第11話
お名前は?
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*轟視点*
「おい半分野郎!俺の前を歩くんじゃねえ!!」
「あ、悪ィ」
肝試しの順番が回って来て大人しくルートを歩いていると、いきなり爆豪にそう言われた。
言われた通り前を譲ると、爆豪は「いいか!絶っ対に俺の前に出んじゃねえぞ⁉︎」と言って、ズカズカ道なりを進んで行く。
爆豪……そんなに楽しみにしてたんだな。
意外とこういうの好きなのか…。
俺にはただ決められたルートを歩く夜の散歩みたいな感覚だった。
肝試しって言われる意味がよく分からねぇ。
怖いのか、コレ?
少し退屈だったので、俺は何気なしに空を見上げた。
そこには夜空一面に星が散りばめられていて、昨日見上げた星空と何ら変わらない光景が広がっていた。
そして同時に昨日の出来事がよみがえる。
昨日のあの夜ーー。
俺は名前と星空を見上げたあの一瞬、少しセンチメンタルな気持ちになっていた。
過去の事はもう引きずらねえって決めてたのに、
やっぱ…あの瞬間だけは思い出しちまったな…。
ーーお前との約束を。
子どもの頃に交わした約束。
けどそれはもう過去のことだ…。
これからは、変わろうとしている今の自分を好きになってもらいたいと…そう思っていた。
けど…突きつけられた現実は、あまりにもショッキングなモノだった。
あの時ーー。
心操と連絡を取り合っていると知った時、胸が張り裂けそうになった。
嬉しそうに星空の写真を撮ってたのも、やっぱり心操に送るためだったんじゃねえか…?
俺がいない所で、お前たちはいつもどんな風に過ごしてんだ…?
そんな思いが頭をよぎる。
考えたくないのに、考えてしまうジレンマから抜け出せない。
だからなるべく考えないよう名前を避けていたが……
やっぱそれも辛ェ。
普通に話してぇのに、今は何だかお互い気まずいし…。一体どうすりゃいいんだ?
俺はどうしようもなくなり、答えを求めようと自然と目に付いた爆豪に声をかける。
「…なぁ」
「ンだよ?」
爆豪は俺に声をかけられた事に不服そうに振り返る。
その反応に俺はすぐ後悔し、喉まで出掛かっていた言葉を飲み込んだ。
「…やっぱいい」
「あぁッ⁉︎言う気ねえなら最初から話しかけんじゃねぇクソが!」
「いや、お前に聞いても意味ねぇと思って」
「あるわッ!言い倒してやるから早く言えや⁉︎」
そこまで言うならと、俺は重い口を開いた。
「…お互い気まずくなった時、どうやって話しかけりゃいい?」
「面倒くせェからブッ飛ばす」
「……やっぱお前に聞いた俺が間違いだったな。悪ィ」
「何謝っとんだッ!!まずてめェをブッ飛ばしてやろーかァ⁉︎」
爆豪は俺に向かって何やらずっと文句を垂れていたが、俺はほぼ聞き流していた。
それよりも、頭の中は名前ともう1度ちゃんと話そうということでいっぱいだった。
やっぱちゃんと自分の気持ちを正直に話して謝ろう。
お前と話せなくなるのが、一番辛ェ…。
そうと決まれば、こんなのとっとと終わらせるぞ。
早く…名前に会いてぇ。
「行くぞ、爆豪」
「あ、オイてめっ!!俺より前行くなっつっとんだろがッ!!聞いてんのか半分野郎ーー!!」
ーーー✴︎✴︎✴︎
『えっ⁉︎ 今、何て…?』
「えっと、だから……轟くんと喧嘩でもしたのかなって…」
肝試しの順番を待っている間、突然緑谷くんから「聞きたい事があるんだけど…」と神妙な顔で言われ、何事かと思えばまさかのこの一言だった。
『な…何で分かったの?』
「いや、いつも2人良く話してるし、苗字さんといる時の轟くん、凄い優しい顔してるんだけど、今日はずっと暗い顔だったから……何かあったのかな?って…」
『……そっか…』
…さすが分析が得意なだけあるなぁ、緑谷くん。
周りよく見てるよ…。
『うーん…喧嘩って訳じゃないんだけど、昨日ちょっと…ね?』
「やっぱりそうなんだ?…ずっと気になってたんだ」
『でも、そこまで大した事じゃないから大丈夫。気にかけてくれてありがとう。……なるほど。何か、ようやく今分かったよ』
「えっ、何が…?」
言ってる意味が分からないとでも言うように、緑谷くんは困惑した様子で私を見つめる。
その視線に応えるように、私はニコリと微笑んだ。
『こうやって、まだ付き合いが浅い私の事を気にかけてくれる所。その優しさがきっと、轟くんの心を開かせてくれたんだね』
「えっ⁉︎ そ、そんな事ないよ!苗字さんと居る時の優しい轟くんの顔、僕まだ見た事なかったし…!まだ完全に心開いてはーー」
謙遜する緑谷くんに、私は首を横に振る。
『そんな事ない。轟くん、前はもっとみんなの前では冷たい目をしてた。それに、心の奥の感情もずっと冷たくて…』
「……苗字さん」
最初に轟くんとクラスの人について話してた時、「他の奴の事なんか、どうでもいい」って、冷たく言われた事を今でも覚えてる。
それがこの合宿に来て、轟くんがクラスのみんなと仲良さげに関わってる姿も見たし、夕食の手伝いをした事を知った時も、「ありがとな、俺達のために」って言ってくれたのが凄く印象的だった。
そんな言葉、以前の轟くんなら絶対言わなかった。
そして何よりーー…
『体育祭で緑谷くんが全力で轟くんにぶつかって来てくれたおかげで、轟くんは変わる事が出来た。…だから、緑谷くんにはずっとお礼を言いたかったの』
私は緑谷くんを真っ直ぐ見据えると、喜びで溢れてくる感情のまま、ニッコリ笑顔を向ける。
『轟くんを
「ーーっ…!」
緑谷くんの大きな瞳が揺らぐと、そのままクシャリと泣きそうな顔で微笑まれた。
「ありがとう…!そう言ってもらえて、僕も嬉しいよっ…!」
嬉しそうにそう言って笑う緑谷くんを見て、この人が轟くんの側にいるなら、これからもきっと大丈夫だと、
ーーそう安心した瞬間だった。
ふと、覚えのある臭いが鼻を掠めた。
「何このこげ臭いのーー…」
「黒煙………」
「?」
『まさかっ…!』
プッシーキャッツの2人が異変に気付き、私達も状況を把握しようと辺りを見回す。
すると、森の奥から黒い煙がもくもくと立ち籠めている光景が目に飛び込んできた。
…瞬間、私の胸がざわつく。
思い出したくない記憶が脳裏を駆け巡る。
じわりと冷や汗が流れた。
「なっ、なに⁉︎」
「ピクシーボブ⁉︎」
次の瞬間、ピクシーボブの体が宙を浮くと、森の奥へと引っ張られる様に体が飛んで行く。
「飼い猫ちゃんはジャマね」
暗闇の中、
そう呟いた何者かが私達の前に姿を現したーー…。