第9話
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『うーん…。座りっぱなしだと腰がダルイなぁ』
私は固まってしまった筋肉をほぐそうと、グッと両腕を伸ばす。
そしてそのままペタリと机に突っ伏した。
『心操くん…もうそろそろ帰って来るかな』
なんてぼんやり考えていると、遠くからコツコツと教室に向かって歩いて来る足音が聞こえてきた。
『噂をすれば…』
起き上がろうとした所で、私は少し考える。
いつも心操くんにからかわれてるし、たまにはビックリした心操くんを見てみたい。
そんなちょっとした出来心が芽生える。
……寝たフリしちゃおっと。
そのまま机に突っ伏していると、心操くんが教室の扉を開ける音が聞こえた。
「…苗字?」
ふふふ…。
バレてないバレてない。
「ホントに寝てんのかよ……単細胞だな」
ーー単細胞って⁉︎
人が寝てる時にまで
思わず起きてツッコミたくなるのを何とか堪える。
最も気が緩んだ瞬間に、一気に起き上がってーー…
「……苗字……」
突然、今まで聞いた事がない心操くんの熱の籠った様な声が耳に響いて、私は思わず息を呑む。
…えっ?
何、今の呼び方…。
完全に起き上がるタイミングを失ってどうしようか困惑していると、私の髪を心操くんの手がサラリと優しく撫でる。
その瞬間、私は驚きのあまり目を見開いて
「ーーッ!⁉︎」
『今、何をーー』
心操くんの顔を見た瞬間、言葉に詰まる。
そこには私より遥かに驚いた顔をして、顔を真っ赤にする心操くんがいたから。
『…し、心操…くん…?』
「お前ッ…、起きて……⁉︎」
『ご、ごめん…。ちょっとした出来心で…』
心操くんは私の言葉に眉を吊り上がらせると、顔を真っ赤にしながら私を睨み付ける。
「紛らわしいことすんなッ!!」
『ヒィ⁉︎ ごめんなさいっ⁉︎』
「……ッ」
心操くんは自分の鞄を背負うと、そのまま教室を出て行こうとする。
『えっ、帰るの心操くん⁉︎ 待って、私も一緒にーー』
「お前は一生1人で帰ってろ!じゃあな…!」
バンッ!と扉を強く閉めて心操くんは教室を出て行った。私はしばらくその場で呆気に取られる。
……心操くん、かなり怒ってた?
そんなに寝たフリしたのマズかったかな?
ーーって、違う違う!
問題はそこじゃなくて…!
『…髪…、触られたよね…?』
触れられた髪に手をやると、そこだけ熱が籠ったようにむず痒い感覚が残っていた。
……何で心操くんは髪に触れたの?
何であんなにーー。
『ーー優しい手…だったな…』
先程の感触を思い出し、ドキリと心臓が跳ねる。
私は誰もいなくなった教室で、
しばらく1人で佇んでいたーー…。
『ただいま〜…』
あれから1人でアパートへと帰り、疲れから私はすぐに座椅子に座り込む。
『はぁー…。疲れたなぁ…ご飯作るの面倒臭い』
私はテーブルの上に置いてあったリモコンを手に取ると、何気なしにテレビを点けた。
画面に映し出された映像はLIVE中継だったらしく、女性キャスターがヘリコプターから緊迫した様子で実況していた。
《ーーご覧下さい!突如上がった破壊音と黒煙!!事故によるものか敵の暴動か!まだ全く情報が入っておりません…》
『何、これ…』
テレビ越しに見える映像には、爆発音や燃え盛る炎に黒煙など荒んだ街中の様子が映し出されていた。
一体、どこでこんな事が…⁉︎
何が起こってるの?
ふと、テレビのテロップに書かれていた文字を見て背筋が凍りつく。
【保須市で暴動か⁉︎現場から生中継】
『…保須…市…?』
待って…。
保須市って確か、轟くんが居る所じゃ…⁉︎
『轟くん…!!』
私は急いで携帯を取り出し、轟くんへ電話を掛ける。
『お願い轟くん…無事でいて…!』
しかし無情にも電話のコール音が鳴り響くだけで、轟くんが電話に出る気配は一向に訪れない。
『…忙しいだけだよね?そうだよね…?』
《何だろあれ…!映せますか⁉︎》
『…?』
テレビから聞こえてきた声に、視線を向ける。
そこには高台から街中の様子を伺っている2人組の謎の人物が映し出されていた。
《野次馬…?あんな所から?》
『ーーっ…⁉︎』
一瞬、目を疑った。
私はその2人組の1人に見覚えがあった。
紛れもない…。
それは以前、雄英を襲撃して来た際に出会ってしまったあのーー…危険な目をした男だった。
『何であの男が…⁉︎』
映像はすぐに切り替わり、スタジオの映像が映される。
私はしばらく震えが止まらなかった。
きっとこの事件はあの男が絡んでいるに違いない。
そして何より1番不安だったのは、轟くんと連絡が取れない事。
不安が拭えぬまま、その日私は眠れぬ夜を過ごした…。