第9話
お名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……名前、大丈夫か?」
『へっ…⁉︎』
ーー次の日の昼休み。
私は轟くんと一緒に食堂で昼食を取っていると、轟くんは突然そう言って心配そうに私の顔を覗き込んで来た。
『わ、私…何か変?』
「変っていうか……目の下、
『あぁ〜…うん、まぁね…』
案の定、昨日は心操くんに言われた課題を仕上げるのに思いの外時間が掛かり、やっと眠れると思った頃には夜中の1時を回っていた。
意地でも終わらせないと、もう勉強見てもらえなくなっちゃうしね…。
「やっぱそうなのか。快眠にはココの手首のツボを押すとーー」
『だ、大丈夫だよっ!心配してくれてありがとう、轟くん!』
「何だ、いいのか」
轟くんは少し残念そうに呟く。
そんなにツボ、教えたかったの…?
『最近寝る前に勉強してて、昨日はちょっとそれに時間掛かっちゃって…』
「勉強してんのか。偉いな。そういやもうすぐ期末テストあるしな」
『うん。私、あまり頭良くないからさ。雄英もめちゃくちゃ頑張って何とか入れたってカンジだし…。勉強しないと、ちょっとヤバくて』
「普通に授業受けてりゃ、テストで赤点取る事ないし大丈夫だろ」
『ぐふっ…』
轟くんの一言に口に含んでいた水を吹き出しそうになった。昨日心操くんが言ってたのと同じ様な事を言われてしまったのだ。
轟くんのは心操くんと違って悪意ない分、
余計にその一言が突き刺さる…!!
痛い…、心が痛いよー!
私だって真面目に授業受けてるはずなのに…。
『そういえばヒーロー科って、もうすぐ職場体験があるんだよね?いつからなの?』
「明日からだ」
『そうなんだ!轟くんどこの事務所に行くの?』
「……親父のとこ」
『ーーえっ⁉︎』
意外な人物の名前が轟くんから発せられ、私はかなり驚く。
「今までの事、許した訳じゃ無い。ただ…奴がNo.2と言われてる事実を確かめてやろうと思った」
『…轟くん…』
そう言った轟くんの表情は何処か清々しくて、私は嬉しさで顔が
前までの轟くんなら絶対に有り得なかった事…。
本当にちゃんとなりたい自分のために、歩み寄ろうとしてるんだ…。嬉しい…。
『頑張ってね、轟くん!ちなみに体験っていつまで?』
「1週間あるらしい。だから、しばらくは会えねぇな」
『そっか…』
「…寂しいか?」
『うんーーー…えぇっ⁉︎』
あまりに自然な流れで聞かれて、つい口が滑ってしまった。轟くんも驚いた様子で目を丸くしている。
『あっ、ちがっ…いや、違くないけど……って何言ってんの私…っ!』
自分でも何を言いたいのか良く分からなくて、何と説明しようかジタバタしていると、轟くんは優しい目を私に向ける。
「俺は寂しいよ」
『!』
「今のは名前の本心だって受け取っていいか?」
『…っ、は…はい』
そう言うと轟くんは嬉しそうに微笑む。
その表情に、私は恥ずかしいような嬉しいような、甘酸っぱい感覚に襲われた。
「連絡、いつでも入れてくれていいから。その方が俺も安心するし」
『うん…分かった。時間ある時送るね?』
「あぁ。待ってる」
何だろう…この感覚…。
何か今、すごく幸せって感じだ…。
この気持ちは一体ーー…?
ーーー✴︎✴︎✴︎
「ーーイ…、ーー…オイ、苗字!」
『ーーッ⁉︎』
名前を呼ばれてビックリすると、心操くんが眉を吊り上げながら私を睨んでいた。
あ、ヤバッ!
今心操くんに勉強教えてもらってる最中だった…!
『ご、ごめん…!何だっけ?』
「何だっけじゃないだろ。お前……今また違う事考えてたな?」
『えっ…⁉︎』
図星だった。
ちなみに今日は轟くんが職場体験に行って3日目。
少し集中力が切れて、轟くん今頃何してるのかなーっと何気なく考えていた所だった。
「お前な……俺に教えてもらってるって自覚あんのかよ?」
『もちろんだよ!いつも感謝してーー』
「だったら、俺といる時に他の男の事なんか考えるな」
『…えっ…?』
空気が一瞬変わった気がした。
思いがけない一言に私が固まっていると、心操くんは何だか切なげな表情で少し目を伏せる。
「……今は、勉強に集中しろ」
『あっ…そうだよね。ごめん…』
……ビックリした。
一瞬、違う意味に聞こえちゃったよ…。
とはいえ、何だか少し気まずい雰囲気が漂っていて、私は心操くんの顔色を伺おうと顔を上げると、向こうも私を見つめていたみたいでパチリと目が合った。
『……』
「……」
えっ…?
何この気まずい沈黙は⁉︎
な、何か話さないと…!
『えっと…』
「お前さ、最近アイツの事良く考えてるよな」
『えっ…?』
「なに…、まさか轟の事好きになったのか?」
『ーーっ⁉︎』
衝撃の一言に、心臓がドクリと跳ねた。
前にも1度、心操くんに同じ事を聞かれた事がある。
その時はまだ出会って間もなくてすぐに否定出来たけど、今は色んな轟くんをそばで見てきて、知らなかった轟くんの事がたくさん知る事が出来た。
轟くんと一緒にいると、ドキドキしたり心があったかくなったりする事もある。
それに、気が付いたら轟くんの事を考えている時間が、前より確実に増えた。
「もっと意識してくれ。頭ン中、俺の事しか考えられないくらい…。そうなったら、俺の事好きになってくれたって事だろ?」
ふと、頭の中で前に公園で轟くんに言われた言葉を思い出し、カァっと顔に熱が籠った。
これって…本当に私、轟くんの事を…?
『……まだ、ハッキリ分からないけど、轟くんを意識してるって事は、好き…って事になるのかな?』
「……っ」
『…心操くん?』
答えが分からなくて心操くんを見つめると、何故か心操くんは傷付いたような顔で眉間にシワを寄せていて、私は戸惑いながら声を掛ける。
「……だったら」
『…?』
「だったら、
ーー苗字の事が "好きだ" って言ったら、お前…俺を意識してくれんの?」
『ーーえっ…?』