、…洸汰くん…』
鼻の奥がツーンと痛み、目頭が熱くなる。
溢れそうな涙を堪え、私は唇を噛み締めた。
…あたたかくて、優しさの溢れた手紙を、私はそっと胸に押し当てる。
ありがとう、洸汰くん…。
君のおかげで、決心がついたよ。