第12話
お名前は?
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『いやっ!来ないで!』
私は震える足を無理やり立たせて、必死に男から逃れようとする。
けれど、火は逃げ道を塞ぐように燃え盛っていて、すぐに行き場を失い私は右往左往する。
その間にも刃物を持った男と、その後ろで燃え盛る炎がどんどん私に迫り来る。
『熱い…!誰か助けて…!』
声は誰にも届かない。
まるで、"お前はここで死ぬ運命なんだ"と突き付けられているようだった…。
『ケホッ…ゴホッ……苦、し…』
勢い良く燃えている分、黒い煙もたくさん漂っていて、とうとう私は立っていられなくなり、その場に倒れ込む。
体が…動かない…。
頭も、段々ぼーっとして……。
男は私に馬乗りになると、ゼェゼェ苦しそうな呼吸をしながら、刃物を自分の頭上より高く掲げた。
「最期に僕が殺してあげる……来世は、個性なんてない世界で幸せに暮らしてねッ!!」
あぁ…私、ここで死ぬんだーー…。
私に向かって刃物が振り下ろされる動作が、やけにスローモーションに感じたーー…その時だった。
「ぐぁっ…!」
バキッ!と誰かに殴られた男の体が吹っ飛び、壁に打ちつけられると、そのまま壁にもたれかかる様にズルズルと倒れ込んだ。
一瞬何が起こったのか分からなくて、
頭が真っ白になった。
すると突然大きな手が、
ふわりと私を優しく抱きかかえる。
ーーだれ…?
ボヤけた視界に一瞬だけ、私を抱えるその人の顔が瞳に映った。
「もう大丈夫だ。君を助けに来た」
大きな体に、真っ赤な髪の毛。
私は、その人をよく知っていた。
『……エンデヴァー……』
幼い頃から、No.2としてテレビで活躍していた姿を見ていたその人物は、テレビで見るよりずっと大きくて、
……優しい目をしていた。
助かったんだ…。
私、生きてるんだ…。
薄れる意識の中、大きな体に抱きかかえられた私は、安堵感に包まれたまま静かに瞳を閉じたーー。
「ーーでは、この少女のご両親は…」
「……手は尽くしましたが……お力添え出来ず、申し訳ありません…」
「………」
大人達が話している声が聞こえ、ゆっくり瞼を開ける。
最初に目に映ったのは白い天井にカーテン。
そして、側には暗い顔をしたエンデヴァーと白衣を着た大人の人が居た。
『…ここ……どこ…?』
声がくぐもる。
何だろうと目線を下にやると、鼻と口を覆う様に酸素マスクが付けられていた。
「目が覚めたかい?ここは病院だよ。もう大丈夫だからね」
『…病院…』
…そっか。
私、エンデヴァーに助けられたんだった…。
私は隣にいるエンデヴァーに視線を向けた。
『…エンデヴァー…』
「…!」
うぅん…喋りにくい…。
でも、言わなきゃ…。
ちゃんと、私の口から…。
『…助けに来てくれて…ありがとう…』
「…っ…」
お礼を言ったのに、何故かエンデヴァーは辛そうな顔をした。
どうしてそんなに悲しい顔するんだろう?
お礼言われるの、好きじゃないのかな…?
エンデヴァーは大きな手をゆっくり伸ばし、私の頭を優しく撫でてくれた。
「……何かあったら、俺の所へ来るといい…。いつでも、受け入れる…」
優しくそう言うエンデヴァーに、私は笑顔で頷いた。
エンデヴァーは
そのままゆっくり手を下ろすと、背を向けて部屋から出て行った。
これが、幼い私が体験した…エンデヴァーとの初めての出会いだった。
そこからの記憶はとても曖昧だ。
親が亡くなったと聞かされたのは、この少し後だった気がする。
それからどんな風に過ごしていたかもあまり思い出せない。
ただ、断片的に覚えているのは、大人の人に色々質問されていた場面。
「あなたの名前は?」
『…苗字…名前…』
「事故が起こる前の事、何か思い出せる?」
『………公園で……待ってた…』
「えっ?誰を待ってたのかな?」
『……男の子…』
「お友達かな?名前は覚えてる?」
『……分からない』
あぁ…そっか…。
何で私が昔の記憶をよく覚えていないのか、ようやく理解した。
色んなショックが重なって、記憶がバラバラになっちゃったんだ。
だから、断片的にしか思い出せない。
…轟くんも、大事な約束をした事も…。
ーーごめんね…轟くん…。