第12話
お名前は?
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「火事に巻き込まれた少女…?」
「あぁ。何とか思い出してくれ。大事なことなんだ」
俺は家に帰って早々に親父の元へと訪れていた。
最初親父は俺から部屋に訪れた事に何か勝手な勘違いをして嬉しそうな顔をしていたが、俺が火事について聞くと、その表情は一変して落胆した様子だった。
「いきなり来て何かと思えば…そんな事か。以前も同じ事を言った気がするが、いちいち俺はどこの誰を助けたかなど覚えてーー」
「もしかしてその時に両親を失ったかもしれねぇんだ」
「ーー!!」
「何でもいい……何でもいいから、記憶にある部分だけでも思い出してくれ」
親父は押し黙ると、思い当たる節があるのか、意を決した様に口を開く。
「…今から話すのがお前の言っている人物の事なのかは知らない。だが、1つだけ思い出した事がある」
「ーー!、教えてくれ!」
「昔、ある幼い少女の救助活動をした事がある。現場には少女の両親もいたが、そちらは救助した時には既に瀕死の状態だった。すぐに病院に運ばれたが、失血死でその後亡くなったらしい。」
「失血死…?火事に巻き込まれたんじゃなかったのか?」
「その火事は自然発火ではない。もちろん、
「……ッ」
じゃあ、名前の両親はその時に犯人によって…?
名前の過去がそんな悲惨な事件に巻き込まれていた事に、俺は言葉を失う。
それと同時に、記憶の中で昔この事件が大々的にテレビで放送されていた事を思い出す。
大型ショッピングモールで起こった大規模な放火・殺傷事件。
死傷者含め、かなりの人数が巻き込まれていたはずだ。たまたま遠征で近くにいた親父が救出したそうで、エンデヴァーが犯人を仕留めたと話題になり覚えていた。
まさか…そこに名前もいたなんて…。
どうして俺は今までそんな大事な事に気付いてやれなかったんだ…!
「…ヒーロー活動を長くやっていると、多くの事件に携わる。救える命と救えなかった命、もちろん救った命の方が遥かに多いが、その少女は俺が救えなかった事件の1つだ…。悲惨な事件で、今でも時々後悔する事がある…」
「その後、犯人はどうなったんだ…?」
「もちろん死刑さ。少女の方は事件での精神的ショックで話せる状態ではなかった。確か、記憶障害も起こしていたらしい…」
「ーー!、記憶障害…⁉︎」
「あぁ…。どうかしたか?」
「……いや、こっちの話しだ」
ーーその一言で、点と点が繋がったような気がした。
「……お前、その少女と知り合いなのか?」
「…あぁ。前にお前も体育祭で会った事があるぞ。お前に礼言ってただろ」
「ーー!!……そうか…あの子が…」
そう言うと親父はそれ以上何も言わなくなった。
俺も話す事がなくなったので、黙って部屋を出る。
部屋の扉を閉める瞬間、悲し気な顔をした親父の横顔を初めて見た気がした…。
ーーー✴︎✴︎✴︎
次の日、俺は今日も名前の病室に訪れていた。
ただ昨日と違うのは、今日はクラス全員で見舞いに来ていると言う事だ。
もちろん、爆豪や入院してる4人を除いて…。
「苗字…まだ意識戻ってねぇんだな…」
「確か、敵連合と絡んでたんだろ…?何で一緒に居たわけ?」
「すまない…全て僕のせいなんだ…!」
切島や上鳴が不思議そうに首を傾げていると、
飯田が突然頭を下げて謝って来た。
「僕が苗字くんに許可を出さなければ、こんな事には…!」
「どう言う事だ?」
そう飯田に聞くと、尾白が飯田に代わり状況を説明してくれた。
「敵が現れて施設に逃げてる時、苗字さんも俺達と一緒にいたんだ。だけど、ガスが充満してみんなの安否を心配した苗字さんが自分しか救ける事が出来ないからって懇願して……俺達も止めれなかった。だから飯田だけの責任じゃないよ」
今のでようやく理解した。
何故名前があの場に居たのかずっと疑問だったが、
みんなを救けるために…。
名前…。
お前は本当に昔から、目の前に困っている人がいたら放っておけねぇんだな。
例え、自分が犠牲になろうとーー…。
「私達を救けるために…?苗字さん、そこまでして必死に救けようとしてくれたんや…」
「もう普通科っていうアレじゃねーよ。そんな考え方出来んの、オイラ達みたいなヒーロー科とかだろ……」
「ちゃっかり自分のこと入れんのね、峰田」
「しかし、止めれなかったせいで苗字くんはこんな目に…!」
「やめて飯田ちゃん。こうなった元凶は全て敵のせいよ。飯田ちゃんが謝ることじゃないわ」
「蛙吹の言う通りだ。友を止められなかったと言う気持ちは分かるが、今は己を責めても仕方ない。大人しく苗字の回復を待とう」
「…っ…」
みんなが飯田に慰めの言葉をかける。
飯田はまだ納得していない様子だったが、ここで後悔したって仕方ねぇ。
俺は未だに目を覚まさない名前へと顔を向ける。
…名前。
みんながお前を心配してる。
だから…早く目を覚ましてみんなを安心させてくれ。
俺もお前に伝えたい事がたくさんあるんだ…!
「…そろそろ行くか。他のみんなの様子も気になるし」
「…そうだな。行こうぜ、みんな」
上鳴達の掛け声でゾロゾロとみんなが名前の病室から出て行く。
俺は名前が眠るベッドに近付き、布団からはみ出た左手に手を伸ばし、上から自分の手をそっと重ねた。
柔らかくて、俺よりずっと小さな手。
いつもこの手で優しく触れて俺を癒やしてくれていた手は、いつもと変わらずあたたい温もりが感じられた。
「…名前…」
愛しい名前を呼び、キュッと握り締めると、僅かに反応するように名前の指先がピクリと動く。
一瞬驚いたが、名前は変わらず瞳を閉じたままだった。
無意識に反応してくれてるのか…?
俺は返ってきた反応に少し安心する。
「…また来る」
そう言って、冷えない様に左手を布団の中へと潜らせた。
「…轟、大丈夫か?」
いつまでも来ない俺を心配したのか、切島が扉から覗き込んでくる。
俺は「あぁ」と短く返事すると、名前が眠る病室を後にしたーー。