第9話
お名前は?
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一瞬、言われた意味が分からなくて、私は困惑しながら心操くんを見つめる。
そんな私の顔を見た心操くんはハッと我にかえった様子で、気まずそうに私から視線を逸らした。
「……こんな風に言ったら、お前すぐ意識すんだろ」
『…!』
「だから轟の事をそうやって意識する事で、自分も好きなんじゃないかって思い込んじまう、ただの錯覚なんだよ…」
『…錯覚…?』
……そうなの?
私が今まで轟くんの事考えたりしてたのは、好きになったからじゃなくて、好きって言われたから意識しちゃってただけ…?
『そっか…。そういう事だったんだ…』
「……」
『ありがとう心操くん…。私、何か勘違いしてたみたい…』
「……あぁ」
今までの全部私の勘違いだった。
まだ私は轟くんの事が好きになった訳じゃなかったんだ…。
「…少し休憩するか。ちょっと席外す」
『うん、分かった』
心操くんは席から立ち上がると教室を出て行った。
姿が見えなくなってからポツリと呟く。
『……でもさっきのは、ちょっとビックリしたな』
ワザとだって分かってるけど、私を好きだって言ってくれた時の心操くんが迫真の演技過ぎて、頭から離れない。
あぁ、そっか…。
これが好きでもないのに意識してるって事なんだ。
もっと冷静に物事の本質を見ないとなぁ…。
『あ…。轟くんからメール来てる』
取り出した携帯の着信に轟くんからの新着メールが届いていて確認すると、"今親父と一緒に保須市に来てる"とだけ書かれていた。
『あれ…?確か保須市って、ステインが現れた場所だったんじゃ…』
大丈夫かな…轟くん…。
何もないと良いんだけど…。
まぁでも、エンデヴァーが一緒ならきっと大丈夫だよね?
何もなく終わってくれる事が何より1番だ。
そしたらまた一緒にご飯食べたり、何気ない話しをして笑って過ごせるーー…。
『……今はそれだけでいいかな』
轟くんがいて、心操くんがいるこの何気ない日常を過ごせる事が今は1番幸せだ。
それに、今まで人を好きになった事なかったから、どうなればそれが好きになった証拠だとかも実際よく分かってない。
だから今はまだ、このままでーー…。
ーーー✴︎✴︎✴︎
*心操視点*
教室を出て行った後、俺は頭を冷やすため廊下を歩いていた。
「……"錯覚"か……自分で言って笑えてくるぜ」
ーーあの時、
感情的になり、思わず自分の気持ちを苗字にぶつけた。
戸惑ったアイツの顔を見た瞬間、答えを聞くのが怖くなって、発言を誤魔化すために咄嗟にそう言った。
ただ自分の気持ちを隠すために…。
「……ハッ、腰抜け…」
力無くそう自虐を吐いて苦笑する。
もちろん、錯覚なんてモノは俺の嘘だ。
幸い、苗字が鈍いおかげで俺が言った事を素直に信じきっていたが。
そう…気付かないままで良いんだよ…。
そうでもしないと、もしお前が轟が好きだって気付いた瞬間、お前ら相思相愛でめでたくハッピーエンド。
2人にとってはこの上ないエンディングだ。
ーーでも…。
じゃあ、俺はどうなる?
何とかして2人が結ばれない方向へと導く。
こんな事言えば、他人が聞けば卑怯者だと言って非難するだろう。
けど、それでもーー…!
ーーアイツにお前を渡したくねぇんだよ…!
乱れた心を落ち着かせるために、俺は自販機で飲み物を買ってしばらく休憩した後、教室へと戻っていた。
…何か気ィ削がれたし、今日はもうこのまま終わるか。
ーーガラッ
教室の扉を開けると、苗字は自分の席に体を伏せて眠ったような格好をしていた。
「…苗字?」
俺は近付いて苗字の顔を覗き込む。
苗字は目を閉じて静かに寝息を立てていた。
「ホントに寝てんのかよ……単細胞だな」
起こそうと近付けた手を止めた。
何となくこのまま起こすのがもったいなく思ったからだ。下校時刻をとっくに過ぎた教室には、俺達以外の生徒は誰も残っていない。
今は苗字と2人きりだ。
最初は勉強を教えるなんて面倒臭いと思っていた。
けれど今は、この時間が自分にとって心地良い空間になっている。
何故なら、必然的にお前とこうして一緒の時間を過ごせるから。
誰にも邪魔されず、今はお前を独占できる…。
「……苗字……」
触れたくなった気持ちを抑える事が出来なくて、俺は苗字のサラサラした髪を