第9話
お名前は?
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『心操くん、ありがとう!』
「は?」
私は教室に戻ると早速心操くんにお礼を伝えた。
けれど心操くんは怪訝そうに眉をひそめるので、私はもう1度言い直す。
『心操くんのおかげで、テストで赤点取らずに済んだよ!本当にありがとう!』
「先に主語を言えよ。何の事か分かんねぇだろ……つーか、何でもう結果知ってんの?」
『実はさっき、相澤先生に結果を教えてもらって。
それでね、夏休みにヒーロー科の合宿があるらしいんだけど、それに付いて行く事になったの!』
「合宿に…?」
心操くんは少し驚いた様子で言葉を繰り返し、首を傾げる。
「何で苗字だけなんだ?」
『今回は私の個性が活用される場なんだって!心操くんは相澤先生が何かを使い慣れないと…とか言ってたけど、何のこと?』
「さぁ…?何も聞いてないけど」
『そうなんだ?……何の事だろ。まぁ、いいや』
私は改めて言いたかった事を口にする。
『あのね、今週の休日に心操くんへのお礼の意味も込めて、一緒にお出掛けしない?』
「はっ⁉︎」
心操くんはかなり驚いた様子で目を丸くする。
「お出掛けって……どこ行くんだよ?」
『
心操くんはしばらく沈黙すると、何かを見透かしたように目を細める。
「お前それ……合宿に必要な物揃えるついでに俺を誘ってんだろ?」
『ーーち、ちち違うよッ⁉︎ 私のはついでで、心操くんがメインだから!』
「ハッ…、どうだか」
心操くんは疑い深い眼差しで私を見ると、軽い溜め息を吐いてから顔を上げる。
「……まぁ、苗字が奢ってくれるって言うなら暇だし行ってやる」
『良かった〜!私が出せる範囲でならいくらでも奢るよっ!』
「……嬉しそうだな」
そういう心操くんも、どことなく嬉しそうな顔をしていた。心操くんは何か思い付いた素振りを見せると、ポケットから携帯を取り出した。
「連絡先、教えて」
『えっ?』
「……何?連絡手段ないと、お前当日寝坊してくるかもしれないだろ」
『だからっ!私寝坊したの1度だけなんだけど⁉︎ 何でみんな私を寝坊キャラに仕立て上げるの⁉︎』
ーーそんなこんなで…心操くんと連絡先を交換した私は、あっという間に約束の当日を迎える。
『…あ、心操くーん!コッチだよ〜!』
「声がデカイ…!目立つからやめろ」
『大丈夫だよ。こんなに人多いし、誰も気にしてないって!』
「はぁ…。やっぱ休日は混んでんな…酔う」
ショッピングモールは大盛況で、見渡す所人、人、人だらけだった。
心操くんは人混みが苦手なのか、少しウンザリした顔をしている。
『確かに人多いね…。まぁ、ここ本当に色んな種類あるから人気なのも頷けるかな。取り敢えず、何か見たい物ある?』
「自転車用品店」
『えっ…。渋い所から行くね?』
「いいだろ、別に…」
私達は案内板を確認しながら一緒に自転車用品店へと向かう。お店の入り口付近まで来た所で、心操くんは私に振り返った。
「苗字はここで待ってていいから」
『えっ、何で?一緒に行くよ?』
「いい。もう買いたい物決まってるし、すぐ戻るから」
『わ、分かった…』
心操くんはそう言い残してお店へと入って行った。私は手持ち無沙汰になり、ぼーっと周りを見渡す。
次どこ行こうかなぁ…?
……あっ!
あそこのクレープ屋さん美味しそう!
後で心操くんが戻って来たら買いに行こうっと。
ウキウキしながら心操くんを待っていると、急に背中に悪寒が走った。
……な、なに…この嫌な気配…⁉︎
誰かに見られているような、そんな感覚…!
私はぐるりと辺りを見渡すと、人混みの中で異様なオーラを発する人物を視界に捉えた。
全身黒い服装を身に包み、頭にはフードが深く被られて顔が見えないのに、その人物は私が見えているのか、ニタリと三日月状に口元を歪める。
紛れもない……何度も味わった、全身に
「みぃーーつけた…」
ーー敵連合 "死柄木弔"…!!
「苗字、待たせた」
『ーーっ⁉︎』
心操くんの呼び声に私はハッ、として振り返る。
心操くんは私の顔を見ると何かを察したのか、ギョッとした顔でこちらを見つめ返した。
「どうした…?顔、真っ青だぞ」
『心操くん!今、あそこに死柄木がーーーあれ…?』
指差した方向の先に死柄木の姿はなかった。
慌てて辺りを見回すも、死柄木らしき人物はどこにも見当たらない。
『何でっ…、今さっきまであそこに…!』
「落ち着け苗字、何があったんだよ?」
『死柄木が…、敵連合の死柄木弔を見たの!私のこと、"見つけた"って言ってた…』
「ーーそれ本当か⁉︎ 見間違いじゃねぇよな?」
……見間違い?
ううん、違う!
この恐怖に震える感覚は見間違いなんかじゃない!
『絶対本人だったよ!私、前にも死柄木に会った事があるの!』
「何だよそれ初耳だし…後で詳しく教えろよ?取り敢えず、警察に連絡するから」
心操くんは携帯を取り出すと、警察に連絡をしてくれた。
ーーしばらくして警察が到着。
私以外にも死柄木を見かけた人がいたらしく、ショッピングモールは一時的に閉鎖となった。
結局、警察の捜査でも死柄木は見つからず、買い物所じゃなくなった私達は警察の指示に従って大人しく自分達の家へと帰宅した。
私は家に帰ってからも、あの時の光景が忘れられず、ずっと頭の中であの言葉が繰り返される。
「みぃーーつけた…」
『どういう意味なの…?』
確信なんてなかった。
けれど、私はこの先自分の身に何か良くない事が起こる気がして、見えない恐怖にただただ怯えていたーー…。
第9話 おわり