第12話
お名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ーーー夢を見ていた…。
ーーー懐かしくて、酷く残酷な夢を…。
「名前…まだ泣いているのか?」
「引っ越して来てからずっとよ。よっぽど前の所が気に入ってたみたい…」
遠くでお父さんとお母さんが話す声が聞こえる。
私は自分の部屋に閉じこもり、2人が話している様子をすすり泣きながら聞いていた。
あれ…。
私、何でこんなに悲しかったんだっけ…?
とにかくその時の私は、いつも部屋のすみっこでよく泣いていた。
理由はよく思い出せない…。
とにかく、いつも悲しみに明け暮れていて、それを心配した両親が私を元気付けようと、当時子どもの間で流行っていた映画を観に近くの大型ショッピングモールへと連れて行ってくれた。
その時はあまり乗り気じゃなかったけど、私を気遣ってくれているのが子どもながらにも何となく察して、断ろうとは思わなかった。
……今思えば、あの時断っていれば、あんな恐ろしい事に巻き込まれずに済んだのかもしれないのにーー。
私は両親と一緒に映画を観ていた。
最初は乗り気ではなかったものの、始まった映画に夢中でスクリーンを眺めていると、何かが焦げたような臭いが鼻を掠めて、一気に現実に引き戻される。
『……ねぇ、お母さん。何か変な臭いするよ?』
「えっ?……あら、本当ね…何の臭いかしら…」
異変に気付いたのは周りのみんなも同じらしく、館内がザワつき始める。
ーーーその瞬間。
バチンッ!と電源が落ちる様な音が館内に響くと同時に、スクリーンに映っていた映像が消え、映画館が暗闇に包まれた。
「な、何だっ⁉︎ 何が起こってる…⁉︎」
「ママ怖いよぉ!」
突然の出来事にみんなが見えない恐怖に襲われパニックを起こす。
私も周りの空気からただならぬ事態を感じて、思わず隣にいる両親の手を握った。
『お母さん、お父さん…怖い…!』
「大丈夫よ。安心して」
「名前、大丈夫だ。お父さん達が付いてるだろ?」
2人が安心させようと私を励ましてくれていると、突如映画館の扉が開かれ、みんなに向かって誰かが大声で叫んだ。
「火事だッ!早く逃げろー!!」
その言葉に大人達が一斉に焦った様子で自分達の家族を引き連れて、扉から漏れる光に向かって走り出す。
「あなたっ!」
「あぁ!急いでここから出るぞ!名前、お父さんの手を掴め!絶対に離すなよ⁉︎」
『うんっ!』
私はお父さんの手を掴むと、この手を絶対に離さないようにとキツく握り締める。
そのまま出入り口へと向かって駆け出し、館内から飛び出すと、そこは既に火の海だった。
周りにある売り場や、店の中の物が勢い良く炎に飲み込まれ、凄まじい勢いで範囲を広げて行く。
『熱い…!』
あまりの熱さに、私は空いた方の腕で顔を庇った。
お父さん達も急な状況にかなり狼狽えた様子だった。
「そんなっ…!もう火がこんなに…⁉︎」
「くっ…!、いいか、絶対離れるなよ…!」
ーーーその時。
私達に向かって走って来る何者かの姿が、視界の端に映った。
「ーー危ないッ!!」
「あなた!」
『!!』
近付く何かに顔を向けたその一瞬。
私の瞳に映ったのは、血塗られた包丁を振り
私を庇おうとして覆い被さるお父さんの姿だった。
そこからの記憶は今でも曖昧で、よく思い出せない。
気が付いたら目の前には血の海と、そこにうつ伏せで倒れ込む両親の無惨な姿。私は状況が飲み込めず、呆然とその場にへたり込んでいた。
『お母さん…?お父さん…?』
現実じゃないみたいで、握り締めていたお父さんの手を緩めると、何の抵抗もなくスルリと力無く私の手から零れ落ちる。
そのままピシャリと水が跳ねる様な音を立てて、手が血の海の中に落ちた。
この血は…お父さんとお母さんのーー血…?
『…い、や…』
ようやくこれが今現実に起こっている事なのだと理解した。私は倒れ込む2人に泣き
『お母さん…!お父さん…!お願い、死なないで!』
「ヒヒヒ…、無理だよ…もう死ぬよ…。個性持った奴は全員、ここで死ぬ運命なんだ…」
『ーー!!』
頭上から降って来た声に恐る恐る顔を上げると、そこには返り血を浴びてぬらぬらと鈍く光る刃物を持った男が、薄ら笑いを浮かべながら私を見下ろしていた。
『…っ…』
私は恐怖に震え上がる。
男は私を見据えると、段々とその目に狂気を宿す。
「君も、お母さん達の所に連れてってあげる…」
男は握り締めていた刃物の刃先を私に向ける。
私…殺されるの…?
嫌……嫌だ!
私はまだ、死にたくない!