第9話
お名前は?
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ーー次の日の朝。
朝のニュース番組では昨日の保須市での出来事が大きく取り上げられていた。
"ヒーロー殺しステインの逮捕"
"敵連合との繋がり"
"襲われた高校生3名"
様々な情報が開示されるごとに、私の不安はピークまで達していた。
ーーその時、
ブーーーッ
『ーー⁉︎』
突如携帯の着信音が鳴り、私は慌ててディスプレイを確認する。
そこに表示された名前は、ずっと声を聞きたかった人物からだった。
私は興奮で震える手で通話ボタンを押して耳に当てる。
『轟くんッ…⁉︎』
[もしもし、名前か?悪い、中々電話に出れなくて……心配かけたよな?]
『……っ』
[……怒ってるよな?ごめん。保須市での事件に巻き込まれてて、連絡するのが遅くなった。けど、怪我は大した事ねぇからーー]
『……かった…』
[…えっ?]
『……無事で良かったよぉ…っ…本当に、すごい心配してて…!うぅ…』
[…名前…]
思っていたより元気そうな轟くんの声が電話越しからでも伝わってきて、安堵すると同時に緊張の糸が切れたのか、目から涙が溢れた。
[本当にごめん…。もう、絶対お前を泣かせるような事しねぇから]
『…っ、うん…』
[だから泣くな。お前に泣かれると、俺……弱ぇから…]
少し困ったような轟くんの声が耳に届いて、私はくすりと微笑んだ。
『じゃあ、もう私がいない所で怪我しないで…?轟くんが傷付くのは、私も嫌だよ…』
[あぁ。分かった]
ヒーローに向かって怪我しないでって言うのは難しいのかもしれない。
だったらせめて、私の手が届く所なら大丈夫だから。
私が必ず、ヒーローを守るから…!
絶対に、傷付けさせないよ。
ーー例え、この命に替えたとしても…。
こうして、保須市での事件はステインが逮捕された事により解決へと向かったかに見えた。
けれど、世間ではステインの執念によるヒーロー殺し論に賛否両論で、私は複雑な思いのまま時を過ごしていた。
そんな中近付いて来た期末試験。
結局、あれから心操くんは特に変わった様子もなく今まで通り勉強を教えてくれて、私もこちらからあの時の事を深く聞き出す事もなく日々を過ごしていた。
そして迎えた期末試験当日ーー。
『フゥー…』
間もなく始まる試験に、私は精神統一をする。
…落ち着け、私。
今まで教えてもらって来た事をやるだけだ。
この日のために、心操くんにも協力してもらったんだし、絶対大丈夫!
試験合格して、
必ずヒーロー科編入への道を掴み取るんだ!
「よし、試験始め!」
先生の掛け声により、みんなが一斉に配られたプリント用紙に取り掛かった…。
ーーー✴︎✴︎✴︎
ーー次の日。
期末試験も無事に終えてホッと一安心していた昼休みの出来事。
私は轟くんと学食を食べ終えて廊下で別れた後、自分の教室へと戻っていた。
「苗字」
『?』
後ろから低い声で名前を呼ばれ驚いて振り返ると、そこにいた人物に更に驚かされた。
『相澤先生⁉︎ どうしたんですか?』
「話がある。ちょっとコッチ来い」
『は、はいっ!』
相澤先生は軽く手招きして背を向けると、何処かへと向かう。私は突然の事に緊張と不安を抱きながら相澤先生に付いて行った。
「まぁ適当に座れ」
『はい…』
連れて来られたのはいつもの会議室。私は緊張しながら空いた椅子に座った。
先生もすぐに向かい合う形で腰を下ろす。
「早速だが、期末試験の結果を確認させてもらった」
『ーー⁉︎』
えぇ⁉︎ 今ここで発表されるんだ⁉︎
どどどうしよう…!まだ心の準備が…!
「結果はーーー
……"合格"だ」
『ーー本当ですかッ⁉︎』
「あぁ。ギリギリの成績だったのに、良くここまで持ち直したな。誰かに協力してもらったのか?」
『心操くんです!毎日放課後に勉強教えてもらってて…!』
「心操に…?意外だな…」
嬉しい…!!
取り敢えずこれでヒーロー科編入への道は閉ざされる心配はなくなった!
…まぁ、"今は" だけど。
これも全部、ずっと教えてくれてた心操くんのおかげだ。何かお礼しなくちゃ!
「いい友達を持ったな。後で礼言っとけよ」
『はいっ!』
「…でだ、本題はここからだ」
『はい…?』
神妙な面持ちでそう言われ、私は少しドギマギする。
相澤先生は落ち着いたトーンで話しを続ける。
「もうすぐ夏休みだが、ヒーロー科はその期間に1週間林間合宿をやる予定だ」
『林間合宿…ですか?楽しそうですね!』
「ただの林間合宿じゃない。超キツイ強化合宿だ」
『超キツイ、強化…合宿』
何か、相澤先生が超キツイって言うと、物凄いヤバそうな気がしてくる…。
多分、相当キツイんだろうなぁ…。
「そこで、苗字にもその強化合宿に来てもらう」
『ーー…えぇっ⁉︎』
まさかの一言に私は仰天する。
ヒーロー科の合宿に何で私が⁉︎
まさか私も強化合宿させられる⁉︎
「今回苗字には、生徒達の補助・サポート役に回ってもらいたい」
『補助・サポート…ですか?』
「あぁ。さっきも言ったが、この強化合宿は相当キツイ……怪我必須だ」
ーーどんな合宿ッ⁉︎
崖から突き落とされたりでもするの⁉︎
『何か…凄そうですね…』
「そうだな。だからお前の個性は今回の強化合宿と相性ピッタリだ」
『なるほど』
ちょっと安心した…。
ヒーロー科と一緒にキツイ強化訓練させられるのかと思ったよ。
いや、言われればやるけど!
でもいきなり怪我必須はやっぱ、怖い…。
「ちなみに、これはお前の伸び代を見る合宿でもあるからな」
『えっ…!』
私の反応に、相澤先生は目を細める。
「当たり前だ。でなきゃそもそもお前を連れて行かん。もし今回の合宿で成長の見込みがないと判断すれば、当然切り捨てる」
『…!』
やっぱりそういうことだったんだ…。
見込みがなきゃ切り捨てられる…そんなの嫌だ。
せっかくもらったチャンスを
発想を変えるんだ!
この合宿はアピールの場になる!
ここで出来るって所を見せてやればいいんだ!
『このチャンス…必ず生かしてみせます!』
力強くそう言うと、相澤先生はニヤリと口角を上げ、
初めて嬉しそうな顔を見せてくれた。
「良い心掛けだ…期待してるぞ」
『……そういえば、心操くんは一緒じゃなくて良いですか?』
「心操は今回連れて行かん。アイツの強化訓練はまず使い慣れてもらわん事には話しにならんからな…」
『?』
使い慣れる…?
何のことだろう…。
「話しは以上だ。これ、合宿のしおりな。寝坊したら置いてくからな」
『は…はい』
相澤先生はしおりを渡してくれると、会議室を出て行った。
『……完全に寝坊キャラになってる』