第10話
お名前は?
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『ふぅ〜。ご飯もお風呂も最高だったなぁ…』
私はちょっとしたスペースにある休憩所の椅子に座って一息ついていた。
あの後食堂に行き、マンダレイ達と一緒に配膳を手伝おうとすると、「もう大丈夫。みんなと一緒にご飯食べな」と言われ、お言葉に甘えてA組のみんなと一緒に食事をした。
『何か、ちょっとだけ…ヒーロー科の一員になれた気分…』
私が緊張しながら食べてたら、A組のみんなが積極的に話しかけてくれたおかげで直ぐに私も打ち解けて、楽しく食事をする事が出来た。
みんなの名前もだいぶ覚えられたし、一石二鳥!みんな本当に明るくていい子ばかりだった。
まぁ…その後の温泉で女子から轟くんとの関係性を根掘り葉掘り聞かれたけど…。
特に芦戸さん葉隠さんからしつこく聞かれ、話しを逸らすのに必死だった。「轟のあんな優しい顔初めて見たー!」とか「何で付き合わないの⁉︎」とか…。
私は…今のこの日常が幸せだからなぁ。
これ以上を求めたら、それが壊れちゃいそうで…。
ーーけど…、
もし…もし、轟くんと付き合うとしたら、この関係性ってどう変わっちゃうんだろう…?
今と何かが変わるんだろうか…?
轟くんが彼氏になったらきっとーー…
『……って、何考えてんの私!また轟くんのこと意識しちゃってる…!』
これは錯覚…錯覚なんだ!
芦戸さん達が轟くんの事いっぱい聞いてくるから…!
『……ん?』
ふと顔を上げた視線の先に洸汰くんの姿を発見した。
さっき緑谷くんに運ばれてたみたいだけど、もう平気なのかな?
そのまま見つめていると、洸汰くんは正面入口から外に出て行こうとするので、私は慌てて立ち上がり洸汰くんの後を追った。
『ーー待って、洸汰くん!』
「!!」
急に後ろから呼び止められた事にビックリしたのか、
少し外に出た先で洸汰くんは足を止めて振り返る。
「…何でついてくんだよ、こっち来んな!」
『ごめん…、でももう夜で外も暗いし、どこ行くのか心配だったから』
「うるせぇな。どこに行こうが俺の勝手だろ。ほっとけよ!」
相変わらず冷たい言葉を浴びせて来る洸汰くんにたじろいつつも、私はずっと聞きたかった事を口にする。
『洸汰くんは、ヒーロー…嫌い?』
「!」
洸汰くんは私の言葉に一瞬表情を強張らせると、段々その表情に怒りや悲しみを宿し、ギリッ…と歯を食いしばる。
「…嫌いだよ…大ッ嫌いだ!だから早く俺の前から消えろよ!」
『出来ないよ。だって洸汰くん、ずっと泣きそうな顔してるから…』
「ーー⁉︎」
『…私、辛そうな人を見るとどうしても放っておけない性格で……だから、辛い気持ちとか色々私に吐き出して欲しい。洸汰くんの気持ちを知りたいの』
「黙れよッ!お前に俺の気持ちなんて分かるわけないだろッ!!」
『ーー分かるよ』
「⁉︎」
『だって……私も君と、同じだから』
「…えっ…?」
予想だにしていなかった言葉だったのか、洸汰くんは目を剥いて驚いた様子で私を見つめる。
『私も小さい頃に両親を亡くしたの。凄く悲しかった……だから君の気持ちは痛い程分かるよ』
「お前の親も…ヒーローだったのか…?」
『ううん。私の親は普通の一般人だった。昔、ある事件に巻き込まれた時に亡くなって…その時、私も一緒に死ぬんだって覚悟した。でも、その時にヒーローが私を助けてくれたの』
「…!」
『私はヒーローに助けられたから、今こうして生きてるんだよ。洸汰くんのご両親が助けてくれたように…』
「……ッ…」
『救われた命に今でもずっと感謝してる。だから、洸汰くんのお父さんお母さんが命を懸けて守ってくれた事は、決して無駄死になんかじゃないよ?洸汰くんにも、いつか自分を助けてくれるヒーローが現れた時にきっと分かる時が来るよ…!だから今はーー』
「…いつだよ…っ、…」
『えっ…?』
怒りに震えた声で洸汰くんが呟く。
か細い声なのに、やけにその声は私の耳に響いて聞こえた。洸汰くんを見ると、その小さな体は小刻み震えているようだった。
「なぁ…?いつそのヒーローは現れるんだよ⁉︎ お前に現れたからって、俺にも同じ様に現れるとは限らねぇんだろッ⁉︎ 何の保証もないくせに適当な事言ってんじゃねぇ!」
『あっ…洸汰くんっ!』
洸汰くんは私にどうしようもない怒りをぶつけると、背を向けて暗闇の中へと走り去って行った。
『……洸汰くん……』
姿が見えなくなった後も、私はしばらくその場から動けずにいた。
…ダメだ。
洸汰くんはまだご両親の死を受け止めきれてない。
そんな状態で今私が何かを言った所でーー…。
「…名前ちゃん?」
後ろから呼びかけられた声にゆっくり振り返ると、心配そうな顔をしたマンダレイがそこにいた。
『マンダレイ…』
「…言い争ってる声が聞こえて来たら、君がいたから…洸汰と何かあった?」
『……ごめんなさい、マンダレイ…っ…、私の声、洸汰くんに届かなかったみたいです…』
「名前ちゃん…」
マンダレイは私に近付くと、慰めるように優しく頭を撫でてくれた。その手が優しくて、余計に胸が締め付けられる。
「ありがとう。洸汰の事気にかけてくれて…。洸汰もきっと心の底では分かってくれてると思うの。ただ今はまだ受け入れるのに時間が掛かるから、ゆっくり待つしかないんだよ、きっと…」
『……はい…』
そうだよね…。
受け入れるにはまだ時間が必要だ。
いつか、洸汰くんにも現れるといいな…。
ーー命を懸けて守ってくれるヒーローが…。